第50話「ただで済むと思ってんのかッ!」
ブワァアッッッキィィィィイイイン!!!
戦場と化した市街地の一角で物凄い大音響が響き渡る。
戦車vs戦車
それが正面からの激突だ!!
どっちが勝ったのか!!!!????
と、舞い散るのは木材と馬の死体とオリハルコンと──────折れた
あ、
あと、国王もすっ飛んでいった。
というか、要するに重騎馬戦車がバッラバラにぃぃぃ……────!
……───ぃぃぃいい!!
「ほげぇぇぇえええええええええええ!?」
頼もしくも楽しい悲鳴とともに、すっさまじい衝突音のあとには、衝撃と共に車外へ放り出される国王がいた。
その様足るや、豪快、豪快!!
パンター戦車の車上をひゅ~~~~んと飛んでいき────。
ギュルギュルギュル~、と錐揉み状態で、
「────ぐべっッッ!?」
カエルが潰れるような声をだして地雷原のど真ん中に落下。
そのまま、数回バウンドしてからとまる。
むき出しの石畳で、あちこち打ち付け全身傷だらけ。
衝突の衝撃のため足とか腕とか凄い方向を向いている。
ありゃ死んだな──。
ピクピクと動いているが……。
「ぐぎぎぎぎ────」
あ、生きてる。
……やべぇ。超ッッ快感!!
盛大に口の端を歪ませたナセルは、
「────アホがぁ!! こちとらドイツ軍製の装甲板だぞ! 厚さ80mmの正面装甲の鉄板をぶち抜けるわけがねーーーーーだろうが、ボォォケェェエ!」
ギャハハハハハ!!
盛大にぶっ飛んでいった国王の軌跡を追って大笑いするナセル。
──あの国王が「グベェ」だとよ!
「はっはっは、
特に戦車というものは、正面の装甲が一番厚い。
それはもう、硬い、分厚い、貫けない!
騎馬戦車どころか、大砲を積んだ敵戦車と撃ち合う事を想定した中戦車だ。
同口径の大砲で真正面から殴られても弾きかえせるくらいの装甲を誇っている。
はっっっっっきり言って、王国軍のあらゆる兵器をもってしてもパンター戦車には傷すらつけられないだろう。
と、
ゆ~~~わけでぇ。
「さーーーーーーーーーーて、」
──お楽しみの時間だぜ。
地雷原で潰れている国王をみて盛大に笑うナセル。
だが、
「うぐぐぐぐぐ!! 効っかーーーーん!」
ガバチョと体を起こした国王。
どう見ても重症だが、元気だけは十分だ。
「ひ、ひひひ、卑怯だぞ、貴様ぁぁああ!」
鼻血でドロドロ。
顔面血だらけ……。
手足バッキバキ。
……よく生きてるなコイツ。
って言うかよぉ。
「あ?──卑怯だぁあ?」
コイツ、何言ってんの?
「そ、そうだ! こんな得体の知れんもん許されんぞ! 貴様の召喚術は異端じゃぁっぁあ!」
はぁぁあ?
「テメぇ……頭、沸いてんの?」
「黙れ、黙れぇ! 儂はこの国の王ぞ! 国王をコケにしてタダで済むと思ってるのか!」
…………あ゛?!
「た、」
ナセルが額に青筋立てつつ一言。
おうむ返しの様に国王が、
「──た?」
それだけでもう、ナセルは一瞬にして頭に血が上る。
こぉんのクソ野郎の繰り言に、ここまで腹が立つとは…………。
た、
「──
誰のせいで死にかけて、
誰のせいで家族を殺されて、
誰のせいで肉親を奪われて、
誰のせいで嫁に逃げられたと思ってんだ!
「全部、お前が原因だろうがぁぁぁぁあああAAAAAA!!」
クソ勇者を召喚し、
クソ勇者を優遇し、
クソ勇者の肩を持ち、
クソ勇者に便宜を図った────。
「──もうぅぅぅぅいっぺん言ってみやがれぇぇぇ!」
「ひぃぃぃい!?」
怯える国王に向かって、パンター戦車から身を乗り出したナセル。
短機関銃片手に、もう一手に対空銃座のMG34を取ると、ユラ~リと立ち上がったナセル。
「な、なにをするつもりじゃ! わ、ワシは国王じゃぞ! 卑怯な真似や、無礼な真似をしてみろ! く、国が黙っておらんぞ!」
地雷原でヨロヨロと後ずさる国王。
幸いにも対戦車地雷原だ。
人間が踏んでも爆発しない──多分。
卑怯?
無礼?
国だぁ?
「──あーあーあーあー。いーぜ、いーとも、いーよの、さ。──卑怯ってか? ……俺が?」
ならばよぉ……。
「大勢で取り囲み、拘束し、勇者相手に単身挑ませた奴はどうなんだ?」
「な、し、知らん!」
「家族も巻き込み、あまつさえ本人の前で刺殺した奴はどうなんだ?」
「そ、それは、ほら……」
「最後の肉親を攫って何処かに連れて行った奴はどうなんだ?」
「わ、ワシに言われても……」
「国中で冷遇し、召喚士の呪印を焼き潰し、野垂れ死ぬのを笑ってみていた奴はどうなんだ?」
「そんなの、ワシだけじゃ……」
「そして、ついに復讐される奴ってのは────どうなんだ!?」
「く、国を憎んでどうする!」
ははは……。
こいつはまだ分かってない。
「く、くくく、国を相手に勝てると思うてか!? ワシはすなわち
はっはっは。
はっはっはっ!!
はぁーーーはっはっはっはっはっ!!!
──言葉が通じないなー、コイツ。
まぁ、いい。
言ってやろうじゃないか。
俺の、万願の思いのたけをッ!
──聞け、クソ国王。
すぅぅぅ……、
「とっっっっっっっッッくに、国と戦争する気満々じゃぁぁあああああ!!」
────こんな国、ぶっ潰してやる!!!
お、
「愚か者ぉぉおおお!」
「おめぇーーーーーーーにだけは、言われたくないわぁぁああ!!」
ダンッ! と戦車から勢いよく飛び降りると、二丁の銃をユラ~~~~リと構えて、
「さぁぁぁあああ! す~ぐに殺しはしないから、ど~こから骨をブチ折ってほしいか、選べぇぇええ!!」
完全に棍棒扱いで機関銃を構えると、ゆっくり国王に近づく。
「よ、よよよよよ、よせ!? な、何をする気じゃ!」
見て分からんのか、ボォケェェ──!
そんなもん、
「殴るに決まってんだろうが!!」
あらよっとぉぉぉおお!!
──まずは、いっぱぁぁぁぁっぁつ!!
機関銃を振りかぶってぇぇぇええええ!!
「おらぁぁぁっぁあああ!!」
────ブァキィィイイン!!
「ハブゥア!」
総金属製の
メリメリィ!!──と、食い込んでいく感触が…………
「げぴゅあぁ!」
ポコーーンとポップコーンのように弾け飛ぶ前歯。
あーーーーーーーーーーー、やっぱり顔面に一撃食らわせるのは堪らんな!!
やめらんねぇぞ、この感触はぁぁぁああ!!
あーーーーーはっはっはっはっは!
そして、すかさずもう一発!!
「次は──────鼻だぁぁぁあ!」
「やめ────ぷぎぅ!」
振りかぶるなんてしない。
顔面目掛けて杭を突き立てる様に
歯がなくても舌がありゃ喋れるだろう!
喉が健在なら声が出せるだろう!
鼻が潰れても気道があればリズの居場所を絞り出せるだろう!!
リズの居場所を喋る以外に、テメェの身体なんざこの世にいらねぇえ!!
ブッ潰れろやぁぁぁあ!!
「があああああああああああ!」
「ひでぶぅぅぅうううううう!」
獣の様に唸るナセル。
豚の様に叫ぶ国王。
──もう後は滅茶苦茶だ!!
叩く、叩く、叩く叩く叩く、
叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く、
蹴る、蹴る、叩く叩く!!!
「おら、おらおらおらおらおら、おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁあ!」
「はぎ、へぶ、ひぎゃあああ、あぶぅ!!」
どうだ……。
どうだ!!!
──どぅだぁぁぁぁああああ!!!
「痛いだろうが!! ええ?! 痛いだろうが!!」
これが苦痛。
これが憎悪!
これが地獄!!
これはその一端で、────俺の味わった苦しみの「ホンの僅かだぁぁあ!!」……だから、全て思い知れッ!!
「これは親父の分!」──ボコォン!!
「これはお袋の分!」──バキィン!!
「これは大隊長の分!!!!!」
大上段に構えて、脳天に直撃じゃぁああ!!──ズドォォォォオン!!
「ひ……ひでぶぅぅ──」
鼻血と涙と涎でドロドロになった国王。
もはや、もとの素顔が分からない。
だけど、容赦などない……!
ラストに、もう一発────……!
「そして、これはリズの分だぁぁぁあああああああおああああああああッッッ!!!!」
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