地球鮫

 天変地異に次ぐ、天変地異。地震で地割れ、避けるマントル飛び出す尾鰭。第二背鰭と臀鰭の、遥かなる距離をすわ一大事と見通す神々の双眸。巨軀すら幼く見せる鮫、地球を突き破る突き破る。腹鰭、胸鰭、突き破る。第一背鰭は太陽を目指すイカロスそのもの。溶ける羽、溶けぬ背鰭。鋭く歪な歯、砕く砕く砕く惑星の数々。慄く神の双眸。女神の悲鳴で揺れる星々。ささやかな憂いの内に込められた、人々の矮小な命。無から生まれた偉大なる鮫。忠実な欲、欲、欲。女神に食い込む歯。神殺しをも恐れぬ貪欲。神の血、神の血、邪悪と神聖。天地逆転。交接器の侵略。鮫の子を孕む女神の絶望が、太陽の黒点より黒く黒く暗く暗く全てを脅かす。

 死。

 宇宙の死。

 真理の先に死。

 死の海を回遊する地球鮫の波紋。波紋の先の新たな惑星鮫。小惑星鮫。生きるより、ある、近くに、ある。新たな惑星の中の海。海の中の鮫。鮫の中に新たな命。子鮫。子鮫を孕む女神。女神の波紋は弱く、波及する暇もなく、地球鮫の波紋に掻き消され嘆きもマントルの奥でマグマに溶ける。女神の子は女神鮫となり神聖と邪悪の共存の歓喜の象徴。

 新たな世界の始まりの時。

 天変地異。天変地異。女神の腹を裂く裂く裂く、女神鮫の雄叫びは宇宙の恐怖の振動振動振動振動。振動は愛の営み。撒き散らされる性愛は銀河を形成し一時代を記録する。


(了)


【編集・訳者コメント】

『地球鮫』というタイトルについては、再三に渡って議論が行われてきたのは確かだ。直訳ならば、『地球』となる。そこに『鮫』という言葉を入れる安直さが、文芸界隈の人間を苛立たせたことについては申し訳ないとは思う。

 しかし鮫界隈の人間からしてみれば、鮫が出てくる作品で鮫の文字を入れないというのは、鮫に対する冒涜に等しい。いうなればスティーブン・セガール主演作品に『沈黙』の文字を付けていないに値する冒涜だと、私には思えるのだ。もしくは80年代メタルバンドのアルバムタイトルに『地獄の』や『悪魔の』といった文字を含まないのに値する冒涜。それ故に私は文学界隈とは完全に隔絶された位置にいる。


 主題からずれてしまったので、作品に対する話をしよう。

『地球鮫』は世界の様相を憂うパウエルズの気持ちが率直に現れた作品であると私は感じている。救世主の存在を熱望しながら、それによって過去の良さを失うことへの恐怖も同時に感じ、共存を謳おうとした。しかしそれが理想でしかないとパウエルズは気付いていたのだろう。先のものより後のものの方が絶対的に大きな力を得るということを女神鮫の存在で表したのだろうと思う。過去に留まろうとする気持ちは、リフレインに現れている。欲が世界を支配している事にたいする嘆きも散見されるが、それは同時に一生誰とも交わる事のなかったパウエルズの憧憬でもあったのだろう。


【原本】

 La terre

 Adam Fatma Pauwels

 1832年

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