第64話「これぞ最強」
──は。
バシャバシャと顔に血肉を受ける。
これは、勝利の慈雨だ───。
ガラァァァアン……!!
血肉のこびり付いたパンツァーシュレックを投げ捨てると、空を仰ぐナセル。
────勝った…………。
勝ったよ。
親父、お袋────大隊長。リズ……。
俺は───勇者に勝った。
勝った──────……。
『
空を仰ぎ、勝利の余韻に浸っていたナセル。
だが、緊迫した擲弾兵の声にハッと我に返る。
彼らは未だ
たかだが、空を飛ぶだけのトカゲに、デカイだけの鳥だ。
ドイツ軍に負ける要素などなく、もちろん優勢に戦いを進めており、すでに対空射撃で何頭も叩き落としていた彼らだが……。
あの精強なドイツ軍が驚愕の眼差しで一点を指さしている。
そこには──────……。
ジュク……!
ブク、ブク……────ブシュウ……!
王都の石畳に浮かんだ魔法陣のようなものが……。
それは今まで見た魔法陣の中でも、もっとも醜悪で、何か嫌悪感すら感じさせる。
だが、それが問題なのではない。
問題は────。
ジュルル……ブシュウウウウウ──……。
血肉が沸き立ち人の形を象ると、
「痛ててて……」
魔法陣の上に沸き上がった一人の男が。
鎧を纏い、剣を携え、まったくの五体満足の──────。
う、
嘘だろ……。
「勇者────……コージ」
たった今、ナセルがこの手で吹っ飛ばしたクソ野郎で間男。
あの勇者コージが、完全な姿で復活していやがった。
聖剣も、
伝説の鎧も、
伝説の盾もあり、
──ぶっ飛ばしたはずの四肢も健在。
そして、ムカつくあの顔────……!!
「コぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおジぃぃぃぃぃいいいい!!!」
ナセルは再び咆哮する。
まさか、まさか……まさか!!
「不死身だったのか、てめぇぇぇぇええ!」
「──いってぇぇ……くっそ……!」
意識が定まらず、まだふらついている所を見るに、コージも復活したのは初めてだったのかもしれない。
文字通り死ぬほどの攻撃を受けたのだ。
さすがに堪えたのだろう────。
だが、腐っても勇者。
茫然としているも、剣は手放さないくらいには戦意はあるようだ。
「な、何が起こった……バズーカとか冗談だろ? ゆ、夢か? 夢だぜ、こんなの──」
夢じゃねぇ。
夢じゃねぇさ。
「──夢なものかよ」
ギョッ、とした顔でナセルに振り向くコージ。
まさに、今気付いたと言わんばかり。
「お、オッサン?! な、なんで自衛隊とか仲間にしてんだよ! ゆ、夢だろこれは! 俺はまだアリシアと寝てる────」
「───寝ぼけてんじゃねぇえ!!」
ナセルの怒号に「ヒィ!」と体を震わせるコージ。
それを詰るごとく、ナセルはゆら~~り立ちふさがると、
「そうか、そうか、そうか、そーかぁ──」
そぉなのか!
そーーーーーなのか!!
そぉぉおーーーーーだったのか!!!
「な、なんだよ! や、やるってのか!──も、もう、バズーカはねぇぞ」
「やかましい!!!」
ズダダダダダダダダダダダダダッダン!
肩にかけていた
「ぎゃあああああ!!」
ガンゴンガン! と連打を浴びるコージがうずくまる。
どうも、パンツァーシュレックによる打撃がよほど痛かったらしく、銃に対する恐怖心が勝っているようだ。
だが、それでも腐っても勇者。
反撃に転じようと、今度こそ盾でしっかりと防いでいる。
「うぎぎぎ…! た、耐えろ。耐えろぉ!」
突撃銃の7.92mmクルツ弾がコージの盾の前に弾かれる。
「だ、大丈夫! 銃なんて効かないさ!」
まるで耐え続けていれば、勝てるというかように……耐えるコージ!
───だが、そんなへっぴり腰で勝てると思うなよ!
「あだ! いででで! ちくしょう、覚えてろ……。た、弾切れになった時がチャンスだ……!」
顔を覆い、盾に身を隠すコージ。
ぶつぶつと呟いているのが丸聞こえ。
そこに連打を浴びせるナセルだが、途中で弾の切れた一丁を投げ捨てると、
「出でよ! ドイツ軍────」
盾に身を隠すコージの前に新たな召喚獣を呼ぶ。
キラキラと召喚光が舞う中、中空に現れた召喚魔法陣から出てきたのは───何と!?
ズゥゥゥゥウウン!!
だが、そいつが咆哮を上げる前にナセルの突撃銃の弾が切れた。
それを待っていたコージは盾から身を出し、反撃開始とばかりに聖剣を構えるが────。
「弾切れだな! オッサンよぉぉおお! 今度こそぶった切──」
勢いよく剣を振り上げたまま硬直するコージ。
「………………ちょ、」
ちょ……────何それ?
ドルドルドルドルドル───。
重々しいエンジンが唸る。
加熱したエンジンからはユラユラと陽炎が立ち上ぼり、黒い排気ガスが瘴気のようにまとわりついていた。
いつの間にか目の前に召喚されていた巨大な質量───。
その上に、仁王立ちになるのはナセル。
その召喚獣の名は────……。
重量57t。
正面装甲100mm。
マイバッハ製700馬力エンジン。
武装は、
7.92mm機銃を副武装に。
主砲、56口径────
最強の戦車────。
「ちょ……え? せ、戦車とか────そりゃないでしょ?」
あ?! 戦車だぁ?!
「
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