第15話「王都警備隊vsドイツ軍歩兵分隊(前編)」
※ ギルドマスター視点 ※
(ひぃ、ひぃぃいい!!!)
ギルドマスターは死体の中を這いつくばっていた。
それというのも、クズでゴミで役立たずのイカれた異端者のせいだ。
女を盗られた腹いせに冒険者ギルドを攻撃してきたイカれた殺人鬼。──さっさと森で殺そうと考えたのは間違いではなかったらしい。
あの野郎!
俺の最強技を鼻くそみたいにぃぃいい!!
手にしていた大剣の残骸を骸の中に放置して逃げ出す。
無様に這いつくばる前の光景がなんどもフラッシュバックして股間が緩んでしまう。
ホカホカと立ち上る湯気に、血生臭いそこにアンモニア臭が加わった。
本日何度目の失禁だろうか。
さっきまでは、最強技でぶち殺してやるはずだったのに──。
そう、ほんの少し前のこと。
無防備に鉄の馬車からまんまと出てきた狂人ナセル。
そいつに鉄の大剣を叩き込んでやろうと、スキルを練りに練った! あとは、得意の『縮地』と『筋力倍加』で一気に接近!
トドメは我が家に伝わる剣聖奥義──『キガスラッシュ』をぶちこんでやれば、奴は晴れて天国の両親のもとへ行けたと言うのに!!
(なんだ、あれはよぉ!?)
ジャキリと向けられた金属の塊──、
そして、
「まずは、謝罪しろや──この、ボケぇぇぇ!!」
パパパパパパパパパパパパ!!
と、竹の破裂するような音を聞いたのを最後に無様に死体の中に倒れていた。
なんだよ!
なんだってんだよ!?
俺が何をした!
全部お前がトロ臭いから悪いんだろうが!
嫁を盗られたのも、
ギルドの連中に不利な証言されたのも、
異端者になってからイジメ倒されたのも、
ぜーーーーーんぶ、お前のせいだろうが!
俺はちょっと手を貸しただけだっつの!
ギルドマスターはその考えに囚われて、ただひたすら逆恨みをしている──と、彼なりの考えに基づいてナセルを罵倒した。
そして、心のなかで散々に罵る。
次は殺してやる、と──。
…………。
……?
次?
そんなものあるのか?
それを知るのは────────、
「いたぞ! あれだ!!」
こんな大騒ぎだ。
当然衛兵が駆けつけてくるだろう。誰もがそのことは予想していた。
地面を這いつくばるギルドマスターからすれば、ちょうど運よく王都警備隊が騒ぎを聞きつけたように感じたらしい。
すぐさま警備隊は隊列を組むと、この「戦場」に乱入してくる。
体中激痛に苛まれてはいても、腐っても元は軍の高官で、現冒険者ギルドのマスターだ。生半な鍛え方をしていない。
剣を握らなくなって随分と立つが、並程度の腕しかない元召喚士など一蹴できるそう考えていたのだ。
ところが蓋を開ければこれだ。
「ゲフッ!」
血反吐をしこたま吐くと、視界の霞を感じ始めた……。失血の症状が出始めている。
(くそっ! 死んでたまるか!! ようやく国王にも勇者にも覚えがめでたくなったというのに!)
俺の出世が一番大事!
そう言わんばかりの執念でギルドマスターは生き汚くはいずり回る。
彼の目当ては冒険者の道具袋だ。
新人や貧乏冒険者はともかくとして、並み以上の冒険者なら傷薬やポーションは必須アイテムだ。
外から戻ってきた冒険者なら使い切っている可能性もあるが、幸いにしてギルド内にいたのは、ほとんどがこれから冒険に行く冒険者たち。
そして、思った通りポーションが見つかった。
狙い通りではあったが、残念ながら見つかった物のうち中身が無事だったのは一個だけ。
それも普通のポーションだ。
地面の転がるポーションを血だまりの中でペロペロと舐める。
酷く血の味が口に残ったが、ポーションの効果はたちどころに現れる。
妙な武器で穴だらけにされた傷がふさがって行き。血が止まる。
…………。
だがそれまでだ。
失った血は戻らないし、激痛は未だ残っている。
閉じた傷も今にも開きそうだ。
「く、くそ……」
ナセルの野郎は王都警備隊に気を取られている。
対抗するために、新たな魔法陣を生み出しているらしい。
……チャンスだ!
ナセルが召喚を叫んだ瞬間──その一瞬を見計らってギルドマスターは走り出した。
「ッッ──────ッ!」
背後でナセルの罵倒が聞こえたが──知るかッ!
ギルドに戻ればポーションがある。
武器もある。
多少は冒険者も職員も残っているだろう!
それに王都警備隊がいる。チラリと見た限りでは一個中隊相当の兵がいた。
あれだけの数なら十分すぎる。
(グチャグチャにされるがいい!)
冒険者を大量に殺した異端者だ。
オマケに俺まで殺そうとしやがった。許せるものかよッ!
簡単に殺してやるものか。
元将官であった権威を傘に来てでも、王都警備隊のリンチから奪い取るつもりで画策する。
ヨロヨロとした足取り。
自分でも腹立たしいくらい
だがそれでも逃げ切れた。
ギルドの扉に手を掛けると中に滑り込む。
そのまま、受付窓口に向かい──カウンターに体を押し付け無様な格好でドスンと乗り越える。
「ぐふ……ぐほ……くそ、ナセルの野郎ッ!」
乱暴な手つきでカウンター裏の引き出しを漁り、冒険者に売り出す最高級ポーションを取り出した。
いくつが零れて派手に割れてしまうが知った事か!
「んぐんぐんぐ……ぷはー」
飲みほしたとたんに体中に血が巡るのを感じる。
ポーション由来ではあるが、多少なりとも血も戻るのだ。
流石に全快するほどとはいかないが、傷は全て塞がった。
あとは肉でも食って安静にしていれば元通りだが、
「そんな暇はねぇ! ナセルの野郎をぶっ殺してやる!」
傷がふさがったおかげで元気が出たのか、ギルドマスターは憤怒の表情でギルドを闊歩する。
武器の確保と手下の募集だ。
「おい誰か────」
声を掛けようとしてギルドを見回せば──……まー見事にすっからかん。
誰一人残っていない。
「腰抜けどもが!」
吐き捨てる様に悪態をついた後、ギルドマスターは2階にある自室へ向かう。
部屋の中の武器棚を漁ると、デッカイボウガンと両手剣を持ち出し、今度こそ本気でナセルを仕留めようと窓から覗き込む──────、
「な、なんだありゃ!?」
そこにいたのは異様な集団。
灰色の服に身を包んだ角無し兜をかぶった男達。
手には木製の棒を槍のように構えている。
整然と並んだ王都警備隊に比べるとなんと無様な連中だろうか。
ギルドに逃げ込む寸前、召喚魔方陣の出現を確認していたので
理解できたが、……それでも混乱していた。
なにせあんな召喚獣はみたことがない。
『英雄』召喚のように、人間を召喚する術は確かにある。
またはモンスターと言った既存の魔物を複数召喚する術もある。
あるが……──あれ程の規模の人間を呼びだすなど、見たことも聞いたこともない。
そして、ナセルの潜んでいる鉄の馬車。
恐らくあれも召喚獣なのだろう。
ナセルは当時、腐ってもLv5のドラゴンを呼びだすことのできる召喚士だった。
その練度と魔力総量を鑑みると、
Lv0や1程度の召喚獣なら複数呼びだすことも出来るのだろう。
だが、あれはいったいなんだ!?
疑問符を浮かべるギルドマスターの目前で戦端が切られた。
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