第27話「ドラゴンvsⅢ号戦車」
※ バンメル視点 ※
「何じゃありゃ!?」
巨大なレッドドラゴンに跨り、悠々と空を舞っていたバンメルの前には、突如として見たこともない鉄の箱が生まれた。
それが召喚獣らしいと気付いたのは、巨大な魔法陣から生み出されたこと、
そして、あの鉄の箱がキラキラとした召喚光を纏っていたことだ。
そりゃあ、同業者ならではのこと。
──わからいでかッ!
……なにより、あの男。
ナセル・バージニア──。若くしてドラゴン召喚Lv5に達した、新進気鋭の最強のドラゴン召喚士
──最近、呪印を失ったと聞いていたが……。
「ぬぅ? 変わった召喚獣じゃのー? 鉄の箱……──兵器かの。そして軍隊を召喚するのか……」
レッドドラゴンの灼熱のブレス。
フルプレートアーマーを着た
ガッチガチの鎧にタワーシールドを構えた
その灼熱の炎を受けてさえ、平然とした様子のナセルの召喚獣。
そいつは、メラメラと燃え盛るドラゴンの炎を受けてもビクともしない鉄の箱で、異形の怪物だった。
「ほ。やりおる……」
少々、鉄の箱の表面に焼け跡が付いたくらいで溶けた様子もない。
「ん~……ありゃ相当分厚い鉄じゃの?」
ならばどうしてくれようか……。
バンメルの手札は多い。
今召喚しているのはレッドドラゴン(大)だが、他にもフロストドラゴン(大)や、腐竜にヨルムンガンドが呼びだせる。
もっとも、水中戦仕様のヨルムンガンドはここでは意味がないので、現実的考えるならフロストドラゴンで冷やすか、腐竜で腐らせる方法だろうが……。
「む?」
ガコン!
ブレスが収まったタイミングで、初めて動きが出た。
(ナセル……?)
ギギィィ……。
鉄の箱のふたが開き、ナセルが顔を出した。
懐かしい顔だなと感慨にふける暇もなく。
その、痩せこけてはいるが精悍なる顔つきを見て、眉根を寄せたバンメル。
あやつ……。
あんな顔をする奴じゃったかの?
それに何じゃあれは?
奴は手元に長い鉄の筒の様な物を抱えており──……それをバンメルに指向していた。
鉄の箱から付き出しているフックのようなものにそいつを固定すると────?
その行動の意味は分からなかったが、歴戦の召喚士であるバンメルはすぐに危機を感じ取りドラゴンに回避行動をとらせた。
「ぬぅ? 殺気じゃと?! レッドドラゴン、緊急回避ッッ」
次の瞬間、
ブォバババババババババババババババババババババ!!!
その筒の先端がギラギラと輝き、光の矢のようなものを放ってきた。
「ぬぉぉぉぉぉおおおおお! ま、魔法攻撃じゃと!?」
完全に躱したと思っていたが、その光の矢は連続して次々に向かってくる。
しかも、
──グルォオオオオオ!!
操っているドラゴンが苦悶の表情をあげていた。
「何ッ!?」
見れば、ドラゴンの腹部に小さな穴が多数あいている。
光の矢は全てかわしたはずじゃが……!?
ピシュン──!
その時、バンメルの顔の
「な、なんと……光の矢は囮か?」
そうとしか考えられない。
しかも、今もまさにドラゴンには絶えず何かが命中しているらしい。光の矢に混じって見えない矢も含まれているのだ。
「ま、魔導兵器!? 兵器ごと魔法兵の軍隊を召喚しているというのか!? やるなぁぁ、ナセルぅ!」
だが、今はナセルが上半身を露出させている────これは絶好の機会!
行け──ドラゴン!
バンメルは体を伏せ、ドラゴンの背にある鱗の凹凸に身を隠す。
自らの露出を最低限にしてのドラゴンアタックだ!
ドラゴンの攻撃手段はブレスだけではない。その頑丈な体──爪、牙、尻尾! なんでも御座れだ!
そして、ダイレクトアタックをするべく、ドラゴンを低空飛行で特攻させる。
「儂の前に顔を見せたのが運の尽きよ!!」
ブレスを貯める時間はない。
ならば全身をもってナセルを引き裂いてやるのみ!
低空かつ、高速で相対しているためナセルの叫びすら聞こえる。
そして、狂おうしいまでの魔導兵器の獣のごとき咆哮も──。
だからドラゴンも叫ぶ。
いてぇぇじゃねぇか、と!
『ググウウウオオオオオオオオオオオオオン!』
だが、ナセルも負けてはいない!
伊達にドラゴン召喚士をやっていただけはある。
ドラゴンの咆哮に怯えることもなく、真っ向から立ち向かう。
「おおおお、ちいぃぃぃ、ろぉぉぉぉおお!!」
ブォバッバババババババババババババババババババ────!!
ギラギラと輝く鉄の筒!!
その輝きにあわせて何かが飛来しドラゴンを射抜いていく!
「甘いなナセル! ドラゴン召喚士だったお前ならドラゴンのタフさはよく知っておろうがッ!」
血を噴き、苦悶の声をあげるレッドドラゴン。
だが、これしき。
なんのこれしき。
そんなもので、ドラゴンが止まるかぁぁぁああ!
勝った!
勝ったのだ!!
「突撃じゃぁぁぁぁあああ!!!」
あと少しで牙が届く────。
爪が届く、
尾が引き割く──────!
その瞬間を夢想して、
バンメルは突撃の手を緩めない。
──あと数瞬、
あと…………刹那の時ぃぃぃぃ!
もて! 耐えろ! 我慢しろぉ!
──レッドドラゴぉぉぉン!
異端者の肉を喰らえぇぇ!
「「うおおおおおおおおおお!!」」
両者叫ぶッ!
ババババババババババババババババババババ!!!!
ビシシ、バシン、ビシィ!! 何かがドラゴンの皮膚を突き破り、今にも耐久限界を超えた召喚術が解けて、バンメルのレッドドラゴンが消えてしまいそうだが……まだ
行けるッ!
ナセル────勝ったぞ!
グワバぁぁ、と大口を開けたドラゴンがナセルに喰いつかんと……、
ウィィィン──…………ガコンッ。
そんな不気味な唸り声が聞こえたかと思うと、
『
ズドン!!!!
そう、……鉄の箱の鼻先から伸びた煙突────そこから火が!
ゾッとしたのも束の間、回避することも出来ずに。
グギャ!
一瞬、ドラゴンがビクリと跳ねたかと思うと、もう消え始めていた。
「──何ぃぃぃぃいいい!?」
フワリと空中に投げ出されるバンメル。
支えるものは何もおらず、あとは突撃の勢いのまま地面に激突するだけ。
ポーーーンと、ひとり空中に投げ出されたバンメル。
バンメルは慣性の法則に従い、ドラゴンの余勢を駆って鉄の箱を飛び越えていった────その時、
「ざまぁッ!」と、ナセルがガッツポーズをしているのが見えた。
「ふ…………やるなぁぁ! ナセルぅぅ!」
だが、バンメルは少しも慌てていなかった。
レッドドラゴンが正面から倒されたのは、いささか驚いたものの、死を感じるにはまだ早すぎる。
──落下激突?
するわけねぇだろ。
「出でよッ────フロストドラゴン(大)!!」
冷静に次の召喚獣を呼びだしたバンメルは、空中に現れたソイツになんなく受け止められて、ゆっくりと背に着地した。
悔し気にこちらを見ているナセルを見て。
「第二ラウンド開始じゃよ!」
ス────と、召喚術行使の構え。
次々に浮かんでくるのは多数の召喚魔法陣。
多数!?
いや、──────無数だ!!!!
くっくっく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます