第9話 不安の砂上遺跡 サンドアート



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんなトレジャーハンター達の物語であった。





――砂上遺跡 サンドアート


 赤風団のルナはいつもの相棒を隣に置くことなくポツリと一人でいた。歩いているのは砂上遺跡サンドアートの内部のどこか。


「あつーい! 普通建物の中入ったら涼しくなるはずでしょ、なんでこんなに暑いのよーっ!」


 文句を言いながら、際限なく浮かんでくる額の汗をぬぐう。


「おまけに右を見ても左を見ても、砂色一色じゃない。視覚的にも暑苦しいわよっ。砂しかない砂漠からやっと解放されると思ったのに。砂色で、砂で作られてて、しかも砂のにおいがするとか、拷問!?」


 相槌が返ってくるはずの無い言葉を言い続けたせいか、疲れた足取りだった。


「……。何よ、ちょっとへそ曲げてたぐらいで怒っていなくなるなんて……、あんたのせいで迷子になっちゃったじゃない。ガルドの……、ガルドの馬鹿ーっ!!」


 現在地不明の遺跡の内部で立ち止まって、ルナは声の限りを尽くしてその場にいない相棒に向かって叫んだ。



「あつーい。蒸し鶏の気持ちってこんな感じなのかなー。まー、蒸されてる時点で生きてないんだろうけどねー」


 砂久しい遺跡の中スフィアの力なのか、ほのかに発熱しているらしい砂壁をぺたぺた触りながらニャモメ団のケイクは歩いていた。


「のど渇いてきたなー。このままだと屋内にいるのに熱中症になっちゃいそーだよねー」ケイクのターン。「昔は日射病って言われてたんだっけー。どっちでもいいけどねー」そのままケイクのターン。「うーん、さすがに誰も相槌入れてくれないとさみしくなってきたよー」ずっとケイクのターン。


「あ、人だ。ミリ? ポロンちゃん? 第三者さん? あー、火炎ばら撒いてた人かー。体育座りして俯いたりなんかしてどうしたのー」


 ターン終了。


「……なんだアンタか。二ャモメ団もここの遺跡に潜ってたの、……一人? 他の連中は?」


 ルナは目の辺りをごしごしとこすってから、こちらを向いた。


「はぐれちゃったんだよねー。何か面白い事でもあったー?」

「おもしろおかしくて泣いてたんじゃないわよ! って、なっ、泣いてなんかないんだから」

「じゃー、山葵がきつかったとかー」

「そんな事で泣かないわよ! 子供じゃあるまいし。……この会話、いつもと同じじゃない。アンタとガルド、精神構造が似てるんじゃないの」

「なるほどー、いつも食べちゃうぐらいルナは山葵が好きなんだねー」

「そっちじゃないわよ!!」


 ルナは思わず突っ込みとして、ガルドにやるように手刀を頭に叩き込んでいた。


「ところでそっちも一人ひとりなんだねー。はぐれたのー?」

「この切り替えの早さ、突っ込まれ慣れてるみたいね。馬鹿なあんたたちと違ってあたしがはぐれたり、迷子になったりするわけないじゃない」

「そーなんだー。でも、僕迷子とは言ってな……」

「ガ、ガルドが勝手にいなくなっただけなんだから。この間の失敗の責任はアイツのせいなんだから、それをそのまま言ってやっただけなのに……。馬鹿馬鹿ばーっか!」

「よーするに、ケンカして別れちゃったんだねー」

「違うっつてんでしょ」


 そんな調子でケンカ腰で話しながらしばらく歩くと、今まで部屋というものは存在しないんじゃないかと思えるほどドアの存在しなかった砂壁に、一つの取っ手が現れた。


「部屋なんて無い遺跡だと思ってたけどー」

「あったわね」


 警戒しつつもルナは、砂で出来ている取っ手を回す。

 そして中身を見回して、首をかしげた。


「何これ」

「鳥だねー」

「そんなことは分かってるわよ。なんで、やたらカラフルで肥満気味で申し訳程度にしか羽がはえてない鳥が、こんな所にいるのって聞いているのよ」

「何でだろうねー」


 部屋の中央で、ダイエットか何かなのか羽をばたつかせていた鳥がこちらを向く。

 目が合った。つぶらな瞳だった。


「キューイキューイ♪」

「やたら嬉しげに駆け寄ってくるけど、知り合い?」

「鳥に知り合いはいないよー。クラゲにはいるけどねー」

「キュイキュイキュイ? キュウッキュウッ!」

「やたら好意的な様子で私達の周りを回り始めたけど」

「仲間だと思われてるとかー」

「失礼ね、私はこんなにオデブちゃんじゃないわよ!」


 ルナの叫び声がした後、驚いたのかグルグルしていた鳥が一時停止した。


「あ、ごめん。別にアンタに怒ったわけじゃ……って何で鳥に弁解してるのよ」

「こっちの言葉通じてるのかなー」


 通じてないらしい。

 鳥は涙に瞳をウルウルさせて、部屋を飛び出していってしまった。


「キュキューーー……イ」


 キューイ……ューイ……ーイ……と悲し気にエコー効果をつけながらどこか遠くへと行ってしまった。


「あーあ、ルナが怒ったから逃げちゃったよー」

「アンタが怒らせたんでしょ! ……そういえばアンタ誰だっけ」

「いきなり記憶喪失とかー? 青魚とか食べたらそういうのに良いって聞くよー」

「ボケてないわよ! ああもう、なんか疲れてきた。他の二人はよくこんなのといられるわね。私が言いたいのは名前よ名前」

「僕的には、ガルドさんと同じ位のお叱り量だと思うんだけどねー。……あ、ほらまた青筋でてる。怒らない怒らないー。名前だよねー、忘れてないよそれくらいー。僕の名前はケイ……」

「キュイイイイイイイィィィ!!」


 鳴き声が被って、お菓子みたいになった。


「ケーキ? 変な名前ね。というか、何か声が聞こえて……」


 さっきの鳥が戻ってくるのを見た。鳴き声が同じなので予想はついたが。

 その鳥の背に、


「ふっ、ボクの命の恩人をいじめる奴らは許せないな。午後のティータイムの用意をしている間に仲間とはぐれてしまったこのボクを、さまよい地獄から救い出してくれた恩は必ず返すからね。どれどれ、どんな人なんだい。安心するといいさ、赤風団の名において、どんな強敵が立ちはだかっても……」


 乗っているガルド。


「キュイ!」「キュイ!」「キュイキュイ!」「キュイーッ!」

「必ず倒して見せるからね☆」


 雛鳥らしきもの達をさらに頭に乗っけたガルドがいた。

 それを見て、


「アンタ何やってんのそこでー!!」


 ルナは当然そう叫んだ。


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