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40話 制服と学校

 私の名前は葉山はやま 奈央なお

 大咲中学校の2年生。冬休みが終わり、重い足取りで学校へと向かっていた。

 登校時間は何時も憂鬱だ。授業が嫌だ。だとか、先生が嫌いだ。とかそういった理由ではない。


 もっと身近で、よくある理由。

 そう、虐めだ。

 登校時間ギリギリで校門前に到着し、疎らな生徒を見て彼女は一つ大きなため息をついた。


 去年は、1年の時は良かった。先生がまだなんとかしようとしてくれていたから。手は尽くしていたけど弱腰だったせいかこれと言った成果もなかったけど、まだ良かった。

 けれど、今は違う。


 人が少ない正面玄関に差し当たった時、チャイムが鳴り響き彼女は思わずビクッとし周囲を見渡してしまう。

 知った顔は誰も見受けられず、急いで階段を登っていく生徒が一人見えるだけでありホッと小さくため息を付く。

 そして、ゆっくりと自分の下駄箱まで歩を向け恐る恐る開けた。が、特に以上はなく安堵し靴を脱ぐと上履きに履き替える。


 階段に目線を向け、またため息を付くと歩を進ませ始めた。

 どうせまた、机に落書きとか変なのが乗せられてたりとかするんだろうな。と、負の想像を膨らませつつ教室の前に到着しゆっくりと教室のドアを開ける。

 すると中では、見知らぬ少女が黒板の前に立っており簡潔な挨拶をしていた。


「時柄永久と言います。適当によろしくです」


 彼女はうちのクラスにも1日遅れの転校生かな。などと考えていると先生の口から特別処置により在学は短期でありすぐにまた転校してしまうという。

 流れるようにして、目線が葉山に向けられ彼女は目線を反らしつつドアをゆっくりと閉めた。


「またか、葉山。もう少し早く来れんか」


「……す、すみません」


 彼女が小声で答えると、数人の生徒がくすくすと笑い始める。


「もういい、席につけ。時柄はそこの空いてる席についてくれ」


 そう言って先生は一番後ろにある席を指差し、永久はゆっくりと歩き始める。

 周囲の様子を観察し、それとなく状況を察し小さく舌打ちをし席に付いた。

 1時限目は特にコレと言った問題もなく終わり、授業終了のチャイムが鳴り響き挨拶を済ませた時の事だった。


「は~や~ま~。だめでしょぉ? 委員長が遅刻ギリギリなんてさぁ~」


 クスクスと笑っていた生徒達が、遅刻ギリギリで教室に入ってきた子の周りに集まり、ニヤニヤと笑い始めたのだ。

 囲まれている当の本人はというと、俯き一言も言葉を発しない。


「なにか言いなさいよ。ねぇ、なにか言えよ!」


 ダンッ! と、落書きだらけの机を叩く音が響き渡る。が、コレが日常風景なようであり周囲の生徒は見て見ぬ振りを決め込んでいた。

 その中反応したのはこの光景に慣れていない永久だけであり、視線を向けると立ち上がる。


「あの、委員長なら適当に学校を案内してほしいのですが?」

 

「ん~? 転校生ちゃん、こんなヤツだめだよ。私らが案内してあげるからさ~」


「……? 私が話しかけているのは委員長なのですが?」


 永久はわざと首を傾げてみせた。

 この行動には特にコレと言った理由はなく、それっぽい行動を取ってみただけに過ぎなかった。が、連中は少々気に食わなかった様子であった。


「いやいや、そんな事言わずにさぁ~」


 取り囲んでいた生徒の1人が永久の前までゆっくりと歩を進ませていき、目の前まで来ると背の低い永久を見下すような視線を送り口を開く。


「私達の言う事を聞きなさいよ。楽しく学校生活送りたいならさっ」


「お構いなく」


 永久は手短に返すと同時に足を引っ掛け、軽く身体を押してやり派手に見下してきた生徒を転ばせると、こう続けた。


「勝手に楽しくやりますので」


「いっ、てっ……めぇ!!!」


 倒された生徒は立ち上がろうとするも肩を踏みつけられ叶わず、一服置いて委員長を囲っていた連中が永久に襲いかかり始めた。

 が、入りすぎた力を利用され片っ端から転ばされていき、誰一人として彼女に攻撃を当てる事は叶わなかった。


「もう一度聞きます。委員長、学校を案内してもらえますか?」


「すご……えっ!? あ、はい」


「では行きましょう」


 永久は口元が笑い、彼女の手を引いて教室を後にした。

 それから2年の教室がある2階、1年の教室がある3階を軽く案内された所で授業開始のチャイムが鳴り始めた。


「あ、教室に戻らないと」


「別にそんなの良いでしょう。人気のない所ってありませんか?」


「それなら……って、え? サボ、るの……?」


 想定外の返答に、彼女は歯切れの悪い質問を投げ付けていた。


「はい。別に授業受けに来たわけではありませんし、私は来たくなんてありませんでしたし」


 じゃぁ、何のために来たの? と、奈央の脳内で疑問が浮かび上がった。

 目の前にいる本人に聞くかどうか悩んでいると、知っているのなら早くして下さい。と催促され、オドオドした様子で人気のない場所に案内したのだった。


 案内した場所は体育館裏にある小さな茂みであった。

 幾つかの草木や芝生が植えてあり、適度に気持ちいい風が吹く。日向ぼっこに最適という印象を受けるような場所だ。

 体育館裏という事もあり、本校舎からは見えづらい状態で確かに人気は少ないという要望に合致はしていた。

 が、不良などがたまり場にしてる懸念が生まれ、永久はその事を問いかける。


「あー、うち旧校舎もあるから、そっちを主にたまり場にしてるよ。此処に来ないって分けじゃないけど……来る人は少ないかな」


「なるほど、では━━━━」


 永久の言葉を遮るように複数の男子生徒の声が近づき、すぐに1団を姿を視認する事ができた。


「うげ、人居んじゃん~。俺達が此処通った事内緒なー!」


 嫌そうな顔をしつつ男子生徒の1人がそういうと、そのまま通り過ぎようとした。


「別にいいですが、質問いいですか?」


「あー? 何?」


 彼らは足を止め、目線を永久に向ける。


「佐藤冬至という人の事に関して何かご存知ありませんか?」


「佐藤? 佐藤、佐藤……あぁ隣の組の死んだヤツか。誰か知ってる?」


 リーダーらしき人物が他の連中に話を振るが、知らない。分からない。という返答ばかりであり、様子からしても本当に知らないといった素振りだ。


「ワリぃな。だーれも知らねーみてぇだわ。聞きたいなら島田ってヤツに聞いた方が早いぜ。確かあいつの友達ダチだからよ」


「島田先輩ですね。ありがとうございます。時にこのまま抜け出すおつもりで?」


「そうだが、何かあっか?」


「いえ、そうでしたら本日は裏口からではなく正門から抜けた方が良いと思いますよ」


「お、まじか。さんきゅー」


 彼らは永久の言葉になんの疑問を抱かずに着た道を戻り正門へと向かっていった。

 なぜ正門を勧めたのかというと、実は永久はある程度調査をしたら1人でさっさと学校を抜け出す三段を立てていた。そのため猫達を使って巡回している教務員の行動を予め調べていたのだ。

 そして、今日は裏口を固める。という情報を得ていたため彼らに勧めたと言うわけである。


 永久はチラッと委員長である未央に目線を向け、流石に此処まで連れ回しておいて放っておくのもだめだと考えてしまっていた。


「ね、ねぇ……1ついいかな?」


「はい? なんでしょう?」


 なぜ死んだ人間について問いかけていたのか。調べているのか。そういった類の質問をされると予想していた。


「えっと、時柄さんはなんで私を助けてくれたの?」


 だが、彼女の問いは全く関係のないものであった。

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