第8話 怨恨の森林遺跡 グリーンモス



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの物語であった。





 ――森林遺跡 グリーンモス 


「くらいなさいっ、ファイアーっ!! ガルドあんたも何か攻撃しなさいよっ」

「僕は、冷静担当だからね。凶暴担当はルナ、君に任せることにするよ」

「だれが、凶暴ですって!!」


 森の中にある苔むした森林遺跡グリーンモスの中で、対峙するのは二組のトレジャーハンターだ。

 現在声を上げている方の一組は、多数の遺跡をスフィアもろとも崩壊させる事でなじみの赤風団。灼熱地獄ヘブンリー・ヒートこと、ルナという女性と、恐れというものを忘却したような物言いのガルドという男性。

 そしてもう一組は、潜った遺跡で必ず何かしらトラブルがおきる事で有名な、幾千旗手サウザンドフラッグこと二ャモメ団。もちろんメンバーは、ミリ、ケイク、ポロンだ。


「火炎放射器を、人に向けてぶっ放す奴があるかあっ! そんなんだから、遺跡がぶっ壊れるんじゃあっ!」

「よい子はまねしないでねー。消火器とかでー」

「ケイク君、お空にお話してるけどそこに誰かいるの? ポロン見てるけど誰もいないよっ?」


 炎をあびせられている三人は、伸びる立てる喋れるの三大効果つきスフィアの盾をかざして防いでいる。

 襲い来る炎熱を必死で一番前で防ぐミリ、しかしその後ろのケイクとポロンちゃんに緊張感は無い。


『アツイーアカイー』

「わー、ほんとに喋るんだねー。しかも手を離しても自分で立つらしいよー」

「すごいねっ、盾さん頑張ってね。ポロンたちも頑張るからっ」

『ガンバルー』


 ミリの手にある、炎熱無効化のスフィア……しゃべる盾と呑気に会話イベントを発生させている。


「そこ、スフィアと友情してない! 何か打開策考えないと、このままずっと足止めくらうって。ああ、もうっ……。何でこんな事にっ!」

「何でだろうねー」


 と頭を抱えながら、こんなことになった経緯を軽く思い出してみる。

 鬱蒼とした森の植物をかきわけ遺跡の中にたどり着いたとこまではいい。問題ない。

 苔むした内部を探索しつつポロンちゃんが迷子になったり、崩れていた箇所からうっかり落ちそうになっていたりしていた所までもいい。まったくいつも通りだ。

 だが、スフィアがあるらしい部屋に来た所で問題が起きたのだ。

 遺跡を建造する人間の頭はどれもトチ狂っているのか、それとも綿密に計算されていた何らかの意図があったのか、その部屋に通じる扉は二つあったのだ。

 扉をあけてやっと到着かと思いきや……。


「向かいの扉も開いたんだよねー。パカって、同じタイミングでー」

「それだけなら、まだやりようがあったでしょうがっ。な、ん、で、問答無用で攻撃してくるのさ!?」

「勝負はせーせーどーどー、しなきゃっ。ジャンケンとか、あっちむいてほいとかして、仲良く公平に決めなきゃダメなんだよっ!」

「そんな勝負はさすがにしたくないけどっ!」


 文句を飛ばす(一割ポロンちゃん)行方の、相手の赤風団の二人はというと。

 連続使用で威力の弱くなってきた火炎放射器を捨て、一瞬でガルドの差し出した火炎放射器を放つ。徹底抗戦の構えだった。


「さっさと、逃げなさいよ。さもなくば丸焼きになるまで焼くわよ」

「うん、この火加減、魚を持ってこればついでに昼食にできたね。きっとおいしく焼けるはずさ」

「だからガルド! あんたは傍観してないで加勢しなさいよ!!」


 火炎を撒き散らしながらブイブイ言ってる相棒を横に、もう一人の方は至ってマイペースだ。

 ガルドは持ってきた手荷物から食器や具財を出し始めた。


「カリカリしてると、老けていくよ? お腹もすいたしお昼にしようか」

「誰のせいよ!! それどころじゃないでしょ!!」」

「さて、それは誰のせいだい? おや、向こう一人たりないみたいだよ」

「あっ、あの天然記念物っぽいポヤポヤしたのがいない」


 ルナが炎の向こうに目をこらすが、天然記念物っぽいポヤポヤした子ことポロンちゃんの姿がいつのまにか見当たらなくなっていた。


「ん……雨? そんな、まさか。ここ建物の中でしょ……」


 冷たい雫がどこからともなくポタポタと落ちてくる。

 天井にある小さな穴から降っていた。

 ミリが悪い顔になって勝ち誇る。


「ふっふっふ、聞いて驚け。あんた達とかち合う前に、ウチ等は遺跡の制御室に行ってんだよね」

「いざというときの備えしておいたんだよー。いやー、ポロンちゃんが間に合ってよかったー。説明書あげたの読んで動かしてくれたみたいー」

「まさか、あのポヤポヤ娘がこの雨を!」


 やられた、とルナは嘆く

 雨に打たれたせいか、火炎放射器の火がだんだん小さくなっていく。


「よっしゃ、これで形勢逆転。さっさと、尻尾巻いて逃げて昼寝でもしてれば? 素直に泣きながらごめんなさいーって謝れば許してやらないこともケドお?」 

「ふふふふふ……」


 ミリの言葉を聞いて、ルナは肩をプルプルと震わせながら不敵な笑いを発する。


「あーあ、これは大変だ」


 傍観者ガルドは最後まで傍観気味だった。


「これで、勝ったと思うな! くらえっ、負け惜しみ用超絶破壊兵器、火炎君五号!!」


 火の消えた武器を捨て、背後にやった手が何かを握って、そして戻ってくる。

 先ほどの物のサイズより、一回りも二回り……十回りくらいも大きな筒状の物体だった。


「ちょっ、ちょっと、だからそんな物騒なもん人に向けんなって……うわわわわ」

「負け惜しみ用だってー。最初から準備してたのかなー。おっと、逃げなきゃー」


 脱兎のごとく逃げ出した二人の背中に向かって、容赦なく引き金が引かれる。


「レディ、ファイヤー!!」


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