18話 相棒と偽物

 事務所へと戻る帰り道。


「殺し屋の目的はなんでしょうね? わざわざ美樹さんに成りすましてまで、依頼するなんて手間だと思うんですが」


 永久が疑問を口にしていた。


「俺達に罪おっかぶせる気だったんじゃないか? ソレくらいしか思いつかん」


 3人組が何者だったのか。殺し屋が誰に雇われたいるのか。が、分かれば多少は見えてくるのかもしれないが、生憎とどちらも不明だ。


「ふむー。……スッキリしませんね~」


「同感」


 なのです! なのです! とスマホから着信音が鳴り取り出すと着信にミラーと表示される。


「おい、遊ぶな」


「遊んでないのです。なのです! あのえっちな女性警官誰だったのかって、疑問に思ったのです」


「それこそ分からん。闇の中」


 下手をすると、今回とはまた別の案件かもしれない。


「えっちな女性警官……ゴローが強姦魔に成り下がったと。国家の犬相手に」


「お前の頭ん中どうなってんだ!? そんな事実はない」


 ビルに到着し、警戒しつつ中へと入っていく。


「なるほど。ゴローは無意識下で行動に移しているかもしれない。と」


「俺は夢遊病患者かなんかかよ。てか、その理論でいくと永久が一番危ないよな」


「私が認知していない間に……とんだ糞ロリコン探偵ですね」


「例え話だろうがーい!!」


 五郎の突っ込みがビル内で反響し、階段を登っていく。


「旦那様に連絡入れる必要ありそうなのです? なのです!」


「旦那って誰だよ!?」「旦那様って誰ですか!?」


「菊地 幸太こうた様の事なのです」


 スマホの画面で顔を真っ赤にしながら、彼女はクネクネしていた。


「……ゴロー。説明を求めます」


「あれだ。多分、文頭に「未来の」って3文字が付く奴だ」


「イグザクトリー! 大正解なのです。なのです♪ 照準心の準備爆撃準備オールオッケーなのです!」


 面倒臭い事にならなきゃいいが。などと考えていると事務所のドアの前で待つ、未来の旦那様候補が待っていた。


「噂をすればなんとやら、ですね。ゴキブリかなんかでしょうか」


「酷いのです。なのです!」


 ミラーは怒った様子で、画面内をぴょんぴょん跳ねていた。


「国家のゴキブリ。とてもいい響きだと思いませんか。ゴロー」


「止めなさい。そんな事言ってたら俺まで怒られるから」


「探偵。遅かったじゃないか」


 彼はゆっくりと目線を五郎たちへと向けた。

━━話は終いだ。"は今日、もう会いに行く用事はない。

 ふと思い出した。菊地の一言。


「緊急の事態でな、急でわる━━」


 態々この様な事を言ったのは、この自体も予測していたのだろうか。


「永久、そいつは偽もんだ」


 彼の言葉を遮るように五郎が言い、永久は咄嗟に手の持つカボチャを投げ飛ばす。だが、瞬時に奴は体を傾け、ナイフを投擲しつつ窓の方へと跳んでいた。

 薬を噛み砕いていた永久はバリアが展開し、飛んできていたナイフを防ぐ。同時にカボチャは壁に音を立てて激突すると、床に落下していた。


「3度目の正直です。今度こそ」


 バリアを消し、手すりに飛び乗り再び跳び上がると3階に着地し奴を追って走っていく。


「ボ、ボス!? 一体どういう事なのですか!?」


「菊地はもう今日は会いには来ない。って、言ってたからな。電脳力の性質上、アイツ本人にも化けられる可能性を考えて、敢えて言ったらドンピシャ。だったってこったろ。それに、今あいつ色々と立て込んでて、此方にはまず来れないだろうしな」


 彼は永久にある通信を飛ばし、階段を降り始めた。


「更に聞きますけど、なぜ降りてるのです?」


「馬鹿野郎。美樹さんの家で爆発が起きたろ。うちにも仕掛けられてないって言えない。入るなら永久が戻ってきて、バリア張りつつだな」


 百面相は窓を割り飛び降りてワイヤーを使って1階へと降り、走って逃げている所であった。

 住宅地を抜け、人気の無い工事現場へと訪れると周囲に誰も居ない事を確認し、元の姿へと戻り息を深く吐いた。


「まさか、即バレとはね。奇襲しようにも"警戒した状態"で襲っても返り討ち。こうなったら、嗜好を捨てて……ッ!」


 足音と舞い上がる小石に気が付き、防御を固めると音が聞こえた方向と逆に跳んだ。次の瞬間強烈な一撃が百面相を襲い飛ばされるも空中で体を捻り、難なく着地する。


「いたた……透明化、ねぇ。一体幾つの能力持ってんのかね。このお嬢ちゃんは」


 永久は姿を現し、頬に爪のようなタトゥーが入った白人の彼を指差す。


「掴まえた。もう逃しませんよ。糞面相」


「ははっ、そっちの方がマシってね」


 ナイフを抜くと構えた。


「ぶちのめす前に、1つ良いですか」


 永久は背中に手を回すと、袖から1本の先に小さな重りのついたワイヤーを引き出す。


「余り敵と喋る趣味は持ち合わせいないが、此処まで関わったターゲットは始めてでね。特別に聞いてやろう」


 彼もまた、足元にある石の位置や周囲の物の配置に気を配っていた。


「なぜ、わざわざ目標の知人や知り合いに好んで化けるのです?」


「知れた事。罪擦り付けたり、油断しやすかったり色々あるけど、まぁ一番は裏切られた顔っての見るのが好きでね。それを一番近くで独り占め出来るから、さ。だからってわけじゃないけど、手に馴染むナイフを好むし、君の保護者はすごく嫌いなタイプだ。すぐに勘ずくから」


「本当に頭の中に糞が詰まってる人は性根まで腐り落ちて、そこまで変わりに糞を詰めてるって分けですね。なるほど、良く分かりました」


「何も知らないガキが……」


 そう言って彼は足元にあった石を蹴り上げ、ワンテンポ置いてナイフを投擲する。

 永久は姿勢を低くしつつ石を避け、距離を詰めるため足を踏み出そうとする。が、顔に向かって飛んでくるナイフが視界に入ると、舌打ちをし花びらの1つが光り袖からワイヤーが伸びる腕を振るった。


「何も知らないのは」


 ワイヤーが鞭のように通り抜け、金属音と共にナイフを叩き落とした。

 そして、続けて同じ電脳力を行使する。


「貴方だって一緒でしょう」


 もう一度腕を振るい、ワイヤーは百面相を襲った。

 腹部を鞭打ち、接触した箇所を支点にワイヤーが巻取り始める。


「俺のワイヤーを使って……!?」


 永久が仕込んでいたのは、彼がビルから降りる時に使っていたものに重りを付けたであった。

 彼は小さな筒をその場に捨て蹴り飛ばし、同時に投げナイフを投擲した。

 それは永久の頬を掠め、一筋の血が流れ始める。


「苦し紛れですね」


 別の花びらが1つ光り、電撃がワイヤーを伝って百面相を襲った。


「ぐ、ああああ!!!」


 しかし、倒れず彼は踏みとどまり、狂気に満ちた眼光を永久に向ける。


「ならもう一発」


「もう、遅い!」


 カチッ。という何かのスイッチを入れた音がし、直後に1つの小さな爆発が起きた。


「んなっ!? くぅ!」


 急いで2発目電撃を食らわせようとするが、2人を隔てるようにして爆発により倒れてきた瓦礫が降って落ちてきた。

 夥しい量の砂煙が発生し、永久は口元を多い周囲にバリアを展開する。


「……くそっ、これは逃げられましたね。3度目の正直ではなく、2度ある事は3度ある。ですか。この結果は不服ですね」



「はぁ、はぁ……」


 ワイヤーから抜け出し、撤退に成功した百面相は肩で息をし、自重をビルの壁に任せゆっくりと移動していた。


「能力を駆使しての、戦闘は流石に分が悪い。兄貴と連携しないと」


 すると、背後から足音が聞こえ、彼は立ち止まり1本のナイフを懐から取り出し目線を後方へと向けた。


「き、ききき、君……ぼ、僕の仲間。こ、殺した、よね?」


 声と姿を見ると目が見開き、冷や汗が頬を伝っていた。


「せ、正確には君じゃ、な、ななないのかもし、しれないけど……れ、連帯責任。って、こ、事でい、いいい良いよね」


 声の主は薬を噛み砕き、タトゥーが現れオッドアイとなり鼻血が流れ出した。


「な、中村なかむら 狂弌きょういち……二重、脳力者ッ!!」


「あ、頭が痛いからひと思いに行くよ。ク、クローズ・ワイズマンさん。て、抵抗はしないでね。平凡なPサイキックPプロテーゼAアーキテクチャーが勝てる道理もないんだから、ね?」


 1つの短い断末魔が路地で響き渡ったのだった。



 五郎に指示を仰ぎ、追撃は断念。事務所へと戻りバリアを張りつつ中を爆弾がないか隈なく探した。

 が、侵入された形跡も仕掛けられた形跡もなく、安心してソファーへと腰掛けていた。


「はー、疲れた。平和な1日だと思ったらとんだ日だった……」


「全くです」


 彼の隣に永久が腰掛け、湯呑を2つ置く。


「さんきゅー」


「あ、今更ですけど、事情聴取とかいいんですか?」


「明日。菊地に先伝えてあるからな」


「なら良かったです」


 永久はお茶を啜るとホッと一息ついた。


「取り逃がして、すみません」


「お前が無事ならソレでいい。また次がある」


 そう言って、テーブルの下にある救急箱を横に蹴り出し、拾い上げるとテーブルの上に置いた。


「ほれ、手当するからもうちょい此方よれ」


 救急箱を開け、ガーゼと消毒液を取り出す。


「良いですよ。自分でやりますから」


「いいからいいから。俺がやるって言ってんだ。こういう時は素直に受け取るもんだぞ」


「ソコまで言うならしょうがありませんね」


 五郎側に少し寄り、傷になっている頬を見せる。


「いい子だ。しみるけど……大丈夫か」


「ええ、問題ありません。ですけど、今日はカボチャパーティーから変更する気は一切ありませんのであしからず」


 ガーゼに消毒液を染み込ませ傷に当てていく。


「バレちまってるか。永久には叶わないな」


「当然です。ゴローと何年組んでると思っているのですか。……ねぇ、ゴロー」


「ん? どうかしたか?」


 彼女は目線を彼に向け、目を見るとすぐに反らす。


「いえ、なんでもありません。夕飯、残さず食べて下さいね」


「わ、分かってるよ……」


 その後、五郎はカボチャまみれの夕飯を死ぬ思いで平らげ、死んだ魚のようにソファーに横たわり気がついた時のは翌日であった。

 テレビを付けニュースを見ながらミラーと雑談をし、シャワーを浴びるため居間を後にし風呂場へと向かった。


『昨夜未明、白人男性とみられる惨殺死体が発見されました。身長は約180センチで金髪。体中が穴だらけで傷口は焼けただれており電脳力者による事件と見て調査を━━』

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