第79話「80cm列車砲をみよ!!」

 さすがに列車砲はやり過ぎか?

 いやいや、そんなことはないよなー。


 ついでだよ。

 つーいーで!


 元嫁相手にするには少々勿体なすぎる気もするが、なんせ目標は元嫁だけじゃない。


 ほんと、嫁にブチかましてやるのはついでだ。

 

 あーいや、待て待て。

 嫁にブチかますのが、主だったかな?


 ───ま、どっちでもいい。


 今は、周囲の燦々さんさんたる有様にナセルをして苦笑するしかない。


 なんせ列車砲。

 なんたって、80cmの巨砲だ。


 その余波たるや、すさまじいの一言。


 ナセルの家はもとより、周囲の家屋が衝撃波だけで───グシャァァァ! と押しつぶされていた。


 まるで、巨人が拳を叩きつけたかのように、放射状になぎ倒されていく王都。


 倒壊しなかった家屋も、軒並みガラスが割れ跳び、通りを闊歩していたならず者どもは鼓膜が破れて、さらには血の涙を吹いて倒れる。


 列車砲の近くにいたものは更に悲惨で、発射の衝撃波を受けて、バラバラに吹っ飛んでしまった。


「おいおいおい……どんだけ、すさまじいんだよ──」


 あ、そう言えばアリシアは?

 どんな面してやがったか、見るのを忘れてたぜ。


 …………ま、いっか。


 たったの一発で、周りの様相は一変。

 更地になってしまった。


 しかもこれ────。

 発射地点だよ?


 ……着弾点じゃないよ?


 そういえば、目標はどうなってるのかな?


次弾装填ネイストラーデン! 弾種モニション──榴弾グラナート!!』


 ───おうヤボール!!!!


 ナセルの疑問を解消するように、キビキビと走り回るドイツ軍。

 号令もすべらかに、皆が任務を理解している。


『観測来るまでに装填終えろよッ! 急げぇシュネル!』


 バラバラバラと、シェルターから飛び出したドイツ軍が列車砲と、砲弾運搬の貨車に取りつく。


 彼らには、のんびりと構えるという考えはないらしい。



※ ※



 一方────。



 遥か彼方の、野戦師団第一騎兵連隊。



「───王都まで、あと数時間だ! 者ども急げぇ!」


 ダガダッ、ダガダッ!! ダガダッ!!


 連隊旗も高らかに、豪奢な鎧に身を包んだ指揮官が激を飛ばす。

 3000人近い騎士と、3000頭以上の軍馬が整然と駆ける姿は圧巻ですらあった。


 それは、数時間まえのことだ。

 勇者親衛隊ブレイズ所属の精兵がボロボロの姿で王都の急報を告げてきた。


 信じられないことだが、その報告は王都の陥落というもの……。

 現在、国王は行方不明で、勇者すら討ち取られた可能性があるらしい。


 バカなと思ったが、そんな嘘をつく間抜けが勇者親衛隊ブレイズにいるはずもなく。

 頭の回るな野戦師団の将軍は、すぐに機動力のある騎兵連隊を派遣を決定。

 調査と敵の制圧のために送り出すことにした。


 事実がどうあれ、ただ事ではない。

 少なくとも、とんでもない異変があったことは間違いないらしい。


 緊急と言うことで、危険を承知で山越えルートを選び、軍馬を使い潰すつもりの急行軍だ。


 途中落石やら、転落でいくらかの損害を出したものの、なんとか山越えルートを踏破し、王都まで指呼の距離まで進めることができた。


 連隊長としては、軍始まって以来の進軍速度に心躍るものがあった。

 さらに、王都を解放するという栄誉も得られれば大出世間違いなしという思いがあり、自然と頬が緩んだ。


 だが、


「連隊長殿! 上空────……あれはなんでしょうか?」

「馬鹿者ッ! そんな報告があるかッ!……ん?」


 グゥォォォォォォオオオン……。


 ──勇者親衛隊ブレイズ


 騒々しい音を立てながら上空を遷移する影が一つ。

 沈み始めた太陽と被り、シルエットしか見えないものの、怪鳥のように見える。


「──王都から伝令にきた勇者親衛隊ブレイズだろう。そんなことに気を取られていれば落馬するぞ!」


 そうだ。

 今は速度が重視される。

 些事に構っていられない。


「ゆくぞ諸君──日没ま」


 チュドォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 突如、地面が大爆発し────第一騎兵連隊長の出世街道はこの場に潰えた。


「……は?」


 ヒヒヒーーーーン!

 

「ええええ?」


 バタバタと暴れる馬と、濛々と立ち込める黒煙。

 隊列の先頭集団が突如として消し飛んだ。


 そう、消し飛んだのだ。


 いくつかの梯団に別れていたため、難を逃れたものが初めに見たのが、それだ。


 バラバラの騎兵たち…………。

 燃え盛る地面と、信じられないくらい巨大なクレーター。


 後方集団には、何が起こったのかすら知れない。


 指揮系統が一瞬にして奪われたため、騎兵連隊は当初の命令通り、王都に向かって馬を駆けていたのだが────。





 ひゅるるるるるるるるるるる───……。





 ズッ───────────────!!






 …………この日。

 日没を待たずして、第一騎兵連隊は消滅した。

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