36.5話 二重脳力者と帰り道

 コンビナートから離れる1隻のクルーザーがあった。

 訪れた時より2人ほど男性が多く搭乗しており、うち1人が甲板で横たり、鼻にティッシュを詰めていた。

 狭い船内には男女が一組入り椅子に腰掛けていた。女性が備え付けの小さい冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出し彼に1つ手渡す。


「とりえず、お疲れシュウくん」


「私は何もしていない。のりちゃん、すまない。狂弌がぶっ放して」 


 片手で口を開け、ビールを一口飲む。


「これくらい平気だよーん。それに何度も止めに入ってる身だしさ。んで、狂弌くんはどうなの? 大分進んでるように見えるんだけど」


 そう言って完治した傷口を指差し、彼女は窓に目線を向けた。


「言う通りかなり進行してる。次過剰投与すれば、耐えきれんかもな」


「うわぁ、それかなりヤバいじゃん」


「ずっと戦ってたからな。紛争地域をうろうろしたり、テロリストを壊滅させたり、時には軍の正規兵を叩き潰したり。飽きはせんが、大分無茶をした」


 そういう彼は何処か満ち足りた表情をしていた。


「あはは、うちじゃ出来ない生き方だ。で、さ。どれ位生き延びてるかって知ってる?」


「同類のか?」


「そそ」


「そういう情報はのりちゃんの方が詳しいと思うけど拾った風間と……廉太郎が死んだ。くらいだな。日本で騒ぎ起こした後に。それでが猪上ちょっと動いてる」


「おーけー、んじゃ護衛の料金変わりとして色々と情報を渡すよ」


「……信用させようって魂胆があるんだろうけど、元からこういう場合、案件中は裏切らないたちってのは知ってるから別にいい」


「バレてるや、でも知っておいて損はないと思うよ」


 彼女は咳払いをし、勝手に話始めた。


「まず、半数以上は今何処で何をしてるかは分からない。けど、ただで死ぬ連中でもないから死ぬ前って大抵何かしら痕跡がある。で、うちは仲間を大切にするからそういう情報を最優先で集めてるの」


「大切、ね。ただの興味本位だろうに」


「もー、腰居らないの。で、今は廉ちゃん以外にも南ちゃんや東郷くん、他にも何人か死んでるのを確認してる分け。で、現状生き残ってるのは多くて50人、少なくて40人って所」


「思ったより生きてるんだな。もうとっくの昔に20人切ってるものと考えてた」


「まっ、飽く迄うちの予想だけどね。ただこれに親しい人数は確実に生きてると思う」


「使用を控えてうまく世渡りしてる分けか。良い事なのか、はたまたあいつの手のひらの上なのか。上位陣の動向とかしらないかい? ザックのおっさん以外の」


「あはは、マフィアになって滅茶苦茶動いてるから流石に耳に入ってよねー。全く分からないのが刀ちゃん、スト……健くん、ダイモンの3人かな。ま、刀ちゃんは武器子と繋がってるんだろうから武器子に聞けばわかるとは思うけどー」


「分かる範囲で残りの各々の現状も聞いても?」


「おーけー、じゃぁ順位の低い順に武器子は今日本で怪盗やってる。あのレーベンっていう奴。知らない?」


「知らんな」


「あらら、情報もうちょっと仕入れた方がいいよーん。次にゴーくんは傭兵やってる。ただ組織だって無いとっても珍しいタイプ。次にみかるんとちょっと順位飛んじゃうけど長雪くん。この2人は武器商人やってるね。みかるんはアイドルもやってるけど」


「武器商人ねぇ。あんのぼっちゃんの事だ、アイドルの事も含めて何か企んでやがりそうだ」


「だろうねー。資金集めと情報集め同時にやってますよ感がもうバリバリ。最後のげきおこくんは日本の警察の上層部。此方も此方でなーんか怪しい動きあるし、他にも何人か入り込んでるみたいで危なそう。ん? 火薬庫かな? 武器子居るし引火したら面白そうじゃない? ついでに3馬鹿も日本にいるしさ」


「下手すると日本が転覆しそうだから滅多なことはいわないでくれ。で、その中で危なそうな奴は?」


「うーん、直接話してる。ってわけじゃないからなー。ただ、性格を考えると圧倒的に狂弌くんが危ないと思う。次点で正くん」


「そうか。……まぁそう思うよね。さてはて、これからどうするか」


「狂弌くん抜きの戦力ってどんなものなん?」


「俺と猪上含んでも、本気の武器子や東上辺りに負けるかもしれん程度。尤も身内以外なら、猪上一人で大体は殺せるだろうけどね」


「にゃるほどー。ま、猪上くんって順位以上に厄介だからね」


「あの美矢ちゃんのお墨付きだからね」


「すごかったよね。気に入られて、ほぼほぼ毎日相手させられてたし」


「目で追えば手遅れ。気配で追おうものなら既に負けてる。って意味が分からん事言ってた」


「それ、まともに戦った事ある人皆言ってるよん。酷いと開始直後に負けたとか」


 彼女はビールを飲み干しふと思い出したようにこう言った。


「猪上くん、最後の方さ。刀ちゃんとメインで模擬戦やってたのに、なんであの順位維持出来たんだろ?」


「さぁね……」



 同時刻、澤田探偵事務所。

 ビル前まで車で送って貰っていた。事務所に入ると崩れ落ちるようにボロボロのソファーにダイブし、五郎は深く息を吐く。


「本当に病院、行かないで本当に大丈夫なのか?」


「無問題です。ゴローも知ってるでしょう。体の治りが速い事。お茶入れますね」


 スマホをテーブルに起き、永久はキッチンへと歩いていく。


「ボスー、やせ我慢じゃないのですか? 結構グッサリいってたと思うのですよ」


 画面が表示され、心配そうなミラーがキッチンの方向に目線を向けていた。


「やせ我慢かもしれん。けど、実際あいつの治り速いんだよ。無理矢理連れて行くにしても、俺じゃ力負けするし」


「ボス非力なのですか?」


「だったら良かったんだけどな。あいつあぁ見えて、プロレスラーとかボディービルダーと腕相撲やって安々と勝てるくらいには力強いぞ」


 彼は永久が単純に病院が嫌い。というより、精密検査を嫌がっているように考えていた。


「まっ、要は普通じゃないってこった」


「お茶が入りましたよー。時に夕飯はどうしましょう」


 お盆に湯気が立つ2つの湯呑を乗せ、戻っていくる。


「適当に出前でも取るか」


「そんなお金はうちにはありません。よって却下」


『では、駄菓子を変わりに』


「ソレはいい案ですね」


 テーブルに湯呑を起き、袋一杯に入った駄菓子をポンッと置く。


「は!? 駄菓子が夕飯……だと!? それならコンビニでカップ麺買って来るぞ!?」


「冗談ですよ。ご飯を今炊いてるので、炊けたらカレーうどんにでもしようかと」


「普通にカレーじゃダメなのかよぉ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る