第3幕 焼き尽くす業火
第27話 競争の走破遺跡 レーサー
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの物語であった。
――走破遺跡 レーサー
クエエエエエッ!
「右、右、右だってば。あああ何で左によるのさ! あーそっち違う、こっちだって!」
走破遺跡レーサー内。大勢の観客が見守る中、二ャモメ団の三人はレースに参加していた。
トレジャーハンター同士が腕を競い合う息抜きイベントで、上位入賞者の商品はもちろんスフィアだった。
「あははー、言えば言うほど逆方向に向かってくねー」
区切られたレースコーナーで選手を乗せて走るのは、ニワトリを大きくしたような丸々とした生物、コケトリスだ。
しかしニャモメ団のそのコケトリスは、騎乗人物の意向を絶賛ガン無視だった。
「うーん、このコケさん……なんだか怒ってるみたいに見えるよ。ポロン、怒らないでってお願いしなきゃ」
そんな生物コケトリスの背に乗った内の一人ポロンちゃんは、そう言って種族を越えたコミュケーションにチャレンジしている。
「ほんとーに僕たちの言う事全然前聞いてくれないねー。ポロンちゃんが頼んでもダメなんてー。ある意味レアだよねー」
「こんなレアいらんわっ、トレード! トレードを要求するっ」
「受付済ませるのが遅くなっちゃったせいでー、このコケトリスしか選べなかったんだよねー」
「ああああっ、もうだからそっち違うって。次は左!」
グェェェェェェッ!!
「トレードって言われて怒ったんじゃないかなー? ボク達の言葉分かるのかなー」
右カーブと左カーブの選択分岐点において、指示した方とは逆の方へ走っていくコケトリスを見てケイクが言った。
「あああああ、そっちは外れルートなのに……。せっかくアゲハをどついてコース情報入手したってのに」
「アゲハちゃんがどうしたの? そういえば、この前アゲハちゃんしくしくえーんえーんしてたよ。何か悲しいことでもあったのかな」
「うーん、何があったんだろうねー」
ケイクは不思議そうにしているポロンちゃんに、情報屋の少女の不幸をぼかした。
「でも、今回は割とましなほうじゃないかなー」
「どこがっ」
「いつもだったら大体この辺で、あーはっはっは……とか、火炎ぶわぁー……とか来るんだけどねー」
「そういえばあいつらの姿見てないけど」
乱入なじみとなったライバル相手や悪人の姿を探してみる。きょろきょろ。いない。
「風でも引いちゃったのかなぁ」
きょろきょろ。念入りに確かめてもいない。
「まさか。バカは風邪ひかないんだよ、ポロンちゃん」
「えっ、そうだったんだ。すごいねっ」
「感心してる……。ああ、うんそうだった。ポロンちゃんだもんね。そういう反応だよね」
コケトリスは、もはや後戻り不可能な形で、見事に望んだ方とは逆に走り込んでいる。
景色がすごいスピードで後ろに流れていく。
まったくの躊躇も迷いも見せない走りだった。
「まー、何にせよ、いないほうが良かったんじゃないかなー」
「ま、そうか。これで優勝は難しくなったけど。妨害がないなら、上位入賞くらい狙えるかもしれないし。てか、こいつ指示出さないほうが早く走んのかい」
キャモメ団は前向きになった。
前向きになったところで、数秒。
前向きタイムは終了した。
隣を並走する走者が、何やらリモコンの様なものをおもむろに懐から取り出しながら、忍び笑いしていた。
「くひひひひ、このボタンを押せば。観客席はドカンだ。くひひ、さあ、もうすこし、近づこう」
と、コケトリスを操って、観客席のほうへ向かっていく。
「……聞いた?」
「聞いちゃったねー」
「ふぇ?」
ポロンは右に首をかしげた。
「どうする?」
「どうしようねー」
「ふ?」
ポロンは左に首をかしげた。
「だああああ。どいつもこいつも、他人の邪魔しやがってーっ!」
「ねー」
「ぴゃ」
結論を出したことによる、急な加速と方向転換によりポロンは意図せずかくんと頷いた。
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