アルル村の召喚テスト

kumapom

第1話

 アルル村は召喚師を輩出する有名な村であった。

 そこには召喚師を育てる学校があり、生徒たちが学んでいた。


「いいですね、魔度3以上のモンスターを召喚すること!」

 女教師フレアはそう言った。今は召喚テスト最中なのである。


 生徒たちは次々と紙にペンで魔方陣を書き、モンスターを召喚した。

 火のモンスター、エルミーゴ、水のモンスター、ブンニカ、木のモンスター、パラス。などなど。

 様々なモンスターが紙の上にポンッと現れた。ただ一人を除いては。


「ノア君?どうしたのかなぁー?」

「ぬぐぐ……」


 ノアである。召喚師学校に入ったはいいものの、あまりやる気が無く、毎日遊び呆けていたのだ。


「今……やって……ます……フンッ!」

 力を込めてペンを走らせた。


 ポフッ!


 ミニトカゲが召喚された。魔度1のちっちゃなトカゲのモンスターである。

「……」

 ノアは宿題を言い渡された。三日後までに魔度3以上のモンスターを召喚すること!


 そしてその日の帰り道。


「何で出来ないの?」

 隣を歩いていたサティがそう言った。

 彼女は向かいの家に住んでいる幼馴染の女の子だ。

 その傍らには魔度5のペットモンスター、マナルが飛んでいる。ウナギのような半透明のモンスターだ。


「何でって……出来ねぇんだよ!」

「魔法陣ちゃんと覚えてないの?」

「書いても出ねぇんだよ!こうやっても!こんなんしても!」

 ノアはゼスチャーでやってみせる。

「……魔力足りないのかなぁ……」

「んぐぐ……」


 ノアは考えた。何かくゃしい。どうしよう。


「どっかから魔力借りるとか出来ればいいのにね」

 サティがそう言った。

「魔力……借りる?」

 ノアは考えた。そう言えば、こないだ魚釣りに行った時に見つけた円柱が並んでいた遺跡……。

 あそこに行って召喚すればもしかして!

 思わず、気持ち悪い笑みが浮かんだ。


「ちょっと……気持ち悪いんですけど……何?」

「いや、何でもない!それではご機嫌よう、サティ君!」

「……んー?」

 そう言って家の前で別れた。


 その日の夜のこと。

 ノアは召喚道具を持って家をそっと抜け出した。森の方へ向かう。

 それを窓の隙間からじーっと観察していたサティが後を追った。

「どこ行くんだろう……」


 森を道沿いに進み、橋を渡り、横にある藪を抜けて、しばらく行った先にそれはあった。

 中央に丸く平たい石。その周りを囲むように円形に立つ8本の石柱。

 ノアはその真ん中に行き、柏手を二回ほど打った。多分意味は無いが、召喚祈願だろう。


 そして遺跡の真ん中に座り、ペンを走らせた。

(頼んますよ……!)

 軋むペンの最後の筆先が走ったその時!

 ピシャーン!

 稲妻と共に何かが現れた。


 人型。二本のツノ。赤黒い肌。太い尻尾。鍵形の爪。体長3メーター。魔度10のカウデーモンである。


(やった……!)

 喜びと共に不安がノアを襲った。

(これ大丈夫?……制御出来るかな……?)


 ノアはすっくと立ち上がるとこう言った。

「お手!」


 それを傍らの茂みから見ていたサティが叫んだ。

「バカ!何やってんの!」

「あ、サティ!お前何でここに!」


 そう言った瞬間にデーモンの鉤爪がノアの服を掠めて破いた。

「わっ!」


「マナル、奴をバインドして!」

 サティはペットのマナルに命令して魔法を放ち、デーモンを動けなくする。

 そしてノアに近寄り、召喚道具を回収させ、手を引いて走り出した!


「何すんだよ!俺の可愛いデーモンちゃんー!」

「あんたにアレを制御出来る訳が無いでしょ!言うこと聞いてるように見える?」

「あれ?……聞いてない?」

「聞いてないよ!その服見ないさいよ!」


 そして、デーモンを縛っていたバインドの魔法が解け、ノアたちを追い始めた。

「きゃー!来るー!マナル!もっかいバインドバインド!……え?魔力が無いって?強すぎ?」

 デーモンは木を押し倒しながら追ってくる。

「ノア、おフダ燃やして!」

「え?」

「召喚したおフダ!紙!」


 凄くいやそうな顔をするノア。

「せっかく召喚したのに……」

「制御出来ないんだから意味ないわよっ!」

「分かったよ……」

 そう言うとノアは鞄からおフダを取り出した。その時。


 ヒューッ。

 風が吹いた。


「あっ!」

「えーっ!」

 ノアのおフダは風に乗り、ひらひらと宙を舞った。

 そして川向こうの木の枝にひっかかった。


「待ってー!」

 二人はおフダを追いかけた。その間にもデーモンは差を詰めてくる。


(見た目がアレだから、あまり使いたく無いんだけど……)

 サティは素早く紙に呪文を書き、アイアンスパイダーを召喚した。

「やつを止めて!」


 アイアンスパイダーは糸を吐き、森を切れにくい糸だらけにした。デーモンの動きが鈍る。

 その間にノアは川を飛び越え、木の枝に引っかかっているおフダを掴んだ。


「早く!燃やして!そんな保たないから!」

「……サティ……」

「何?」

「……火ィ、点けるもの持ってない?」

「え?」

「……忘れてきた」

「えーっ!」


 デーモンは糸を全部ちぎって迫ってきた。もう目の前である。

 

「えーと、えーと……どうしよう!」

 必死で考えるサティ。

「そうだ!上書き!おフダに上から別なもの書いて!……そうすればきっと無効になるから!」

「別なもの?」

「何でもいいから!」

「何でもいいの?」


 ノアは「サティのバカ」とおフダに上書きした。デーモンは消えた。


 その後、おフダを見たサティにノアは殴られ、こっぴどく説教をされた。

 そしてサティがノアに召喚魔法をみっちり教えることになった。恐ろしきスパルタである。


 そして提出の日。


「やれば出来るじゃない!」

 女教師フレアはそう言ってノアを讃えた。

 魔度3のモンスター、ブンニカを持ってきたのである。


 寝不足でフラフラのノアは複雑な表情をしている。

 そしてその傍らでサティがニヤリと笑っていた。

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