第19話 虚栄の分裂遺跡 ラグゲンガー
古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。
しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。
これはそんなトレジャーハンター、赤風団の物語であった。
――分裂遺跡 ラグゲンガー
トレジャーハンターである赤風団の二人、ルナとガルドは分裂遺跡ラグゲンガーに立っていた。
『あの、お体の具合がよろしくないんでしょうか、ガルド様』
「いや、少しばかり考え事をしていただけだよ。……しかし、ふむ。本当にルナはどうしてしまったのかな」
本気で心配そうな表情をしているルナを見ながら、ガルドは戸惑っていた。
場所は遺跡内部の隠し部屋、人が変わったり凶悪になったりといういわくつきの遺跡だ。
「この部屋の中央で粉々に砕け散っているスフィアが関係しているのだろうね、これは。遺物が壊れてしまっても、不完全だけど力が発揮されている……みたいだ」
『あの、完全に分身できなくてすみません。こんな中途半端な二重人格みたいになっちゃって、迷惑ですよね……」
普段のルナなら絶対しないような表情を浮かべて、ルナ本人ではない別人格ルナはそう言った。
「いいや、君のせいじゃないさ。ボクとしては不満はないよ。あの傍若無人なわがまま姫が、とちょっと戸惑っているだけさ。さすがのボクでもね」
体分身ではなく、精神分身してしまっている相方を見て、さてどうしようかとガルドは考える。
「ああああああっ、さっきから人の
「やれやれ静かな時間は終わりのようだ。久しぶりだね、ルナ」
いつもと違って静かな雰囲気の中考えを巡らせていた所に、聞きなれた声……本物人格ルナの声がした。
「ぜーっ、ぜーっ、人格二つがあるって意外と難しいのね、中身が色々と大変だったわ。やっと出てこられた……」
どうやらいろいろな事情があって、騒がしい方のルナは出てくるのに苦労したらしい。肩で息している。
『ご、ごめんなさい。私のせいで』
「そんなメソメソ喋んないでよっ、私はそんなキャラじゃない!」
『す、すみませんごめんなさい許してくださいぃ……』
一つの体で、怒ったり泣いたりだ。
めまぐるしく感情が入れ替わるその様子を見て。
「ふむ、なかなか面白い光景だね」
「面白がるな!!」
ガルドはそんな感想だった。
「まったく誰がこんなハタ迷惑なことしてくれたのよ。貴重なスフィアを持ち帰ることもせずぶち割るなんてっ。おかげでいい迷惑よ!!」
「まあまあ、少し落ち着いたらどうだい。幸い大したことは起きてないのだし」
「大した事よ!! なに呑気にランチセット広げてるのよ!!」
ちゃぶ台ならぬランチ用簡易テーブルをひっくり返す。
「また、テンプレートな怒り方だね」
『あのあの、ごめんなさい。どうか怒りを鎮めてください』
「原因が言うなあー!!」
ところ変わらず火炎放射器で焼き始めるルナ。いつもの光景だ。
「あたしは嫌よ、こんな体質。勝手に喋ったり、動いたりするなんて。絶対嫌! 気色悪い!!」
「すごい暴言だね、それは。しかし、ちょっと言い過ぎじゃないのかい? 別にその人格はどこからともなく出て来たわけじゃないと思うよ。たぶんだけれど、ルナの潜在的な……」
「あーはっは……、うおおおおお!! 何という事だ、登場したらスフィアが割れていた!!」
ガルドの説明を遮るように、暗黒団の悪人が高笑いと嘆きの声を連れて登場した。
「おや、生きていたようだね。メロディアで散々いじめておいたのに」
「何の用よ悪人面、こっちは今取り込み中なのよ。それと、スフィア割ったのは私たちじゃないわよ」
「オーマイガッ!! 何て事だ遺物の価値の分からない愚物共が、私の先を越しただけでなく、破損させてしまうとはっ。おおおおお、これがあれば我が野望の達成に大いに貢献するはずだったのに」
諦めきれないのか、未練がましいよう様子でカケラを拾い集め始める悪人。
「ちょっと待ちなさい、元に戻る貴重な手がかり渡してたまるもんですか! それじゃなくてもあんたの悪行のせいで、皆、害を被ってるっていうのに! ガルド!!」
「やれやれ、しょうがないね……。ちょと今、精神不安定で破壊神気味な君を一人で戦わせるのは心配だからね」
「だれが破壊新よ!!」
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