第46話「攻撃準備射撃」

 ──砲兵よアーテラリィ

 撃ってくれッッビッテ シィィセン


 その叫びに答えるように、空を圧するような砲弾の飛翔音ッッ!!



 ジャジャジャジャ──!

 ジャアァァア゛ア゛ァァ────!!



 凶悪なまでに空気を切り裂く砲弾の産声。

 何度聞いても背筋が凍る。


 生物にして、それには抗えないと思わせるような遺伝子に組み込まれた、根元たる恐怖。


 砲撃──────。

 その音に恐怖を感じることこそ正常だ。


 そして、それは既に王国の馬鹿どもの心理にも嫌というほど刻まれていた。


 戦場に散らばる近衛兵たちも、その戦場の女神の歌声を聞いた瞬間、多数の者が涙と小便を撒き散らしながらわめき散らしている。

 

 もはや、恐慌状態。

 いくつかの肝の据わった集団だけが、今もドイツ軍を追っている。


 そして、あのクソ国王はといえば!



「ぶげぇぇぁああ! く、来るなぁぁぁ!」

 みっともなく護衛にしがみつきつつ、

 「ワシを守れェ」と無理難題。


 砲兵が狙っているのは閲兵場に並べられているであろう投石器群だが……。


 もはやそれだけに留まらない。


 いまや、あの城壁の中は魔女の釜だ。

 いや、死神の麦畑か?


 どちらにせよ、広大な敷地を誇る王城も、そこにはもはや魔女と死神しかいない。


「ぶひーーーーー?!」──ジョバー……!

 今度こそ、小便を全力で洩らした国王。

 ホカホカと立ち上る湯気がよく見えた。


 はっはっはっ!

「ぶっ飛べや! クソ野郎どもが!!」


 もはや、至近弾やら砲弾の破片など知ったことかぁ! と言わんばかりにナセルは立ち上がり、拳を空に向ける。


 そして、砲弾が弾着する瞬間を肌で感じとりぃぃぃ────ッその瞬間に腕を振り下ろぉす!!



「死ねぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!」


 ヒュルルルルルルルル………………ッ──ズドドドドオォォォォォォォォンンン!!

 


 小隊全力の効力射ッ!

 そいつが一斉に砕け散った『大障壁バリアー』をすり抜けて王城へ降り注いだ。


 ドカン!!!

  ドガン、ドガン!!!

   ドドドドドガァァァンン!!!


 猛烈な爆発ッ!!

 その悲惨な様子はここからでもよ~く見える。


 ベチャベチャと降り注ぐ血と肉の雨。


 その他、土塊と人間と馬と投石器と他の何やらが高々と巻き上がりトとんでもなく醜悪な花火を打ち上げ、王都の空を彩った。


 だが、そいつは城外にでることもかなわず、残った『大障壁』の内側にビシャリ!!──とぶちまけられて、真っ赤に染め上げた。


 まるで、地獄の光景のようだ。


 ここでようやく『大障壁』フッと消え失せ、内部にへばりつていた血肉とクソ反吐がボトボトと城へと降り注いでいった。

 もはや、障壁を維持できなくなったのだろう。魔力切れになり、フラフラと彷徨う魔術師達がそのまま城壁から掘りへ落ちていく。


『目標撃破! 撃破!!』


 今さらながら空軍士官が無線にがなり立てているが、そんなことは見ればわかる。


 よーーーーーし、大戦果だッ!


 さぁ、仕上げといこうか!


 王城の方では爆風によって吹っ飛ばされたのだろうか?

 正門前の『大障壁』にベターーーン! と叩きつけられていた国王が間抜け面を晒していた。

「うぐぐぐぐ──」

 そのまま、涎と涙と鼻水をガラス板に押し付けるみたいに『大障壁』にズルズルと体を滑らせてベチャリと倒れる。


「お、おのれ…………」


 そのまま、ヨロヨロと起き上がる国王は、ワナワナと震えている。


 ほう? 逃げ帰るかと思いきや……。やる気は、まだまだあるらしい。


(いいねぇ……簡単に死なれちゃ困る)


 国王はヒデェ面のまま、スクっと姿勢を正すと──、

「こ、こ、こ、こここんガキャぁぁあ──」

 怒りか憎しみか……、まるで般若のような顔で怒髪天をつくように大声を張り上げる国王。


「も、」


 も?


「──もう許さーーーーーーーーーん!! ぶっ殺して、ギタギタにして、グチャグチャにして、クソと一緒にして便所に投げ棄ててくれるわぁぁあ!!」


 ──うがぁぁあああああああ!!!


 唸り声をあげて騎馬戦車に登場すると、高らかに告げる。


 すぅぅう、

「出い! 出い! 者どもぉぉおお!! 全軍、突撃じゃぁぁぁあ!!」


 うぉぉう!!!!

 うおぉぉう!!!


 てっきり、ほとんどが砲撃でぶっ飛ばされたと思ったが……、正門付近は爆風による被害のみで、負傷者は思ったよりいなかったらしい。


 だが、それでいい。

 目的は投石器の破壊だ。


 真正面からのガチンコ勝負は望むところだ!!


 そっちから来るってなら受けて立つ!


 すぅぅう、

「来るぞぉ! 全力でブチかましてやれッ」

『『『了解ファシュタンドン!!』』』


 既に、対爆撃姿勢地面にへばりつく姿勢から起き上がり、陣地構築作業を再開したドイツ軍。


 彼らは律儀にも一度手を止めて敬礼する。

 それに答礼しながらも、ナセルは陣地に乗り込み周囲を俯瞰した。


 前方では突撃第一波の近衛兵の集団がしぶとく生き残っている。


 砲撃により一時的に行動不能になっていたようだが、少しずつ統制を取り戻しつつあった。

 迷子になった兵や補助兵もかき集めて────数は歩兵が300程。


 そして、王城の方では国王自ら先頭に立ち騎馬戦車隊チャリオットパーティを指揮している。

「進めえええええ──!!!」

 ガラガラガラガラガラ!!──と車輪が喧しい騒音を立てながら砲撃でボコボコになった道を強引に乗り越えてくる。


「いけぇぇえ!! ぶっ殺せぇえ!!」


 ──異端者の首を獲れッッ!!


「「「うおおおおおおおお!!!!」」」


 国王のスキルによって、正気を失わんばかりに強化された近衛兵と騎馬戦車の群れッ!


 前方の歩兵を轢き殺さんばかりの勢いだが、このタイミングだとドイツ軍の陣地にちょうどいいタイミングで歩兵と騎馬戦車が同時突入してきそうだ。


 騎馬戦車の側面を固めるのは騎兵隊50騎!

 さらに後方には歩兵が200程────。


 なるほど、偵察機の報告と合致する。

 突撃第二波は、国王が自ら率いる残余。


 王城に残る全兵力だ。




 つまり、王都に残る最後の兵力で……!

 これが最後の戦い──────!!





「来いッ!」

 クソどもがぁぁぁあ!!!

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