第14話「これがお前らのやったこと──!!」
※ ナセル視点 ※
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
狭い砲塔内に充満する銃声と硝煙の香り。
薬莢受けから零れ落ちた空薬莢が車内で、キィンチィン♪ と派手に舞いおどっている。
ナセルが取りついているのは、頑強な作りの機関銃。
その典型たるMG13は全然故障もせずに快調に銃弾をばら撒いていった。
彼にとっては、ほんの最近に習い始めたばかりの銃。
だが、その扱いは恐ろしく容易だった。
扱いやすく、
簡便で、
強力、
そして、いともたやすく人を殺すことができるものだった。
鍛えた筋肉も、
積み重ねた剣技も、
技巧を凝らした鎧も意味をなさない。
それは、もぅ。
ええ、えぇ、
それはもう、無慈悲なまでの
今も目の前で、頑丈な鎧に身を包んだ冒険者が突っ込んできた。
盾を構えて、急所を鋼鉄で補強したハーフプレートアーマーの重戦士。
冒険者ギルドに所属していただけにナセルは多少ないし、冒険者どもの顔を覚えている。
もっともギルドにいるよりも、ダンジョンやら街の外で冒険者稼業をしている時間の方が多かったので、それほど顔見知りがいるわけではない。
なので────今目の前に、突っ込んできた奴も顔は見たことがある。
え~と。
あー……アイツだ。
………………名前忘れた。
ただ、先日──俺に死ねとか言って馬糞と石のコンボを投げつけてきたことは覚えている。
覚えているよ? 名前は──。
ガガガガガガガガガガカカガ!!
思い出す前にそいつは穴だらけになって絶命する。
盾?
鋼鉄の鎧??
防げるわけ、ねーーーーーだろッ!
だが、さすがは重戦士。
その背後に隠れていた冒険者は辛うじて無事だったらしい。
最後に壁の役割をしたということか────無駄だがな!!
背後にいたのは魔術師風の女。
こいつも見覚えあるな……。
えっと、前々からしつこく食事に誘って来た────あ、ダメだ。
思い出せない。
「(はぁぁああ!!
いちいち魔法名を叫んでぶっ放してくるバカ女?
一瞬、視察孔からムワッとした熱を感じたが……。
ぺし──。
「(命中!! ……あ、あれ? な、なんで?? あ、鉄かぁこいつ!)」
女魔術師は無防備に突っ立ち魔法を錬成。
ナセルからは装甲ごしのため、彼女の声はくぐもってきこえる────。
相手する必要もないな。
魔法がどれ程かと思ったが、単純に戦車の装甲は厚い。
かすり傷一つ追わせられないようだ。
じゃあ、死ね──、
「っと、……弾切れか」
っとくにぶっ飛ばしやるつもりが、引き金を引きっぱなしにしたせいで、一挺あたり75発入りのダブルドラム弾装は空になっていた。
っと、予備弾装はーっと、
「(あれ? でも、効いてる!? 静かになった! よ、よし!)」
よし! じゃねーよ、バーーーーカ。
(ただの弾切れだっつの)
よっこいしょ、
ナセルは二挺のMG13からドラム弾装を取り外すと、代わりに予備弾装の25発入り弾装を叩き込む。
あとは、コッキングレバーを引いて──。
「(と、とどめぇぇええ!!
ガシャキ!
初弾を薬室に送り込んで────。
照準を。
うを! 女魔術師のおパイが!?
「(やった! 無抵抗になった!! アタシが倒──)」
ガカガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
「(した────ピブゥ!!)」
ボン! と、立派な双丘が弾けとんでくたばる女魔術師。
「すっさまじいな……!」
弾装交換後も丁寧に冒険者どもをぶち殺していく。
少なくともコイツらは困窮している俺を嘲笑い、ギルドマスターの手下として動いてきた連中だ。
しかも、俺の家族が殺された時、
大隊長が焼かれた時、
笑って見ていたことは知っているぞ!!!!!
人の死が楽しいか!
俺が汚物と血反吐にまみれて這いずりまわるのを見ていて楽しいか!!
あぁ!!!??
楽しいか!!!
だったら自分の殺される様と、
最後は自分が殺される様を見て笑うがいいさ!!!
それがお前らのやったことだろうがぁぁぁああ!!!
真正面に撃ちまくるだけで、冒険者どもは、たちどころに壊滅。
む!?
一人だけ上手い具合に戦車の側面に駆け込みやがった。
「逃がすか!」
ナセルはゴロツキから奪った剣を手にして立ち上がるも──。
『これを』
操縦士から金属の塊を渡される。
こりゃぁ……。
──たしか、MP40短機関銃。
ギルドに攻め混む前にナセルは呼び出した召喚獣達から、彼らの武器について一通り説明を受けていた。
最初は面食らったものの、ナセルの産み出した召喚獣だ。
何故か彼らの言うことも、その武器についてもすんなりと理解できる。
これはドラゴンと意志疎通ができた頃の感覚に近い。
つまり、召喚獣とはそう言うものなのだろう。
「ありがとう」
素直に礼をいって受けとると、ハッチを開け様に素早くコッキングレバーを引いて初弾を叩き込む。
あとは引き金を引くだけ──子供でも扱える。
ハッチから顔を出したナセルの目の前には、片腕だけになった冒険者が一人。
確か────…………。
B級の有望格だったか?
名前は忘れたけど、ギルドで飯を恵んで貰う時に散々俺をいたぶってくれた奴だ。
コイツ自身の汚物も投げられたっけな。
「よぉ」
「ひっ!? な、ナセル!!??」
見りゃわかるだろうが────そして、
「ぐおおおお!!
戦士系スキル、防御技の闘気防御……。
鎧を含む防具と皮膚を強化する防御スキルだ。
で────?
…………死ね。
パパパパパッパパパパッパパン!!
軽快な連射音のあとには、全身をぶち向かれて死のダンスを踊るB級冒険者。
時には、軍用の装甲鉄板すら貫く銃弾が、人が着れる程度の鎧で防げるわけがない。
スキル? なにそれ?
シュウウウとMG13とナセルの持つMP40が放熱する蒸気音をたてている。
それは、冒険者どもの全滅を意味した。
あっという間に
視線の先ではギルド職員が逃げ散り、茫然と佇むギルドマスターが一人──ポツねんと残されていた。
それを見て、ナセルは口の端を歪めて笑う。
別にわざと外したわけではない。
巻き込まれて死ぬならそれでもよかったのだが、なんの悪戯か──ギルドマスターを一人残して冒険者ギルドは全滅してしまった。
その様に胸のすくような思いだ。
思えば居心地の悪い所だった。
退役軍人の受け皿と言えば聞こえはいいが……実質はただの職業斡旋所だ。
そこでデカい顔をしているだけの退役軍人達。
そして、定職にもつかずブラブラしているだけの若者たち。
どうりでアリシアみたいなビッチがいるわけだ。
奴らは冒険だのなんだのは、どーーーーでもいいんだ。
若者は楽な仕事を取り合い適当に日銭を稼いで、
退役軍人どもは補助金でうまい汁を吸う。
若い女は有望な男を見つけて取り入り、あとは楽して
「はっ、せいせいするぜ」
そりゃ、真面目にコツコツやっている俺が目障りなわけだ。
ベテランだ、ベテランだ。A級だのと持て囃す以上に、裏で嫉妬や陰口が飛び交っていたことを知っている。
そうだ、知っているともさ!
真面目で温厚な冒険者ナセルだと思っていたか?
な、わけねーだろ!
実は知っているともさ!
腐っても最前線で魔王軍と戦っていた兵士だぞ?
鈍くて生きていけるか!
アリシアのこともな! そう、
(信じたかった……信じたかったんだ──)
だけど、俺が今まで真面目にコツコツやってきたのはなぁぁ!
一人の王国人として国に貢献するため身を粉にして働いくことが国のためになると思っていたからだ!
それが、
バンッと、胸を叩いて異端者の焼き印を示す。
砲塔に足をかけて立ち上がり、ギルドマスターの前に姿を現す。
「よくもやってくれたな!」
そうだ、
「よくも全てを奪ってくれたな!」
──
バリバリと、服を破り開けて『ド&%$』の呪印を晒す。
醜く焼け潰れた皮膚には、くっきりと輪っかの中に十字紋。
いわゆる教会十字で……、これが胸にあるということは異端者の証だ。
これから復讐する奴らには、全部これを見せつけてやる。
異端者の証と『ド&%$』の呪印を!!
自分たちが呼び寄せた召喚獣だ。
思い知ってもらう。
「な、ナセルぅぅぅ!! 貴様、この人殺しがぁぁ!!」
ワナワナと震えるギルドマスターは大剣を構えて見せると、ナセルに斬りかからんと突っ込んできた。
なるほど──。
剣士としては、並程度の腕しかないナセルから見れば十分な速度と膂力だ。
正面から立ち向かえば勝ち目はないだろう。
ダン! と踏み切り、飛び上がったギルドマスターは血に濡れたⅠ号戦車に突っかかり正面装甲を足掛かりにしてナセルに斬りかかった。
「ナぁぁぁぁぁセぇぇぇぇぇルぅぅぅぅぅぅ!!」
ダン! ダン! ダァン! と、一歩一歩重々しい足音とともに、
踏み切り、踏み切り、踏み切り────!!
────死ねぇぇぇぇナセルぅぅぅ。
そう言っているのだろう。
何かのスキルが発動し、ギルドマスターの持つ長剣が発光している。
噂で聞く、剣聖の技でもぶっぱなすつもりか?
だけど、
「──テメェにゃ腐るほど借りがあるぜ! クソマスターがッ」
ジャキリ!
金属音も頼もしく、ナセルの手に握られているのは──ギラリと輝くアルミ加工の短機関銃。
「まずは、謝罪しろや──この、ボケぇぇぇ!!」
ナセルの気合一閃!
そして、気合の
パパパパパパパパパパパパパパパパパパッパパン!!!
ドイツ製9mmパラベラム弾が唸りをあげてギルドマスターの体を貫いていく──。
「ぎゃああああああああ!!!」
戦車に乗り上げた姿勢のままカウンター気味の射撃を喰らって、もんどりうって倒れるギルドマスター。
そのままベシャリと路上に投げ出されて、冒険者の死体に
「いい格好だな! ええ、おいぃぃ!!」
ヤクザ口調で砲塔から身をのりだしたナセルは、血だまりの中でもがいているギルドマスターを見下ろすとMP40を構えてとどめを刺そうとする。
あれほど乱射を喰らったというのに、呆れたことにまだまだ息がある。
だが、それも長くはないだろう。
もっとじっくり甚振ってやりたいところだが、ここは街中。
それも王都だ。
そう時間もかけられ──────。
「いたぞ! あれだ!!」
チッ!
舌打ちをしたナセルの目に移ったのは完全武装の王都警備隊だ。
今の今まで姿を見せなかったのは体勢を整えていたからだろう。
乱れのない歩調を見ればかなり前から捕捉されていたらしい。
まぁ当然だろうな。
「東門警備の一個中隊か……そこに補助の自警団つき───。約200名……」
200名…………。
その数に、ナセルを天を仰ぐ。
あぁ、なんてこった。
「200名────────……」
ははッ!
「──楽勝だなッ!」
ニイィィと乱暴に口を歪めると、実に狂暴な笑みをつくる。
かつてのナセルを知る人なら、彼がこんな表情をするなんて思いもよらないだろう。
ナセルの笑みの意味など知らず、王都を荒らした暴漢を殲滅せんと警備隊が隊伍を揃えて前進開始。
それを好機と見た男が一人。
「『ドイツ軍』召喚! ────って、あの野郎ッ!」
召喚魔法陣を呼びだしたナセルの目前で脱兎のごとく駆け出すのはギルドマスター。
どうやら冒険者の死体の中からポーションを偶然見つけたらしい。
「ち……まぁ、いい。あの怪我じゃそう遠くへはいけないだろうしな」
銃弾を何発も喰らったのだ。即死じゃないのは運が良かっただけ。
安物のポーションじゃ血止めくらいにしかならないだろう。
事実、ギルドマスターはヨロヨロと走り、ギルドの建物に籠ってしまった。
あれでどうするつもりなんだか。
「──サクっと片付けてから、じっっっっっくり甚振ってやる」
その前に、
「出でよ!! 『歩兵一個分隊!』」
ナセルの叫びに応じるように召喚魔法陣が現れる。
それは1号戦車の者よりも一回り大きく。
かなりの規模の者が召喚されそうだが──────。
『
バシリと敬礼する軍曹の階級を付けた兵の他10名。
計11名の完全武装のドイツ兵が現れた。
「軍曹、敵は増強された王国歩兵一個中隊だ。逐次援軍が来ると思う。………………全部蹴散らせ」
『
簡潔に命令を伝えればそれだけでいい。
愚鈍な召喚獣なら一々指示を出さねばならないが、彼らは違う。
統制され訓練され指揮された軍隊だ。
ナセルの命令を聞けば、あとは『
あとは彼らに任せておけばいい。
さて、
俺はお楽しみを始めるか───。
再びⅠ号戦車の砲塔に潜り込んだナセルは、MG13の弾倉を交換し、冒険者ギルドに照準を指向する。
ニィィ……。
簡単にくたばってくれるなよ。
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