夢旅少年

久乙矢

序.月と砂浜

 月がまぶしくて目が覚めました。

 いえ、もうずっと前から覚めていたかもしれません。

 ふとんの柔らかさが心地よくて、いつまでも夢心地でいたのです。

 でも、そろそろ行かねばなりません。今日が親友の誕生月であったことを、少年は思い出していたのです。


 少年は家の外に出ると、月に向かってぐっと身体を伸ばしました。

 左手の端から、右手の端まで、どこまでも海岸線が続いています。海は真空のように透明で、水平線の果てで宇宙と混じって、まるでこの星が世界の底にあるようです。砂浜を洗う波の泡だけが、それが海があると主張します。

 波は砂浜に打ち寄せます。海岸には、そうしてどこからか流れ着いた鍵がちらほら、拾われるのを待っています。

 少年が鍵の一本を手に取ります。

 少年は、親友にはルルクンを贈ることに決めました。


 家に戻って、クローゼットの扉を開けて、ハンガーにかけられたシャツをかきわけ奥に入ると、その先は浴室になっています。ちょっと狭いですが、少年がひとりくつろぐには十分です。

 浴槽には湯が満たされています。少年は服のまま浸かると、仰向けに身体を寝かせ、そのままゆっくりと風呂の底に沈ませました。吐く息が泡となるのを感じて、少年はまた少しだけまどろむのです。

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