第19話「ドイツ軍歩兵小隊」
ナセルが教会を攻撃する少し前のこと──。
敵を排除したナセルは、ギルドマスターが脱糞したであろう金庫室の上によじ登り、そこに腰掛けのんびりと召喚獣ステータスを開いた。
「もうLvが2に……」
目の前に浮かんだ召喚獣ステータス画面に目を向けていたナセルは驚く。
ドイツ軍
Lv2:
※ ※ ※:
ドイツ軍
Lv0→ドイツ軍歩兵1940年
Lv1→ドイツ軍歩兵分隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵班1940年国防軍型、
Ⅰ号戦車B型、
Lv2→ドイツ軍歩兵小隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵分隊
Ⅱ号戦車C型、
R12サイドカー
(次)
Lv3→ドイツ軍歩兵小隊1942年自動車化
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1942年自動車化
※(3tトラック装備)
Ⅲ号戦車M型
メッサーシュミット
Lv4→????
Lv5→????
Lv6→????
Lv7→????
Lv8→????
Lv完→????
まだ1日も経っていないというのに、Lvの急上昇に驚く。
それにしても見たことも聞いたこともない召喚獣がズラリとならび、ただただ圧倒された。
Lv1であの圧倒的な強さだ。
とくに対人戦においては無敵をほこるとさえ思える。
チラリと目を向けた先では、ドイツ軍が残敵を掃討しているらしい。
未だにパーンパーン! と銃の発砲音が響いていた。
王都警備隊や冒険者が散発的に強襲をしかけているようだが、周囲では召喚したドイツ軍一個分隊が戦闘を継続中で、小銃に機関銃が激しく撃ちならされ、盛んに周囲を威嚇射撃している。
他にも警備隊以外の正規の王国軍らしき部隊とも、何度か接触はあったものの──そのほとんどを撃退していた。
おかげで、こちらには被害らしい被害は何もない。
「Lvの上昇が早いのは冒険者を相手にしているからか」
モンスターを倒せば経験値が手に入り、一定を越えるとLvがあがる。
ナセルの場合は身体能力が向上するのだが、実際には向上した能力が目に見えるわけではないので実感はない。
だが、召喚獣のステータスは画面を通して知ることができる。
それで次の召喚獣を呼び出してみるかと思い、ステータス画面を取り出し──このLv上昇の変化に気付いたわけだ。
「そういえば、召喚獣をいくつ呼んでもそれほど負担はないな……」
Ⅰ号戦車に歩兵一個分隊に工兵一個班──これらを同時召喚したというのに、魔力にはまだまだ余裕があった。
……恐らくだが、
ナセルが『ドイツ軍』を召喚できるようになるまでの『ドラゴン』のステータスがそのまま引き継がれているのだろう。
つまり、ドラゴン召喚士であった時と同等以上に魔力があり、最低でも召喚獣Lv5程度には、召喚獣を呼び出す魔力があると見ていい。
今ならもっと余裕があるかもしれないが、Lv2の召喚獣なら、2体くらいはかなりの長時間呼び出せるだろう。
「ははは…………今なら誰にも負ける気がしないな」
『ドラゴン』はもういないが……『ドイツ軍』はナセルとともにある。
ナセルの復讐の助力としてこれほど頼もしいものはいない。
「この騒ぎで王都も激しく動き出すだろうな……」
そうだ。
もう賽は投げられた。
あとは最後までやり切るだけだ。
「まってろよ……勇者────そして愛しい愛しい~俺のアリシア……」
ドロリと濁った目を元ナセルの家の方へ向けつつも、
まずは他の連中からだ────とそう決める。
さっさとアリシアと勇者をぶっとばせばいいのだろうが、それでは生ぬるい。
きっと怒りの根源たる勇者とアリシアに復讐を果たした時点で──ナセルの怒りは収まってしまうかもしれない。
それじゃあダメだ!
俺は全部に復讐したい。
たとえば、
国王や教会……俺をコケにし、馬鹿にした国──。
たとえば、
家族を殺し、最後の肉親を攫った国……。
たとえば、
大隊長を──あぁ、そうだ。あの人を焼き殺した国!!
そうだ、そうだとも!
俺を……俺達をあざ笑った──この国家への復讐をしたい!!
だから、この身を焼き付くさんばかりの復讐心を維持するためには、勇者とアリシアは最後の最後だ。
そうしなければ、この理不尽に対する怒りを失うかもしれない。
それではダメだ。
そんなの許せない…………。
「絶望」と「激痛」を思いしれ。
俺に絶望をくれた……──だから国王にも絶望を
俺に激痛をくれた……──だから教会にも激痛を
必ずだ……。
必ず送り届けてやる──!
「来い────『Ⅱ号戦車B型』!!」
──俺のドイツ軍がな!!!
ズゥゥウウンン!!
Ⅰ号戦車より遥かに大きな戦車が顕現し、戦車兵とともにナセルに従う。
ナセルはⅠ号戦車にかわる新たな戦車を呼びだしたあと、躊躇なくドイツ軍歩兵一個小隊を召喚した。
「出でよ──ドイツ軍!!」
ブワッ──! 中空に巨大な魔法陣が出現し、多数のドイツ軍歩兵が現れる。
それは分隊以上に統率が取れた精強なる男達の集団だった。
初めて見るタイプの兵も────。
恐らく、下士官ではないのだろう。
服装、装備……そして出で立ちが明らかに異なる。
見た目からして、将校なのだろう。
『
小隊の指揮官がまとめて報告する。
いつもの敬礼。型どおりの報告────ははは、そうだ。これが俺の軍隊だ!!
戦車一両に、歩兵一個小隊。
この王都において、最強の戦力。
ならば、やることは一つ。
「…………教会を滅ぼす────ついてこい」
『『『『
整然とした敬礼の列。
彼らの動きだけで空気が震える。
「目標、聖女教会本部!!」
ビシィ!!
と、ナセルが鋭い目つきで教会の方向を指さすと、
『
小隊長はキリリと表情を引き締め、教会を視線の先に見据える。
「思う存分に破壊し、蹂躙するぞ!」
『
指揮官のみの敬礼──。
すぅぅぅ……、
『
ズザザン!
号令に従い、
一斉に右を向く30名程の男達。
その動きは一糸乱れぬもの。
『
ザッザッザッザッザッザッザ!!
『
歩調をとる将校に従い、整然と行進。
ザッザッザッザッザッザッザ!!
頼もしい軍靴の音が王都の石畳を叩く。
彼らドイツ軍一個小隊が行進する先に向かって、ナセルも進撃を開始する。
召喚したⅡ号戦車に
「
『
操縦手席からハッチを開けて顔を覗かせている戦車兵が明確に答える。
車内でクラッチを操作する気配がしたかと思えば、
──ギャラギャラギャラ!!
Ⅰ号戦車よりも遥かに重々しい音が響き、Ⅱ号戦車が一個小隊と肩を並べて進軍を開始する。
「待ってろよ……クソ教会め」
ナセルは砲塔から上半身をつき出しつつ、憎しみと怒りを滲ませた目で行く先を──教会の豪奢な建物に向けた。
ギャラギャラと地面を打つ激しい履帯音を聞きつつも、疼き始めた胸の呪印に手をあてる。
(この胸の痛み────存分に返してやるッ!)
暗い炎を灯した目でナセルは誓う。
そして、
広大に過ぎる王都を整然と行進し、ナセルの軍隊は進みに進む。
戦車とドイツ軍の整然とした行進は街の住民をして畏怖の対象なのだろうか。
住民のほとんどは窓に扉を固く閉じて、その身に災禍が降りかからないように震えるのみ。
まばらに接触する王都の警備部隊もドイツ軍歩兵の敵ではなく。
散発的に襲ってくる警備兵は鎧袖一触。小隊の自衛火器であっという間に蹴散らしてしまった。
まるで無人の野を行くが如く、この地区の警備兵はあらかた駆逐されてしまったのだろう。
見える先には教会へと続くだだっ広い道しかなかった。
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