2番目のダンジョンに挑むには……

荒音 ジャック

第1話・いざダンジョンへ!

 これはひとつの大陸が、4人の女神たちの手によって、四つの島に分けられた世界でのこと……

各島には女神たちが勇敢な者を見つけるため、あるいはただの余興で沢山の財宝と資源が眠るダンジョンを創り出した。

 そして、4人の女神の1人である「地母神」の島で、ひとりの若き冒険者がその島で2番目に攻略が難しいと言われているダンジョンに挑もうとしていた。

 地母神の島「ブリージング島」緑にあふれた草原と様々な植物が繁茂する原生林が広がるこの島は、豊穣の恵みを与える地母神の加護で満ち溢れている。

石レンガ造りの城壁に囲まれたブリージング島唯一の町「ツトトカ」にある冒険者ギルドにて……

 時刻は朝の9時、冒険者も人それぞれ……受付でクエストを受ける者もいれば、パーティーの仲間とテーブルを囲んで今後の方針に関する会議をする者たちもいる。そして、これから夢を追い、絶望に打たれることを知る由もない冒険者になる者……

 そんな中に、ひとりの青年が受付にいた。

栗色の短髪で、左肩と胸部に鉄板が打ち付けられた焦げ茶色のレザーアーマーを纏っており、背中には鞘に収まった刃渡り1m程の直剣と直径60cmの金属製のラウンドシールドを背負い、盾と鎧についた小さな傷の数々が、使い手の経歴を物語っている。

青色の制服と着て、同じ色の帽子を被った受付の女性は笑顔で対応していた。

「エネルさん! 本日はダンジョンの探索ですね? 北の山の麓にあるダンジョン・ガトカ洞窟!」

エネル・トーパー 20歳、3年前にこの島で冒険者になった青年で3年の時間をかけて、ようやくこの島で2番目の難易度を誇るダンジョンへ潜ることが出来るようになったのだ。

エネルは「ああ、今回は偵察だ」と受付に言って一枚の紙を提出し、受付のカウンターを離れた。

(準備は出来てる! 情報も揃えたが、不明な点が多い。それを確かめるための偵察だ)

 エネルは周到な性格の冒険者だった。いつもクエストやダンジョン探索もソロで行くが、必ず情報を収集し、装備を整えて偵察をする。

 エネルは冒険者ギルドを出て、街の門へ向かった。

ツトトカの住人のほとんどが冒険者で、商人などもいるが、島の設備では賄えない品を扱っている。

(ポーションは買ってあるから大丈夫、とりあえず5日分の食料と飲み水だな。ダンジョンまでの道中は食料になる魔物や植物はあることだし、今夜と明日は何とかなるだろ)

 ダンジョンは1日で攻略できるものではない……地下迷宮などは特に危険とされているのが、閉鎖空間による方向・時間感覚の鈍化が起こりやすいからだ。

 町を出て、エネルは北の山へ向かった。

(今日は天気がいいな……絶好の冒険日和だ!)

町を出て早々に、馬車や他の冒険者とすれ違いながらエネルは呑気にそう思う。

 だが、少し今の現状に名残惜しさを感じたりもする。

(とはいえダンジョンに潜ったらこの太陽とは生きて帰らない限り再開は出来ないか)

 やがて日が暮れ、そして夜が明ける……

エネルは目的地のダンジョンである洞窟の入り口に、ようやく到着した。

 崖の下にぽっかりと開いた洞窟で、入り口から見える洞窟の奥は真っ暗な闇が広がっている。

エネルは火の灯った松明を左手に持って、その明かりを頼りに洞窟内を歩いていた。

「変だな……入って2日になるのにモンスターとエンカウントが無い」

暗い洞窟を歩いていると地面に白い線が引かれ、ぼんやりと辺りを照らす石が地面にはめ込まれた場所についた。

「おっ! レストルーム(安全地帯)か……ここまで隠密スキルを使わないで戦闘無しで来れたのも珍しい……」

 エネルはそう言いながら壁の近くにドカリと腰を下ろした。

(孤独には慣れっこだ! このダンジョンをクリアしたら楽しみがあるからな)

そう思いながら、エネルは荷物の中から包み紙に包まれた干し肉を取り出す。

 そして、翌日……

レストルームを出てエネルは行く手を阻む扉の前で立ち止まっていた。

「やっと部屋についたか……鍵は掛かってないな」

扉を開けると、そこは火の灯った燭台が並ぶ石レンガで出来た廊下になっており、辺りには道中で命運尽きたであろう鎧や衣服を纏った白骨死体がいくつも転がっている。

(うーん、俺より先に潜って1ヶ月は経ってるな。恐らく全滅するような相手から逃げようとして疲弊していたところをリスポーン(復活)したモンスターに挟み撃ちにされた……)

落ちている武器は、ほとんど折れたりヒビがはいったりで使えそうもない。

 エネルは鎧の腰についているポーチなどを漁った。

「ポーションも瓶が割れててダメか……」

使えそうな物はひとつもない……エネルは仕方なくその場からさらに奥へ進むと、こちらに向かってくる足音が聞こえた。

聞こえる限りでは、鎧のガッチャガッチャと揺れる音が聞こえるところ、自分より先に潜っていた冒険者が引き返して着たような感じだ。

「……まさかとは思うが」

 嫌な予感がしたエネルはそう漏らすと、ズン! ズン! と思い足音も聞こえて来た。

「逃げてください!」

そう叫びながらフルアーマーを纏い、右手に刃こぼれしたハチェット(片手斧)女性が長さ1mの棍棒を持った体長2m程のミノタウロスに追いかけられていた。

 フルアーマーの頭全体を覆う兜のせいで顔は見えないが、女性の足の動きはおぼつかない。恐らく負傷しているのだろう。

(相手はミノタウロス! 走って逃げれるようなモンスターじゃない)

エネルは盾を構え、剣を抜いた。

「こっちだ! かかってこい!」

剣で盾をガン! ガン! と叩いて、音を出して注意を引く。

 すると、ミノタウロスはエネルの挑発に乗り「ブオオオオ!」と雄叫びを上げながら棍棒を振り上げた。

 盾で防げるような攻撃ではないため、エネルは後ろに飛んでその一撃を避ける。

床に棍棒が叩きつけられてズシンと響き、足元が揺れるが、エネルは足を踏ん張って斬りかかった。

「でえーい!」

ズバッとミノタウロスの脇腹を切り付けたが、金属質の毛皮のせいで傷は浅く。エネルの持つ鉄の剣では致命傷を与えられない。

「勇猛な戦士に主は力を与えたもう! 祝福(ブレイズ)!」

フルアーマーの女性がそう叫ぶと、エネルの剣に白い光が宿る。

 エネルはいち早くフルアーマーの女性のスキルだと気づき「ナイス!」と叫んで、もう一度斬りかかった。

「ウオオオ!」

動きが鈍いミノタウロスの背中に一太刀浴びせると、先程の一撃より深く入ったのか。

 切り口からブシュッと勢いよく血が噴き出し、ミノタウロスは「ブオオオオ!?」と驚きながらよろめく。

 そこへ、フルアーマーの女性もハチェットを両手で握って斬りかかった。

「ヤアアアア!」

力強い掛け声と共に振り下ろされたハチェットはミノタウロスの左肩にザクッと突き刺さる。

 しかし、屈強さで知られるミノタウロスはよろめくことなく。棍棒を振り回して2人を振り払った。

 振り払われた際に、女性はハチェットを手放してしまい、ミノタウロスは武器を持たない女性に向かって棍棒で殴りかかる。

エネルは防げないのを承知で女性の前に出て盾を構えた。

「主よ。か弱き我らをお守りください! 聖壁(プロテクション)!」

女性はそう叫ぶと、エネルの盾の前に白く光る半透明の壁が現れ、ミノタウロスの一撃は弾き返される。

 ミノタウロスは後ろに大きく仰け反り、懐がガラ空きとなった。

エネルは剣を突き出し、その剣先はミノタウロスの左胸を貫き「ブオオオオ!」と苦しみながら倒れた。

そして、倒されたミノタウロスは塵となり、角と黒色の水晶を残して消える。

 しばらく経ってレストルームまで戻ってこれた2人はドッと疲れが出てきた。

女性は片膝をつき、エネルはドカリとその場に腰を下ろす。

「まさかミノタウロスが来るとは思わなかったぜ。アンタ……名前は?」

エネルは女性に名前を尋ねると、女性は兜を脱いだ。

 夜空に輝く星のような銀髪ストレートヘアの碧眼のエネルと歳の近い女性で、どことなく貴族のような気品を感じる。

「ユナ・イルミーゼよ。ジョブは聖騎士志望! アナタは?」

エネルも女性に習い、答えた。

「エネル・トーパーだ。ジョブはスカウトで、基本はソロでやってる」

それから2人は、身の上話をしながら、ダンジョンを出てツトトカのギルドまで帰ってきた。

 ギルドに戻ると、エネルを担当した受付の女性が2人の元に駆け寄ってくる。

「ユナさん! ご無事でしたか!」

応接室でユナがダンジョンで起こったことを受付に報告している間、エネルはギルド内にある工房へ向かった。

「じゃあこれの修理お願いします!」

そう言って受付にいるドワーフの職人に、ミノタウロスとの戦いで刃毀れした剣をカウンターに出し、ギルド内にある食堂兼酒場へ向かうと、端の席でユナが待っていた。

「よう、冒険者に成りすました連中はどうなったって?」

エネルの質問にユナは少し安心した様子で答えた。

「城門で捕まったって、盗まれた銀の剣を取り戻せただけまだいいわ」

 それを聞いてエネルは呆れたようにユナがあの場所でミノタウロスに追いかけられた話を口に出した。

「にしても災難だよな。冒険者に成りすました連中に休憩中に銀の剣を盗まれるし、レストルームまで引き返す道中でミノタウロスとランダムエンカウントするしで……」

そんな話をして、食事を摂りながら、エネルはユナにこんな申し出をした。

「良ければ2人でまたあのダンジョンに潜らないか?」

ユナはそれを聞いて、エネルのことを受付から聞いていたこともあって承諾した。

「私は別に構わないわ。受付さんから腕の立つスカウトって聞いたし、何よりあのレベルのダンジョンってなるとソロじゃきついもの」

ユナがそう言うと、エネル自身もそれを痛感した。

「確かに、ミノタウロス相手にユナの奇跡が無ければ倒せなかっただろうし、この島の2番目の難易度のダンジョンに挑むには、信頼できる仲間が必要だ」

2人はコンビ結成ということもあってエールが注がれた木のジョッキを持って乾杯した。

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2番目のダンジョンに挑むには…… 荒音 ジャック @jack13

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