第41話「激突ッッ」

 ──投石器カタパルト……てぇ!!



 ガキュン……!


 ガキュン、ガキュン、ガキュン!!


 む!?

 城壁の向こう側で硬いものを思いっきり叩いたような音が連続して響く。

 

 この音は────!!


 ちぃぃい!

「クソッ!!────全隊、上空警戒! 投石が来るぞッ!」


 ナセルとて元は軍人!

 この後に続く攻撃はよく知っている。


『ッ!?』


 ここで初めて『中隊長』が驚きの表情を見せる。

 ナセルの言う言葉に意味に気付いたのか、慌てて部隊を後退させている。


『後退! 後退!!』


 その言葉に、歩兵たちは浮足立ち、重装備──とくにMG42機関銃を放棄して後退し始める。

 しかし、その間にも曲射弾道を描く石弾が大量に降り注ぐ!!


「ぐはははは! こうやって戦うんじゃ、異端者めが!」


 さすがは国王と言ったところか。あれでいて、アホではないらしい。

 何も防御魔法だよりで無策のまま突撃するわけではなかったようだ。


「戦車も下がれ! 総員車内に退避!!」

 間に合わんか……!

総員アーレメナー乗車ヴェシュタイゲン! ハーフトラックを護れ!』


 ギャララ……!


 前進するときはクソのように早い戦車も、一度停止してしまうと動き初めに少々の時間を要する。


 ようやく動き始めたときには頭上に石の散弾が降り注ぎはじめた。


 ひゅるるるるるるる……──。


 空気を切る嫌な音。

 それに引き続き、雨が降るような音がして────。



 ザァァァア……!!


 中隊長の悲鳴のような号令が響く!

エネミー迫撃砲マァゥザァァァ来るぞぉぉおアィンギィェェンド!!』


 くそ──!!


伏せろッヒンレーゲン! 伏せろぉォぉヒンレェェェゲン!!』


 展開していたドイツ軍に投石器からの石が降り注ぐ。


『間に合わん! 総員ハーフトラックの陰に退避!』


『『了解ヤボール!』』


「くそぉ、……ハッチ閉め!!」


 間に合わないとみてナセルは慌ててハッチを閉塞する。

 その頭上に大量の石が降り注ぎ────。


 ガガガン。

 ガンッ! ガン!!


 連続しての衝突音。

 音の大きさからしてネットに入った小粒散弾のような、石弾を降らせているのだろう。

 投石の効果は限定的だが、面を制する様な攻撃には、ドイツ軍とて堪らない。


『ぎゃああああ!!』


 戦車の外では歩兵たちの悲鳴があがっている。あの程度の石ではよほど当たりどころが悪くなければ、死者はでないだろうが……。

 上がった悲鳴からして、かなりの被害を出しているのかもしれない。


 ドイツ軍の弱点は自らがもつ武器が強すぎるがゆえに、その武器に対する防御を諦めてしまっていることだ。

 戦車は別だか、歩兵クラスになると、防御といえばヘルメットくらいなもの。

 銃が強すぎて、生半可な鎧では防げないため、動きが鈍るくらいなら──と、軍服程度しか着せていないのだ。


 この世界においては未だ鎧は有効であるというのに……。


「くそ! 被害報告をさせろ!」

了解ヤボール!』


 ナセルの指示に無線手が勢い込んで返答を返し、すぐに無線を操作しはじめる。


 次々に飛び込む被害報告。

 死者こそでなかったものの、歩兵はかなり損害を受けているらしい。


 ここに至り、王国側の懐に入り過ぎてい他とようやく気付く。

 ドイツ軍の火力に過信していたことは否めない。


 さすがに戦車の装甲は頑丈で石ごときではダメージを与えられない様だが、それでもこのタイミングでの投石は絶妙かつ強烈だ。

 なんといっても歩兵が大損害をうけてしまっている。


「ちぃ! やってくれる!」

 

 石弾のあとは────。


『正面! 敵騎兵来ます!』


 ──そう、来るわな!


「薙ぎ払え!!」


 歩兵の火力は一時的に麻痺している。

 だが、戦争は歩兵だけでやるものじゃない!


 戦車はそう甘くはないぞッ。


 多少は車外装備が壊れたかもしれないが、それくらいで戦車が破壊されるわけがない。


目標ズィエル正面のフロント敵騎兵ヤーコープ──約50騎! 撃ちますッビッテシーセン


やれぇぇファイニヒトゥン!!」


 ドイツ軍の攻撃がないことを笠に着て、突撃に移る騎兵──。

 そして近衛兵団の歩兵たち。


 ドドカッ、ドドカッ、ドドカッ!


 先陣を切って旗を持った騎兵が跳ね橋を渡りきる!

 その後ろには……敵主力!

「我に続けぇえ!」

 馬蹄が跳ね橋を渡り切り、物凄い勢いで突っ込んでくる騎兵の集団。

 さすがに50騎がまとまって動くと大地が震えた!



 ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!



「怯むな! 撃てぇぇぇええ!!」


 戦車に騎兵で挑むなど無謀もいい所。

 敢えて迎え撃たんと、3両のⅣ号戦車が同軸機関銃と前方機関銃で撃ちかける。


 ズダダダダダダダダダダダダ! と全くの故障もなく撃ちまくるMG34によって、先陣の旗持ちがズタズタに切り裂かれて倒れ伏す。あとには敵主力!

 先頭の一騎は後続に踏み抜かれて、馬蹄の中に消えていった。

 そのあとも、機関銃の容赦のない射撃によってバタバタと倒れていく近衛兵団の重装騎兵たち。


 防御結界なしの騎兵などいい的だ。


 いくら胸甲を装備していようとも、騎馬にも装甲を施そうとも、7.92mm弾の威力は薄い鉄など紙のように貫く!


 パカァァン! ……ドタリ、と胸甲を完全に貫かれた騎兵がもんどりうって倒れる。

 さらには彼の乗騎さえも、銃弾に切り裂かれて悲痛な嘶きが響き渡る。


 しかし、数だ。

 数が違う! 近衛兵団の騎馬隊は数の暴力と突進の勢いそのままに、戦友が死のうと泣こうと喚こうと、遮二無二突っ込んでくる。



「突撃!」

「突撃!!」

「「「突撃ぃぃぃぃぃいい!!」」」


 突撃ぃぃいいい!!!!


 勇敢だ。勇敢な兵だ。

 実に惜しい。

 かつては肩を並べて魔王軍と戦ったというのに…………。


 だが、容赦などしない。

 するものか……。


「全員ぶっ殺せ!」


 車長用のペリスコープを睨み付けながらナセルが野蛮に怒鳴ると、 おうよ! と答えるのはMG34機関銃


 そいつは呆れるほどの銃弾を前方に送り込み続ける。


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


「ぎゃあああああ!!」


 バタバタと屍を築いていく……。

 そして、即死できなかったものは叫ぶ!

 痛みと絶望で、

「腕が! 腕がぁぁぁあ!!」


 ぎゃぁぁあああああああああ!

 

 一騎、また一騎と橋を渡り切ったその先で、バタバタとバタバタと……。

 戦車の銃撃を突破できずに屍の山を築く騎馬隊。


 だが、めぬ!

 止めてなるものか。


 Ⅳ号戦車の同軸機関銃と前方機銃は情け容赦なく銃弾を送り込み続ける。


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!


 機関銃掃射の前に騎馬突撃など意味もなく、倒れていく。

 倒れていく……。

 倒れていく!!


 それでも、仲間の死体を越えてゾクゾクと……!

 剣と騎槍と馬体で突っ込む!


 突っ込んだ所で戦車は倒せないというのに突っ込む!!


「王国万歳ッッ!!」

「「「バンザーーーイ!!」」」

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 ──ダンッ、ダンダダダダダダダダ!!

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 ──ダンダンダンダダダダダダダダ!!



 重装騎兵たちの咆哮に機関銃の音が重なる──────。





 この日、近衛兵団騎馬隊は再建不可能なまでに壊滅的損害を受けた……。

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