終章
終章 それからの話
???
それから、数か月が経過した。
だがフェネリー達はなんやかんやあって、監獄からほど近い地をウロウロする事になる、結局王都には戻れずにいたのだった。
なぜなら彼女達には、まだ遺跡にたまったエネルギーを解放するという一大事が残っていたからだ。
その作業をこなさなければ、鳥枯れでダメージを負った場所がいつまでも回復しない。
本当の意味で世界が救われないので、仕方がない事だった。
遺跡のいる愚痴にやっとの事で辿り着いたフェネリーは、どっとその場に座り込む。
「ふぇぇ。疲れたよう」
「お疲れ様です。今回の試練も合格でしたね」
「まったくだらしないわね。ごみくじゅは」
当初の予定では、フェネリー達はこんな場所に来るはずではなかった。
最初はアルゴス達の部下達か、他の兵士達がその作業をやるはずだったのだが、いつまで経っても試験をクリアできずにいて遺跡に近づけなかった為、代わりにと白羽の矢が立ってしまったのだ。
「やっぱり、試練を突破できないのは、あんな汚い連中の心が汚れてるからよね」
「ふぇ、クゥ様何か言った?」
「何でもないわよ。しょれより、例の黒い球の正体知りたいくないかしら」
「姉様、それ話題代わってませんよ」
スフィアの指摘に意地悪そうにするクゥは、それでも話す気満々の様で疲れ果てたフェネリーにさっさと回復して耳を傾ける様にいうのだった。
小さな友達がせかす声を聞きながらもフェネリーは「そういえば確かに」と思い起こす。
(ずっと気になってたんだよね)
クゥの母親であるインプランタがあんなもの残すはずないと思っているフェネリーは、どうしてもあの球の存在が腑に落ちなかったのだ。
首を傾げるフェネリーにクゥは複雑そうな表情をしつつも胸を張るという器用な状態で、真相を告げる。
「あれは、戦争で争った人の負の心よ」
「負の心?」
つまり、ようするに。世界が大変だったのは人間のせいだとクゥは言ったのだ。
それは要するに自分の首を自分でそれと知らずに締めてたと言う事。
「魔技を発動させるのは呪文は言葉でしょう。子守歌だって、力を持つんだから。悲鳴や叫び声が力を持ってもおかしくないわ」
「ええ?」
「信じられない」とフェネリーは一瞬思ったが、前例がある事を思い出した。
インプランタの子守歌が呪文として作用するのなら、そう言う事もあってもおかしくはないかもしれないのだ。
「じゃあ、戦争で大変な目に遭ったたくさんの人達の声が呪文になっちゃった、って事? でも、どうしてあの時それを言わなかったの?」
「ごみくじゅは所詮ごみくじゅね」
歯に衣着せぬ良い方にフェネリーは心臓をぐさりとやられてしまった。
ショックを受けるフェネリーを見かねては、スフィアが言いにくそうに慰めて、先を説明。
「分からなくても仕方ないですよ。ええ、と……姉様の言い様はひどいと思いますけど。フェネリーさんは、あの時の空気でその事実を言えると思いますか?」
それで、ようやくフェネリーは理解が及んだ。
(あー……)
ただでさえ、一生懸命やっていた事が簡単に解決されて、かつそれがインプランタのせいではなく自分達の自業自得のせいだと知ったら……。結果は言わずもがなだろう。アルゴスたちは確実に怒り狂う。
「大変な事になっちゃうね」
「しょういう事よ」
「でも、それじゃあ、インプランタさんの濡れ衣になったままだよ。クゥ様はそれで良いの?」
「おかあしゃまがしょれについて何も言わないんだもの、私は良いの」
と、クゥはそんな具合で近くを漂っていた光の玉をつつく。
だが、とそれでもフェネリーは考える事を止められない。
それなら、土地枯れがインプランタのせいでないのなら、クゥは完全に世界の危機とは関係ない事になるではないか、と。
「……しょうね。確かに辛かったけれど、でも恨もうにも、他の人の生活なんてあまり知らないもの。あの監獄以外の生活ってあんまり知らないし、私が私じゃなかったから今の私はいないんだから、考えようがないわ」
「ふぇー、よく分かんないけど……」
そんなクゥの生き方が、フェネリーには少しだけ寂しく感じていた。
友達のいないフェネリーですらそんな生活をひどいと思えるのに、クゥではそれひどいと思う事が出来ないのだ。
フェネリーはその事を、上手く言い表せないなりに、心の中で寂しいと感じていた。
だが、それももう終わりとなる。
(土地枯れの問題を解決したんだから、クゥ様と一緒にきっとこれから色んな所に行けるもんね!)
楽しい思い出をその分いっぱい積み重ねていけばいいと、そう結論付ける。
まだ見ぬ将来の事をあれやこれや考えながらフェネリーが楽しみにしていると、機会を見計らっていたらしいスフィアが声をかけた。
「さて、休憩も取った事ですし姉様もフェネリーさんもそろそろ進みましょう。先に行ったリコットさんがまた怒っちゃいますよ」
「あー、そうだった」
リコットはフェネリー達の監視役として付けられているのだが、ほとんど名目だけの立場だった。
それは、アルゴスたちなりの思いやりだった。一度は組織を裏切ったリコットを監視役に任命する事で、クゥ達への罪滅ぼしにと考えたのだ。
それで、その件のリコットなのだが、その姿は今この場になかった。
逃げられない役目に忠実に働いて子供のお守りするよりも、自分で解決した方が速いと言って悪戦苦闘するフェネリー達を置き、先へと進んで行ってしまっていたのだ。
(でも、確かに言う通りなんだよね。他の人は全然クリアできない試練、リコットだけはクリアしちゃうし)
おそらく遺跡の内部のどこかで待ちぼうけしているだろうリコットの事を考えながら、フェネリーはそう思う。
「ふぁー、今回もまだまだ気が抜けないね。遺跡の中に行って、侵入者避けの仕掛けを解いて、溜まったエネルギーを解放しなくちゃいけないしー」
遺跡に潜ってトラップを解除、試練を乗り越える。……などという行為は典型的な冒険者の行動だ。
どういうわけかフェネリーは、夢だった冒険者みたいな事してるわけだったが、その実情は大分想像と違っていた。
(世界の行く末に関わるなんて、思ってもみなかった)
それは、自分一人の面倒を見るのが出来るかどうかで悩んでいた頃とは、まるで真逆の位置だ。
やって見れば、意外なくらいにフェネリーは自分が考えていた場所よりはるか先に立っている。
その事実を認識したフェネリーはたまに不思議な感慨を抱くのだ。
だが、それは……
「ほら、ぼーっとしてないで行くわよ、フェネリー」
「これ以上、リコットさんをお待たせしてしまうと後が恐いですしね」
一人ではなかったからだ、とフェネリーは思う。
かけがえのない大切な友達と一緒だったから、無謀だと思えるようなこんな場所まで来れたのだ、と。
「うん、わわわクゥ様早いってば。待ってよー」
これからどんな大変な事が行く手にあったとしても、クゥが一緒にいればどんな事でも乗り越えられる様な気がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます