第47話「静かな悪魔(前編)」


 ──来い!!


「「「「「うぉぉおおおおおお!」」」」」


 凄まじい勢いと形相で突撃してくる国王とその配下の兵ども。

 投石器の射程外へ一時的に退避したドイツ軍。

 現在地は正門付近から離れているとはいえ、急造のドイツ軍陣地と国王の率いる軍隊との距離はさほど離れていない。


 今のドイツ軍は、王城から少し距離を取った場所に布陣し、住宅と大通りを占領している形だ。


 目の前には積み上げたバリケード。


 砲撃の合間だけは作業を中断していたが、今は工兵たちがその身を曝しつつ戦車通過用に開けていたバリケードを封鎖している。


 それ以外にも、何やら石畳をほじくり返しての作業中。

 さらに何人かは住宅と住宅の間に入り込みテグス・・・のようなものを引き延ばしていた。


『遅いぞ! 道路閉塞急げ────!』

 工兵小隊長が大声で部下を叱咤激励。


 それでも、マイペースで作業をしているようにみえて、傍から見ているナセルはハラハラとせざるを得ない。


 そこに、

「異端者をぶっ殺せぇぇえええ!!」

 国王のがなりたてる声と、近衛兵どもの野蛮な声が重なる。



「「「うぉぉおおおおおおお!!!」」」


 ──突撃ぃぃい!!

 ────突撃ぃぃい!!!


 ガラガラガラ!!──猛烈な勢いで突っ込んでくる騎馬戦車チャリオット


 さらには、突撃第一波の生き残りの歩兵たちも、騎馬戦車に追いたてられるように凄まじい形相と勢いで突っ込んできた。

 奴らは血反吐と、砲弾の煤と、仲間の臓物に塗みれて凄まじい形相だ。


 まるで亡者の群れだが、その距離はもう目と鼻の先。


 ──ザム、ザム、ザム、ザムッ!!


 金属ブーツの音も高らかに死兵が来るッ!


 盾を構えた突撃第一波の生き残りの300人────その一人一人の毛穴すら視認できそうだ。


 ジリジリと接近する敵歩兵とドイツ軍が今にも白兵距離で接触しそうだ。

(何をしている! 邪魔だ──急げッ)

 おかげで戦車砲が使えず、ヤキモキとするナセル。


工兵エンジィニィア! 急げシュネル!』


 やはり『中隊長』も焦っているのだろう。ジリジリとした表情で工兵を見守っている。


 なんたって、敵部隊はもうすぐそこ!

 掴みかかれば手が届きそうだ!


『埋設完了! 作業止め、作業止めぇぇぇ! 急げシュネル──退避するぞフロォォオクト!!』


 ここでようやく工兵小隊長が合図を出す。


 汗だくになった工兵たちがスコップやツルハシを手に陣地の中に飛び込んでくる。

 その頃には近衛兵団の第一波の生き残りどもが陣地に取りつきつつあった。


「しねぇえ!!」

「報いを受けろ、異端者ども!」

「仲間の仇だぁぁあ!!」


 鬼のような形相でバリケードに突撃する近衛兵たち──────。


撃てぇぇぇええフォィァァアア!』


 サッと腕を降ろす『中隊長』の号令に従い陣地に据え付けていたMG42重機関銃が唸り声をあげる。


 待ってましたとばかりに────。



 ヴォバババババババババババババババババババババ!!



 さらにはハーフトラックの車載機関銃やⅣ号戦車の同軸機銃まで混ざってすさまじい火力が集中する。


 バババババババババババン!!

 バババババババババババン!!


 ──くたばれッ!

 射線に味方さえいなければ撃ちまくりだぁぁあ!!


 だが、


 キィン、カァアン!

 コキィィィン……♪


「クソ! まだ、弾きやがる?! クソ国王め……出鱈目なスキルをぉぉお!」


 国王のスキルによって身体能力が軒並み向上した近衛たち。

 もれなく強化されているのか、魔術師によって、あの忌々しい結界魔法が展開され、さらには魔法防御付きの盾がその悉くを防ぐ。


 カァキィイン……♪

 コキィィィン……!


「ははは! 見ろ、皆──異端者の魔法なんて届かんぞ!」

「さすが、陛下だ!」

「国王陛下万歳! 陛下ばんざーい!!」


 ──チッ!

(イイ気になりやがって……)

 

 その気になれば戦車でいくらでもぶっ飛ばしてやれそうだが、この距離では発砲炎だけでも味方を巻き込みかねないので、Ⅳ号戦車もおいそれと主砲は撃てない。


(さすがに近すぎるか……!)


 75mm砲の威力が強すぎて、友軍の頭上を越えて撃つのは危険極まりないのだ。


 現状、3両のⅣ号戦車はタダの鋼鉄製トーチカ以上の意味はなかった。


 だが、代わりにここは擲弾兵たちが踏ん張るところ。

 擲弾兵のうち何人かがPzb39対戦車ライフルを取り出して構える。


『構え! てェフォイア!!』

『『了解ッヤボォル!』』


 ヅカン!!────パカァァアン!


「ブフッ……!」

 ガクリと膝を着き倒れる近衛兵。


 次々に発射同時に近衛兵を盾ごと撃ち抜かれていく。

 だが……、

「銃の数に比べて敵の数が多すぎる!」


 どうする!?

 どうする?!


 損害に委細構わず前進する近衛兵たち。


 ザム、ザム、ザム、ザムッッ……!!


「クソぉお! また白兵戦になるぞ?!」


 『中隊長』は工兵が罠を張っていると言ったが。

 ……こんな陣地のことをいっているのか?


 家財道具を積み上げただけの即席陣地。

 一応身を隠せるが、剣を振り回す近衛兵相手にはさほど役に立つとも思えない。

 ろくに補強もされていないバリケードなど、騎馬戦車の突撃を一度でも受ければバラバラに吹っ飛んでいくだろう。


『もう少し引きつけます……もう少しです』


 機関銃MG42の射撃をものともせずにジリジリと近づく近衛兵団。

 その背後からは騎馬戦車も近づいてきた。


 ガラガラガラガラガラガラ!!


「ガハハハハ! 異端者めがぁ! 腸引きずり出してくれるわ! 全軍つっこめぇえ!」


 国王の重騎馬戦車か!?

 あ、あれと同時に攻撃されると、流石にまずいんじゃないか!?


「多少危険でも、戦車でぶっ飛ばした方が早──」

『もう少しです──────今だッ!』


 何!?


了解ヤー! 点火ぁぁぁツゥ ドゥゥゥン!!』


 工兵がハンドルを回す…………。


爆発するぞぉぉフォォォレデコォォン!! 総員アーレメナー伏せろぉぉヒンレェェゲン!!』


 いつの間にか住宅の間──路地に身を隠していた工兵が『中隊長』の合図を受けて、手に持つ小さな機械を弄っていた。


 カチン……──────。


「おい?」

伏せてヒンレーゲン!』


 『中隊長』に物凄い力で押し倒される。


 その瞬間────。



 ズガガガガァァァァッァァァァァァァアァァァァァアアアアアァァン!!!!!!!





 地面が大爆発した。


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