第1幕 真空の歌姫

第1話 恐怖の天空遺跡 エアリアル



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型の物から、消しゴムのような小さな物まで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんな者達……、三人のトレジャーハンターの物語であった。





――天空遺跡 エアリアル


「なんじゃぁこりゃあ―――!」

「すごい大群だねー」


 視界を埋め尽くす白い物体にミリは叫び声を上げた。

 マイペースにその叫びに答えるのはケイクだ。


「右を見ても白!左を見ても白!前も後ろも白、白、白!どうなってんじゃあっ!!」

「端的にいうと骸骨、なんだよねー」

「くぉあらっ! せっかく人がオブラートに包んで言ってるっていうのに」

「オブラートってあれだよねー、食べれるやつー」

「そっちのじゃなーい。てか、そのオブラートも食べるのが主目的じゃないし!」


 エアリアル天空遺跡


 昔々の古代の人々が、今は失われた文明の力で浮かび上がらせた建物。

 その建物の中で、骸骨達に追いかけられている二人のトレジャーハンターがいた。

 そんなホラーな追いかけっこをしている二人組の片方、弓使いの少女ミリは、隣を走るもう片方、短剣使いの少年であるケイクの手元をはたく。


「とりゃっ、お菓子食べながら逃げるとか、この状況なめてんの!?」

「このチョコゆっくりなめるとー、じんわり甘味が溶け出しておいしいんだよねー」

「そのなめてるじゃなぁい! 人の話をちゃんときけぇー!」


 何度になるか分からない不毛なやり取りをしながら、遺跡の出口にまっているはずの飛空艇イルカ号を目指して走る。


 遺跡の最奥までたどり着いたまでは良いのだが、やたらとでかでかしい宝箱をあけてしまったのが運のつきだった。中に入っていたのは王冠を頭蓋骨にのっけて赤いマントをはおった王者風の骸骨一人(一体?)。けたたましい警告音が遺跡に鳴り響き、王者骸骨が起き上がると同時に、いったい今までどこに隠れてたのかと驚くほどの大量の骸骨達が集まりだしてきたのだ。


「結論からすると今回はハズレって事でしょ!」

「今回も、だよねー」

「言い直すなっ。生活費がカツカツなの思い出しちゃったじゃん。あの子ともはぐれちゃうし……」


 トレジャーハンターが生計を立てるといったら、遺跡のお宝であるスフィアを売っぱらわねばならない。当然、スフィアがなければ生活はままならない。

 悲惨な未来を頭上に空想しながらそのまま走り続けていると、視界に毎度おなじみの白色がちらついた。


「あ、なんか回り込まれちゃったみたいだねー」

「ぬああっ……、筋肉無いくせになんつー足の速さ」


 今まさに進もうとしている道の先、前方の右曲がり角から、白い物体がわらわらと姿を見せ始めた。


「こうなったら正面突破しかない。突っ込む!」

「おっけー」


 二人は白い群集に突撃してそれぞれの得物を振り回す。

骸骨達は驚くほど軽々と吹っ飛んでいく。


「亡者はおとなしく墓に入って、眠ってろっつーの」

「ホントだよねー」

「あっ、骨取れた。うわ何こいつ、骨密度高っ、硬っ」

「骨とか皮とかないからすぐとれちゃうみたいだねー」


 しばらくミリケイク無双をして骸骨達を蹴散らしていると、例の王者風骸骨が目を光らせた。


「いまあの骸骨、絶対”しめた”って思ったよ」

「何言って……。って、そこの骸骨! 隣のお仲間の骨抜かない! ああっ言わんこっちゃ無い……ばらっばらに」


 訝しげにするミリの目の前で骸骨達は次々と互いの骨を抜きあっていく。

 骸骨達は後からやってきては、その作業を繰り返す。次から次へと、次々に。ちょっとした骨山ができてしまうくらいだ。


「なにこの共食い的なホラー景色……、ってまさか!!」

「生き埋めだねー」

「埋まるっっ!!」


 慌ててその場を離れようとするが、目が無いくせに目ざとくその様子に気づいた王者風骸骨が、片手をびっ、と上げた。

 合図だ。

 つまりは、あれだ。


「わー、骨山がくずれてくるー」

「埋まってたまるかぁぁぁ―――!!」


 白い雪崩が発生した。






「ぜぇ、はぁ……。死ぬかと思った」

「大変だったねー」


迫りくる雪崩から夢中で逃げていたら、いつの間にか遺跡の入り口まで戻ってきたようだ。外からの光が遺跡の内部に射し込んできている。


「あ、あそこにいるのポロンちゃんじゃない?」


 外に停めてある飛空船イルカ号の前に、人影があった。


「ウチ等より後ろではぐれたってのに、何で前にいんのさ……」


 ともあれ仲間である三人目、踊り子の少女ポロンは無事なようだった。


「あれー? 何か言ってるよー。……けて? ……分かったー。逃げて……だってー」

「へ?」


 たった今遺跡からでてきた二人は、その白色を目撃した。

 泣きながらこちらへ走っているポロンの背後にいる、白い骸骨達を。


「何でぇ!?」

 

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