第13話「冒険者vsⅠ号戦車(後編)」
※ ギルドマスター視点 ※
────
ギルドマスターは、遠くで……いや、どこか狭い場所で叫ぶナセルの声を聞いた。
……目の前には、突如現れた鉄の馬車。
それは馬もないのに走り、王都の石畳を砕くほど力強い歩みをしていた。
そして、その馬車にはナセルを殺すため送り込んだゴロツキが一人縛り付けられている。
一瞬何ごとかと思ったが、その馬車から顔を出したナセルをみて理解した。
あぁ、奴が意趣返しに来たと──。
その直後──────。
バババババババッババッ!!
あの鋼鉄の馬車から突き出す二本の棒から火が吹きあがった!
「ンギャアアアァァァ!!!」
その一瞬の後に、棒の前に括りつけられていたゴロツキが殲滅魔法でも喰らったかのようにブッシャァァァ!! と血しぶきを上げてぶっ飛んだ。
……いや、違う!?
ゴロツキだけじゃない!?
見れば、今まさにナセルの馬車に切りかからんとしていた冒険者の一団がバタバタと倒れていく。
もう、ほんと……バタバタと!!
ババババババババババババババババババババ!!!
ギラギラと光る棒の先端、あの馬車からは常に猛烈な轟音が発せられる。
「な、なんななんなんんだぁぁ!?」
半分近くがあっという間にミートソースをぶちまけたような有様。
ビクビクと震えている死体は軒並み頭部がない。
(な、何が起こった!?)
ギルドマスターは半分近くに減った冒険者をみて、ポカンと口を開けるのみだが……。
このままではマズい!!
ナセルの馬車は魔導兵器って奴だろう。きっとどこかで魔王軍の兵器でも手に入れたに違いない。
でなければ、あんな鉄の代物は見たこともない。
つまり魔王軍しか考えられない。……奴は本物の異端者に成り下がったのだ。
ならば、容赦などいらない。
もともと容赦などしていないが、……これでも、罪悪感くらいはあった。
だが、今のナセルを見てそれも消えた。
『ドラゴン』を行使できない召喚士など何ほどのこともない。
そう思ったギルドマスターは冒険者を
バン! と半開きになっていたドアに向かって叫ぶ。
「何をしている! 仲間がやられたぞ! 仇を討て! 報酬は倍……いや、3倍出す!!」
「「「うおおおおおおお!!!???」」」
先に飛び出してきた冒険者連中とは違い、中でのんびりと構えていたベテラン連中が色めき立つ。
報酬が3倍だって!?
その提案にのったのは、どいつもこいつも屑ばかり。
ベテラン気取りでいるが、名も知られぬ雑魚ばかだ。
それがゆえに連中ときたら、強く優しく、頼りがいのあるナセルに以前から嫉妬していたらしい。
そんな奴らに限って、これ幸いと緊急依頼に乗っかってきやがった。
「いけ! 異端者の首をあげろ!」
ギルドの中にいた連中も残らず繰り出していく。
鉄でできていようが何だろうが、魔法や鈍器で攻撃すれば──あっと言う間にぺしゃんこにできる。
そう思っていた──。
「「「うおおおおおおおお!!」」」
さらに増えた冒険者が雄たけびを上げて突っ込む中、その勢いにそれに恐れをなしたのか鉄の馬車がソロソロと後退りし始めた。
その様を見たときのギルドマスターといえば、心底笑い転げそうになっていた。
恐れをなして逃げるナセルに──。
あのベテラン冒険者でA級の『ドラゴン召喚士』が尻尾をまいて逃げているのだ。
たかだかB級以下の冒険者に!
「ははっはははは! 見ろ、あのザマを!」
自分の子飼いの冒険者が、ナセルの首をあげるところを夢想して大笑いするマスター。
ナセルに被せた異端者のレッテルと国家反逆罪のそれ。
これらの行った悪事もこれで握りつぶせると思うと、心底ホッとする。……二度と話題にするやつも現れないだろう。
あばよ。
俺の出世の肥やし。
尻軽女のアリシアと、おバカ勇者をくっつけただけで俺のギルドは安泰だ────。 ──と?
だが、
大笑いするギルドマスターの目の前で、信じられない光景がおこる。
バババババババババババババハバッババババ!!
バンババババババババババハバッババババッ!!
大音響!
大音響!?
大・音・響!!!
ババババババババババババババババババババ!!
「突撃ぃぃ──ぎゃぁ!」
「金貨10枚、頂だ──べぶ!?」
「うひひひ、首一個なんて安──ハブ?」
「うおおおおお! しね──ビギャ!」
「ぎゃああああ!! う、腕があぁあ! ぐはッ」
なにかが……。
なにかが冒険者の命を食い荒らしている!
「うぎゃあああ!! いでーいでーよ……」
腹に大穴を開けた野郎がジタバタと転げまわり、ギルドマスターに縋りつく。
大挙してナセルを追い詰めていった冒険者だったが、何もできず、何もない所で理解できないままグッチャグチャの死体になり下がる……。
そして、現在進行形で、ギルドマスターも周りでも、あれほどいた冒険者が、ボン! グシャ! ブチュ! と、…………えええ!?
「な、え? な、ええ? なななな!?」
たっぷりいた、冒険者があっという間に片手で数えるくらいに……。
おぉぉ!!??
一人、二人と突撃に成功したらしい。
片腕を失いながらもヨロヨロと──────。
って、死にかけとるやないかい!?
冒険者にしては根性があるらしく、片腕の彼はなんとかナセルの馬車に取りつくが……。
そんな満身創痍な状態で何を? ……というか何かできるのか?
ガコン!
突如、ナセルが馬車の上部から顔を出すと、手にした武器らしきものを構えると、
パパパパパッパパパパッパパン!!
竹がはじけるような音が連続でなり響き、冒険者が呆気なく殺された。
「あ、あの野郎!?
もとは冒険者仲間だというのに、簡単に殺していくナセルをみて理解が及ばないギルドマスター。
残りの生き残りの冒険者も満身創痍で、近づいてもナセルによって至近距離で殺されている。
情けや容赦の二文字は彼からは感じられない。
ギルドマスターがキョロキョロと見渡す頃には生き残りなど……。
って、うそぉぉぉぉ!?
30人以上はいたぞ!?
驚愕して固まっているギルドマスターに向かって、バババババババ! と! まるで空から稲妻が落ちたかのような恐ろしい轟音が鳴り響く。
途端に、ギルドの窓ガラスが割れ砕け、内部から職員が「きゃーー!!」と悲鳴を上げている。
っていうか、ギルド職員なら俺をまず助けに来い!
中に隠れてるんじゃねぇぇ!!
「な、なにをしている!? 異端者を討て!!」
踵を返して、ギルド内から冒険者を引っ張り出そうとしたギルドマスターだが、
「れ、連中はどこだ!?」
「とっくに逃げましたよ!!!」
昨夜からずっと勤務している受付嬢がヒステリックに叫ぶ。
「そんなことより、私の超過勤務の給料ください!! いーえ、退職金よ! 慰謝料よ! もう、こんな仕事辞めてやる!!」
「今そんなこと言ってる場合か──」
そして、……ビュン!!! ピシィ──!
何かが高速で飛来しギルドマスターの耳を引き千切っていく。
「あヅッ!!??」
パタタッ!
突如飛び散った血に、今更痛みが込み上げてくる。
って、な、なんだ!?
うお!? み、耳がぁぁ……!
思わず、顔を押さえたその手にはべったりと血が──────「ひぃぃい!!」
ナセルぅぅぅ! お前か!? お前がやったのか?!
「やべ!? 出遅れたぁ! 俺も異端者狩りにまぜ──ドピュ」
たまたま
そのまま、ナセルに向かっていき途中で頭部を爆散させて石畳に骸を晒す。
せっかく冒険から帰ってきたのに……。
他にもパラパラと冒険者が駆けつけてくるが、悉く撃ち滅ぼされる。
A級? B級? いやいや、C級だろうが何も関係がない。
ナセルの首をあげんと飛び出してきた冒険者どものは哀れにも────ボォン! と、ぶっとばされて身元不明死体に……。
そして……。
シーン……──。
「あ、あれれ??」
ぼ、冒険者どもは………………?
ポカーンとギルドマスターが顔を間抜けに歪めているのも、無理なきこと。
ナセルの首を捕れぇぇ! と、凄くカッコつけたかっこうのまま硬直している。
さっきまでの騒音とはうってかわって、シーーーーーーンとした、ギルド前。
ナセルの馬車が立てるドルルルルルル……という低い音のみ。
静まり返ったギルド前には、あれ程いた冒険者はほとんどが物言わぬ骸になっていた。
「え?」
…………え?
「は?」
…………は?
「な、何が起こった──?」
ギュラギュラギュラギュラギュラ────。
呆然とするギルドマスターの前には冒険者どもの屍の道ができている。
戦闘の成り行きを見守っていた者は冒険者ども以外にも職員や出入りに商人がいたが、
あっという間に冒険者が全滅したその様子に気付いたギルド職員らは悲鳴を上げて一斉に奥に逃げ込むか、ギルドから逃げ散っていった。
そして、一人残されるギルドマスター。
あれ程いた冒険者どもは、今は路上で顔や腹に大穴を開けて息絶えている。
辛うじて生きている者も、じき死者の群れに加わるだろう。
そう──今、ギルドマスターを護るものはもう何もなかった。
「ば、ばばっば、ばかな!? な、ななななん、何をした!」
狼狽し、震えているギルドマスター。
その様を嘲笑うかのように鉄の馬車は動き出し、死体を無造作に轢断していく。
グシャ、ブシュ「ぎゃあああ!」ブチ、グシャ!!
肉袋と成り果てた死体、または死体未満の立てる肉の弾ける不協和音が、ギルドマスターの恐怖を煽り立てた。
だが、それでも逃げ出さないのはマスターとしての責務────いや、ちがう。
恐怖してはいた、それは間違いない。
それ以上に――かつては王国軍の将官で、いかつい体つきで歴戦の勇士のごとく姿から、「豪傑マスター」とまで呼ばれている男だ。
そして何より──これでいて
千年の時のうちに血は薄まり、剣の腕も剣聖というにはおこがましいレベル。
だが、間違いなく強者の部類なのだ。
たとえ、前線で戦った経験は少なく、実質は指揮官タイプであったとしても、ギルドマスターはギルドマスターなりに、それなりの修羅場を潜り抜けている。
その矜持があった。
だから、ギルドマスターは冒険者の持ち物であった、地面に転がる大剣を拾い上げると、死体を引き潰しながら前進する鉄の馬車に真っ向から立ち向かうことにした。
ただ、既に全身はガクガク。
股間からは生温かいものが……。
それもそのはず。
数多の死体を引き潰した鉄の馬車は、その車体を真っ赤に染め上げ、あたかも地獄の死者の如し────。
それは恐怖の対象としては最上級のものだった。
恐怖の吐息と共にギルドマスターは、ジワリと浮かんだ涙をぬぐいもせずにへっぴり腰で剣を構える。
そして、
「あ──────」
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