第67話「アリーシア♪」

『『『戦闘団カンプグルッペン──前へマァルシュ!!』』』


 3000人近い男達の号令。

 それが揃いも揃って軍靴で石畳を叩く。


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!


 歩調をまとめるために、戦闘団の最先任のオーバーフェルト曹長ベーベルが、よく響く低い声で兵士に指示し、各部隊の下士官がそれに続く。


リンクス……リンクス……リンクスウム───』


『『『リンクスウム……リンクスウム───』』』


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!


 一子乱れず行進するドイツ軍。


リンクス……リンクス……リンクスウム───』


『『『リンクスウム……リンクスウム───』』』


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!


 黒衣の群れが蠢く。


リンクス……リンクス……リンクスウム───』


 歩調も高らかに軍隊が動く。

 この世界最強のドイツ軍が行進する!


『『『リンクスウム……リンクスウム───』』』


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!


 そして、歌う────。


『『『軍歌ッッズィガン!』』』


 ~~~♪


 ~~♪


 荒れ野にアウフ デア ハイデ咲くブリュート可愛いアイン クライネス 花ありきブリューメライン

  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア


 あまたハイス フォン の蜂フンデルトタウゼント群が クライネン りてビーネライン

  蜜をヴィルト 求む、ウムシュヴェルムト アリシアアリーシア


 その心デン イーア 甘きヘルツ イスト香り フォーラー 満ちてズュースィヒカイト

 優しきツァルター ドゥフト匂ひエントシュトレームト デム 花を包めりブリューテンクライト

 荒れ野にアウフ デア ハイデ咲くブリュート 可愛いアイン クライネス 花ありきブリューメライン


  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!


 ───祖国。

 ───故郷。


 そして、地獄のロシアの凍てつく大地。


 だからこそ、陽気なリズムの歌にすら混じる苦悩と、苦労と、苦痛が滲みでるのだ。


 そうとも、ドイツ軍は想う。


 ふるさとの原野に咲く、あれはそう……一凛の花を懐かしむ歌を。

 そして、赤い頬ではにかむ酒場の看板娘を───それを思う歌を。


 寒い凍てつくロシアの大地に塹壕を掘削しながらも、カビた黒パンを齧りつつも、ハチミツとパンの香りを思う歌を!


 陽気で、

 軽快で、

 楽しい歌。


 それでも、見える。

 あの辛く苦しい戦場が!


 その想いが、ナセルの苦悩と万感の想いとどす黒い感情とシンクロする!


 あぁ歌おう。

 謳おうとも、帰還の唄を……。


 ~♪

 ~~♪


 ドイツ軍の低い声が鼻にかかったように調子っぱずれで王都に響く。


 おおお、アリシア♪

 アリーシア♪ と。



 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!



 故郷イン デア に住むハイマート ヴォント 可愛いアイン クライネス メークデライン

  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア


 そはディーゼス メーデル我が イスト マイン想い人 トロイエス なりシェッツェライン

  我がウント マイン グリュック アリシアアリーシア


 アリーシアヴェン ダス の花ハイデクラウト 咲かば アリーシア ブリュート 

 捧ぐよジンゲ イッヒ 君にツム グルース このイア ディーゼス歌を リート


 荒れ野にアウフ デア ハイデ咲く ブリュート 可愛いアイン クライネス花ありき ブリューメライン


  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア



 このフレーズ───。

 まさに、ナセルの想いそのものだ!


 本来の故郷に待つ幼馴染を思った歌は、本来のフレーズではなく、後半部分でわざとアリシアと歌い上げ、愛しい妻を思うナセルの心情を表す様に謳われる。


 だから、ナセルも繰り返し繰り返し謳われるそのフレーズを覚え、彼らと主に歌う。


「アリ~~~~シア♪」


 おぉ、故郷で待っていてくれ……。

 我が愛しの妻よ、アリシアよ!


 おお、アリーーーーシア♪ 



 ザッザッザッザッザッザッザッザッザッ!



 アリーシア~♪

 アリーーーシア~♪



 王都に響き渡るアリシアを想う唄。

 もはや、ドイツ軍を───ナセルを止めるものはどこにもいない……。


 さぁ、行こう!

 我が家へ!



 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!!



我がイン マインム ケンマーライン にもブリュート またアウホ アイン花あり ブリューメライン

  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア


 朝焼けショーン バイム からモルゲングラウン 日暮れゾーヴィー バイム までデンマーシャイン

  大声にてシャウツ ミッヒ 問うはアン アリシアアリーシア


 君はウント ダン イスト我を エス ヌル アルス可愛い シュプレヒ エス 婚約者ラウト デンクスト ドゥ アウホ アン ダイネうや クライネ ブラウト


 故郷にイン デア ハイマート泣く ヴァイント ウム 可愛いディッヒ アイン メークデライン


  その名はウント ダス ハイスト アリシアアリーシア




 アリぃぃーーシア♪


 …………さぁ、アリシア。

 ──今から帰るよ。


 君の夫が帰る。

 辛く苦しい日々を過ごし、ただひたすら君に再開する日を夢見て───。


 あぁ、アリシア。

 帰る。


 帰るとも……──────。



 君の下になッくそビッチに天罰を!!



『『『────アリーシア~♪』』』

「──────アリーーーシア~♪」



 はははははははははははははははははは。


 はははははははははははははははははは。


「あーーーーーはははははははははは!!」



 ──アリーシア♪

  ──アリーーシア♪

   ──アリーーシア♪



首を洗って待ってろ優しく抱きしめよう────クソビッチがぁぁぁあ我が最愛の妻よ!!」



 ──アリーーシア♪

  ──アリーーシア♪

   ──アリーーシア♪

    ──アリーーシア♪

     ──アリーーシア♪

      ──アリーーシア♪



「アリぃぃぃぃいシアぁぁぁあああ!!」


 そうとも……。

 待ってろアリシア───。


 待ってろよ!

 アリシアぁぁぁぁぁぁぁああ!!



 ──うおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

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