26話 犯行日と怪盗

「え? 食堂にですか?」


 五郎達はメイド長である瀬戸川さんの元へと足を伸ばし、あるお願いをしていた。

 それは怪盗の予告状に書かれている時間に指定の場所に居る事である。これを、探偵組を除く屋敷全員に手分けをして伝えてもらっていた。


「はい、宜しいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ」


「ありがとうございます。お手数をおかけしてすみません」


「いえいえ、この程度なんてことはありませんよ」

 

 一礼し、部屋へと足をむける。


「ゴロー、コレでいいんですか?」


「おう。至極単純な手だが、"ついで"に探るには一番いい」


「確かに割れますし、探るにはちょうど良いとは思います。けど、露骨過ぎでは?」


 気になるとするならば、こういう事は先んじて隻眼の探偵がやっていそうな事であった。しかし、何の手も打たずに調査のみを行なっている。

 既に目星を付けているのか、はたまた裏で動いているのか。まるで読めないでいた。


「いいんだよ。コレくらいの方が、逆に」



 同日、21時。

 予告状にかかれていた時刻となり、南館1階及び北館地下1階の電気が落とされ、地下へと向かう1人の人影があった。

 宝石が置かれている部屋のドアを少し開け、中を確認しようとする。が、明かりが付いている部屋から、手の甲から剣を生やしている少女が扉を蹴破ると腕を振るう。

 

「あらー、流石に」

 

 だが、片手剣に受け止められ金属音が奏でられる。


「真正面から行くのは、舐め過ぎてたかっ」

 

 弾き飛ばされ後ろに後退し暗がりに紛れ込もうとするも、地下の電源が復旧し通路の明かりが付いていく。

 アイマスクを付け、黒いスーツにシルクハットを被った女性が片手剣を持って構えていた。彼女こそが怪盗であり、レーベンその人である。


「おぉー、手際もいいねぇ♪」


「その余裕、不愉快」


 部屋からキャサリンが歩いて部屋から出ると、挟み撃ちをするように彼女の御付きの1人と泰山が通路の先からやって来る。


「逃げる算段はあるのでしょう。何せ、ワープ系の電脳力がある。という噂があるくらいですし。向うも此方が1枚岩ではない事は、承知しているでしょうし」


「へぇ、なんでもお見通しだ。この分じゃ、保管場所も変えられてそうかなー」


 彼女は後方を警戒しつつ、剣を下ろしペンでも回すかのように片手剣を回し始める。


「此方としては、観念して頂くと楽で嬉しいのですけれど」


「すると思うー?」


「いいえ、全然」


 後ろを取っていたホストのような御付きが、瞬時の体勢を低くし前に大きく跳躍する。

 一手遅れる形で、エースも飛びかかった。


「それじゃ━━」


 彼女は剣を回していた方向へと跳ぶ。すると、空間が布のように垂れ下がり別の空間へと繋がっていた。


「ッ!?」


「はぁ!?」


「ばいばーい、探偵諸君」


 繋がった先へと入ると、瞬時に何事もなかったかのように元へと戻る。

 飛びかかっていた2人は急いで足を止め立ち止まり、閉じかけている空間に目線を向ける。


「まぁまぁ……これはどうしたものかしらねぇ。捕まえるの苦労しそうな能力ですこと」


「あぁもう! 退いて!」


 エースは御付きを押しのけ、通路を走り抜けていく。


「元気ねぇ。さて、冴えない探偵さんの読みが当たった形かしら。根尾、もう冴えないなんて呼べないわね」


「全くでございますね。お嬢様」


「その話、詳しく聞きたいですね」


 部屋の中から、余裕そうな表情の隻眼の探偵が現れた。

 レーベンの言う通り、宝石の保管場所は変えてある。だが彼女はそれを看破しながらも、焦る様子は疎か悔しがる素振りも見せていない。


 そして、五郎の考えを聞いた事を踏まえて、キャサリンが考えうる彼女の行動は2つ。


「終わった後で御本人からお聞きになって頂戴。話してくれるかは別ですけど。それより、貴方は行かなくていいの?」


「問題ありません。予定通りですし」


 そう言って彼は不敵に笑ってみせる。


「の割りには、助手ちゃん慌ててたけど?」


「あれでいいんです。さて、我々も地上に━━」


「いえ? わたくし達は少し此処で様子見をするの。いい? 隻眼の坊や?」



「ふふーん、上手くいったかな。さてっと、本命ちゃんをっと」


 屋敷の主である阿賀見源三郎の部屋に置かれた、PCを操作するレーベンの姿があった。

 あるデータをコピーする途中であり、念のためマウスを操作しデータの一部に目を通していく。

 すると、後頭部に銃口が押し当てられ手が止まる。


「最近の怪盗は企業スパイ紛いの事もするんですね。蔵内さん」


「……澤田様、何時ぞやのスタングレネードは効きました。で、何時からお気づきに?」


 一服起き、少し高い声を作って問いかけられていた。


「そりゃ良かった。最初から気がついてた。と、言いたい所だけど、正直な話ついさっき」


 コピーが終了し、小さなウィンドウが勝手に閉じる。


「夕方のお願い……"自室"待機って言うの気になってたけど、なるほどね。それぞれの確認か。でも、すぐに分かる事だった思うけれど?」


「なので、お前さんの面を割るのは飽く迄おまけ」


「……本命は殺人鬼って分け」


 正解。と答えると懐からスマホを取り出す。


「妬けるわね。飛び入りの方が本命になっちゃうなんて」


「いやいや、今からの交渉はお前さんがメインだ。レーベン。此方からの要求は2つ。まず1つ目はそのデータを渡す事。2つ目はもし出て来たら殺人鬼逮捕の協力」


「見返りは?」


「あんたを見逃す事」


「馬鹿らしい。あたしがそんなの受けるとでも思ってるの」


「受けるさ。理由は3つ」


 するとスマホの電源が付き、ミラーが映し出される。


「まず1つ目は、これまでの盗みはちゃんと無理矢理にでも成功させたうえで、情報を"リーク"しているのです。なのです♪ それでいて、盗みに入る相手は決まって"裏で何かをしている噂のある人物"に限定されているのです」


 彼女が盗みに入った人物が逮捕されたり、一時的にTVでの露出が減ったりとしている。そのためネットでも囁かれている噂の1つであり、評論家も信憑性の高い噂だと言っていた。だが、これでは噂の域を出ないため菊地にも確認を取ってみた所、実際にリークされていたと答えが返ってきていた。


「はぁい、スマホの便利子ちゃん。で、それであたしと何の関係が?」


「ですが今回、貴方様はあっさりと諦めてしまっています。そして、情報のリークを第一に行動をしているのです。なのです。えーっと、要は自身が不利な状況だと認め、極力戦闘を避けようと動いているのです。なのです」


 喋りたい。というので、彼女の意向にそってやって見たが教えた事とちょっと違う事を言っていた。

 それに此れ迄は仕込みもかなりしていたらしいが、今回は予め潜入はしていたものの仕掛けという仕掛けは少なかった。


「不利とかじゃなく、"本気を出したくない"だけだつったろ。で、2つ目はあの殺人鬼が二重脳力者って事」


 レーベンは仮面の下で驚いた表情を浮かべ、目線を後ろへとむける。


「証拠は?」


「能力使用の際に現れるオッドアイ。二重脳力者にだけ現れる変化で、片目が赤くなる現象があの殺人鬼に見られた。そして、どう考えても所持している能力が2つとくれば十分だろ? で、お前さんの行動を見る限りだと味方とは言い難いと思ってな。此処はちょっとした博打だが」


「……もう1つ質問したい所だけど、先に最後の理由を聞いてもいいかしら?」


「あぁ、そうだった。最後の理由はこの状況そのもの。コピーは等の昔に終わっている。んで、俺の戦闘力は知っての通り高いとは言い難い。拳銃があるとはいえ、その気になれば何時だって逃げられるし制圧も簡単だ。なのに悠長に話を聞いている」


 五郎は口を動かしつつ拳銃を下ろし、スマホのバッテリーを抜いて通信機の電源を一時的に切る。


「じゃぁ、なぜ話を聞いているのか。何かしら思う所があったと思ってたが、今なら永久が主な原因だと断言出来る。内心びっくりしてたんだろ。なにせ"第一世代"が元気な姿でこの場に居るんだからな。お前ら"第二世代"からすれば信じられないもしくは夢。そういった類の感情を抱いていたはずだ」


「で、興味があるから。と?」


「そ。まぁ正直、3つ目の理由はあやふやなんだがな。何かしらに興味を持ってる風に見えてはいるが、俺はお前本人じゃないし」


「ねぇ。あんた何者? ただの探偵にしちゃ"知りすぎてる"って思うんだけど」


「ただの冴えない探偵だ。ただし、相棒と一緒に面倒事を背負い込んだ挙げ句、分不相応な事に首を突っ込んでもいる阿呆でもある。……九条くじょう 廉太郎れんたろう。去年の4月頃、ある事件で戦った二重脳力者の名前だ。知ってるだろ。彼の事」


「……廉くん、か。どうなったの? 今は独房で臭いご飯でも食べてるのかしら」


「死んだよ。最後は俺達を道連れにしようと自爆して、な。さて、話も長くなった。そろそろ手を組むか否かかを聞きたいんですがね? お嬢さん」


「情報操作とかじゃなかったんだ。臆病な子だったんだけどな。……あたしが裏切らないって保証もない分けだけど、それでもいいの?」


「問題ない。先にそのUSBを貰えれば、粗方の目的は達成されてるからな。殺人鬼の対処は……出しゃばって来ない事を祈る羽目になるが」


「そう。んじゃ、最後に能力を聞いておきたい」


「永久のか?」


 五郎がそう問いかけると、ため息を付かれた。


「違うわよ。殺人鬼さんの。じゃないと特定出来ないじゃないのよ」


「すまん、すまん。電撃と背中から羽を生やすタイプの肉体変化系」


 彼女はアイマスクを取り、顎に手を当て該当者を洗い出し始める。


「羽……? そういうのは誰も所持してない。となると電気と性格から考えて、変わりかコピー系……まずいわね」


 USBを引き抜き、五郎に投げ渡すとドアの方へと歩いていく。


「おっとっと、何がまずいってんだ?」


「その殺人鬼。多分、対電脳力者に特化してて挙句の果てには上位陣の子。あ、二重脳力者内でも相当やばいやつって意味ね。性格的にも」


 そう言ってドアを開けこう続ける。


「交番でもそうだけど貴方、運が悪い。けど、悪いだけじゃなくて運もいい。だって、今回も嫌いな奴が敵だから断る理由がないし、みすみす虐殺現場が出来上がる状況を見逃すほど、あたしは人でなしでもない。そっちから話持ちかけておいて、裏切らないでよね。冴えない探偵の五郎さん」


「……安心しろ、俺はそういうのはしない質だ。協力者と敵対してでも逃してやる」


「その言葉、忘れないでね」



「どういう事でしょうか?」


 隻眼の探偵は問いかけ、彼女は口元で扇子を広げ持つ手の親指で薬を弾き口に入れる。そして、噛み砕き口元にタトゥーが浮かび上がった。


「単純な話ですわ。只今、ちょっとした身の潔白を証明している所でして、この場に居られた方が此方としても貴方としても助かる。そういう事ですの」


「……なるほど、エースを行かせたのは私を完全に封じ込めるため。ですか」


「話が飛躍しましたわね」


「だってそうでしょう。泰山さんの言葉を借りるのならば、我々はライバル関係。なのに、一緒に挟み撃ちの案を出してきたり、この場に留めるような行動と言動。まぁ、可笑しいですよね」


 彼は指で薬を弾き口に含み噛み砕く。


「殺人鬼を警戒しているのであれば、ご心配なく。撃退可能範囲だと考えておりますので。……抜け駆けはさせませんよ」


 瞬時に距離を詰め腕を振りかぶる。


「お嬢様!!」


 次の瞬間、彼女の腹部に向け拳が繰り出されるが、鈍い音が響き何かにソレは防がれていた。


「変に頭が回ると面倒な事、この上ないですわね」


 攻撃を防いだそれは、背中から生えな真っ白な羽であった。

 見た目は柔らかそうでな鳥類の羽毛のソレと同じ。しかし、実際に触れてみるとそれは、金属やその類のモノであった。


「単純に安全策を取りましょう。という話なだけですのに」


 隻眼の後方から根尾が迫り、繰り出された蹴りを羽そして天井を足場にして跳んで移動し避けると、床に着地する。


「安全策? 笑わせないで下さい。差し詰め今の事この場に居ない澤田さん達が動いているんでしょう? エースはあの時柄って子が抑え、体調を崩したジョーカーは動けない。"僕ら"を抑え込む気満々じゃないですか」


「はぁ、ちょっとは空気を読んでほしいものですわ。挙句の果てには、勝手に弾ける」


 羽を開き、扇子を閉じソレで彼を指す。


「これだから作り物は嫌いですのよ。根尾。荒っぽく行きますわよ。向うがその気ですので」


「畏まりました。お嬢様」


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