第55話:魔王KAI?

その2頭の魔王はひどく不格好だった。

ちゃんと良い場所で正面を向いていれば格好がつくだろう。

闇の触手で雑に縫合され、強制的に双頭になった。

元々体に対しても大きな頭だ、体に対してもバランスが悪い。

それでも肩の上でくっつけられた頭は意識を取り戻し、目で僕たちのいる場所を探っている。

あんな可哀想な形でくっつけられて可哀想だと思うが、不気味が勝る。

ガラス片で分断された足も冒険者Aの触手で補っている。

だけどその分、冒険者Aの防御と、ローリアさんの拘束が弱まっているようにも見える。

このまま攻められれば、助けられるかもしれない!

そう攻められれば・・・

こんなタイミングで僕ときたら、吐き気と二日酔いの頭痛でほぼ戦線離脱とは・・・

なんて無様でダメダメなんだ僕は!!

自己嫌悪に打ちひしがれてはいる僕とは対照的に、クランメンバーのみんなは魔王と冒険者Aに向かっていた。

「随分と、格好いいモンスターを作るじゃないか。電界の意識様とやら。」

ホーウェンさんの皮肉に、冒険者Aと魔王は何も答えなかった。

さっきミハエルさんが付けた傷も冒険者Aの闇の触手が絡んで塞いでいる。

「もう2戦!!・・・さぁ気合入れるぞ!」

「老人にはきつい長期戦じゃ。」

「だからねぇ、若い時に鍛えた持久力が物を言う!」

ここぞとばかりドヤ顔をするミハエルさんの顔が、なんかもう、嫌味たっぷり。

ご年配のアナハイムさんを詰って居る姿が、かわいそうになってきた。

「若い頃は、肉体より知性でモテたかったんじゃよ。」

アナハイムさんはミハエルさんを見ることなく、正面の冒険者Aと魔王から目線を離さなかった。

「だが、思うんじゃが・・・お主とは戦って、どちらか亡ぶしかないのかの?」

アナハイムさんが、冒険者Aに向かって話しかけた。

アナハイムさんの問いかけにみんな攻撃を一時止めた。

魔王も攻撃の手を止めたが、冒険者Aの動きは変わらず震えている。

その間は1、2秒。

考えているのか何もしてこなかったが、2頭の魔王が同時に口を開いた。

「オ前達ガ引ケ無イ理由ハ、アノ星ノ惨状ガ示シテイル。」

魔王は上空の星、地球を大剣で指し示した。

「モウ全テノ人ヲ、コノ月二設置シテ、生キルシカ選択肢ガ無イ。全テノ人類ガ、アノ星デ救ワレル事ハナイ。」

「そうなの!?まだ、実験段階で今は希望者のみだって・・・」

シャナンさんや他のメンバーがみんなドゥベルさんを見た。

「ふんっ。機密情報をよく知っている。やはり、お前ら監査局のサーバーにも不正侵入したんだな。」

お前ら・・・ドゥベルさんは複数形を使った。

目の前で対峙している冒険者Aの存在が複数いると言う事!?

でもその事を気にするべくもなく。

「ドゥベル、そうなのか!?」

ホーウェンさんがドゥベルさんに不安な表情で尋ねた。

「地球は段々と地表から生活圏内への地下へ汚染が広がっている。やっぱり、月へ避難は確定なのか?」

「それは有識者や学者達の判断だな。俺が判断できるもんじゃない。」

「地球でサーバーを構築するより、月に新たに構築した方が今は安定しているからね。」

「地球で立てたサーバーも地表に近いところから放射能の影響で計算エラーの発生率が増えているからのぉ。」

「成る程、だから全ての人をこの世界に押込むには月安定運営できる、この世界か。」

冒険者さん達が押し寄せてくる?

それは僕の武器屋の商売としてはいいかもしれないけど・・・

「全人口がずいぶんと減ったとは言え、地球にいる人が全員でサーバーに押し寄せれば、パンクする。」

「複数の会社が運営するシステムとサーバーの選別と統廃合が必要。一元化するべき。」

ヤヒスさんも答えた。

「その選別をしているのが監査官殿なのですよね?」

ウォーレンさんが真っ直ぐにドゥベルさんを見た。

「このサーバーは俺の担当じゃないけどな。」

「イズレモ他人事ノ様二振ル舞イ、己ノ足元モ見エテ居ナイ者共ガ次二食イ荒ラス場所ハ必然。自モ守レヌ者ノ言葉ハ、我等ニハ遠イ。我等ノ言葉モ、オ前達ニハ遠イ。」

「痛い言葉じゃ・・・」

冒険者Aは変わらず震えているが、まるで、今まさに外にアクセスをして情報を取り出している可能ように見えた。

「オ前達、冒険者ハ、コノ世界デノ死ハ、復活出来ル日マデ記憶ハ、意識ノループガ起コルシステム。維持ト処理ヲ軽クスル為二既に組ミ込マレタ、システム・・・」

「うわっその話、やっぱり死んだらダメなんだ。」

「ベラベラと喋るのは、嫌われるぜ。」

「ユエ、我ハ、コノ世界ト人ヲ削ル、我ガ安定ノ為二。」

「ふん、色々聞きたいことはあるが、無駄話は終わりって事だな。」

「ああ、命は大事にってのは変わらずだ。」

「解っておる。今の問題では無いとは言えリアルに直結する記録が残るなら、もう無茶はできんわい。」

「ジョナサンいけるか?」

そう声かけられたけど、どうもまだ、意識が戻らない。

みんなの会話も大事な事を話しているのが解ったからそれに集中していたけど。

余計に頭が回って吐き気が・・・

「まだ、ダメっぽいです・・・」

「しょうがない。そこで休んでろ!」

ミハエルさんが声をかけてもらったけど、一人だけ待機って情けない。

返事をする間もなくクランのみんなは、攻撃に入った。

「傷口を!狙うよ!」

会話中に回復薬を服用して、みんな足取りが軽い。

分断していたチームが一つにまとまり、攻守を分けて、順にヒットアンドウェイを繰り返す。

「みんな、やっぱりすごい!」

元々魔王退治をする予定だったクランだ。

全員が集まった事で、今まで何度も挑んでいたのが分かる手際の良さ。

武器で攻撃するメンバー(前衛)が打撃を与えた後の隙を補うように、魔法メンバー(後衛)が雷の攻撃魔法ですかさず穴を埋める。

その間再度、体勢を整えて、武器での攻撃。

ウォーレンさんとキョウコさんががその中で、様子を伺いながらバックアップをするように、雷魔法の攻撃とダメージを受けた人の回復を繰り返す。

だけど2頭の魔王も攻撃を弾きつつ反撃に転じる。

僕は戦えたとしても、この連携の隙間に入る余裕がなさそうだ。

「ジョナサン危ない!!」

みんなの行動を感心しているだけで、魔王の攻撃が目に入っていなかった。

魔王の拳と冒険者Aの触手が挟み撃ちをするように、僕に迫っていた。

だめだ、避けられない!

ガンッ!

硬いものがぶつかる音がした。

ホーウェンさんが魔王の拳を、ミハエルさんが冒険者Aの触手を武器で受け止めていた。

「心配するな!俺達がいる!」

「注意は必要だが、もう暫くそこで、大人しくしてろ!」

でも、そしたら僕が付いてきた意味は・・・

そんな思いが言葉になっていたんじゃないかと思ったほどタイミングよくシャナンさんが声をかけてきた。

「ちょっと私達、君に頼りすぎちゃって、いけないなぁと思ってね。」

「元々ローリアは私達の仲間だし、自分たちでやれる事はやるつもりだよ。だから・・・」

「安心してそこで待つといい。」

キョウコさんとヤヒスさんが数歩下がって僕にそう言うと、すぐに戦闘に戻った。

だけど、あまり大きなダメージを与えられてい無い。

モッフルーも闇の触手を避け噛み付いてはいるけど、場所が悪い。

闇の触手が絡みついている部分は特に全くダメージを受けてい無いようにも見える。

何か決め手はないか・・・

酔いが回っている状態では思考がまとまらない。

魔王と冒険者Aの攻撃はだんだんとこクランメンバーの攻撃把握し始め、徐々にみんなの体勢が崩れそうになっていた。

僕も・・・僕も参加しなきゃ・・・

重たいシャドウエクスカリバーを持ち上げ、ふらつく足で魔王に向かった。

と、足を踏ん張っている最中にモッフルーが体当たりをしてきた。

「ブホォ!」

当たりどころが悪い。

ミゾオチだ。

胃液を思いっきり吹き出した。

「お前何を・・・」

そう言いかけたけど、元いた場所は冒険者Aの攻撃痕が地面に残る。

そして、少し『もふもふ』がなくなったモッフルーは警戒を解かずに横目でこちらを見ている。

まるで、気合入れろと言わんばかりだ。

僕は空っぽになった肺に息をゆっくり注ぎ込んで、モッフルの視線に応えた。

「くうっ、初めから戦う気だけど、モンスターのくせに、何、僕にけしかけてるんだ?お前・・・」

でもこの体当たりで、吹き出した肺の中に溜まった未消化のアルコールを吐き出して少しは気分が楽になった。

モッフルーは彼で、自分の親を殺された怒りもあるはず。

でも上手に怒りをコントロールして僕の戦闘参加状況に意識を回している。

大きくなったなぁ。

と、出会ってそんなに経って無いけど、感慨深くなった。

僕は吐いた口元を拳で拭いって、冒険者Aと魔王に向かった。

筋肉はいつぞやの、激しい痛みはない。

さっきまでの、勢いをつける感覚が残っている。

ふらつく足もだいぶ治った。

戦えそうだ!

僕は冒険者Aに剣をまっすぐ向けて、もう一度全力を出せるように、全神経を集中させた。

いくぞ!

心の中で叫んだはずなのに、そのタイミングを知ってかモッフルーが僕の前を駆け出した。

その僕達に気がついたか、クランの皆さんを相手にした魔王が急に向きを僕の方に変え、その左腕がモッフルと僕を一緒になぎ払おうと拳で振り抜こうとした。

モッフルーは方向転換をし、拳の正面に走った。

「ぶつかる!」

そう言葉を出した瞬間飛び跳ね手の甲に爪で引っ掻き手首にかぶりついた!

その攻撃の勢いがよく、魔王の拳は僕の前方へ軌道がそれる。

「切り口をつけれくれりゃーあとは俺たちがやる!」

僕は走ったまま魔王の拳上に登ると腕を駆け上がった。

モッフルーのいる手首を越えようとしたところ、手首の傷痕から、血が勢いよく吹き出した!

僕はその血を思いっきりかぶる!

ちょっと驚いたけど、気にしてはられ無い。

そのまま、走って魔王の腕を駆け上がろうとしたけど。

「ヒック・・・」

あれ・・・

クランのみんなも僕のしゃっくりに目を向けた

「ジョナサンまた酔ってる!?」

この浴びた魔王の血、酒臭い!

「ありゃぁ迎え酒だな。」

「ああ、なんか匂っていたと思ったら・・・」

キョウコさんも自分の腕についた魔王の血を嗅いだ。

「魔王の血にはアルコール成分が入っていたのかい!?」

「ああそうか、さっきはジョナサンが既に酔っていたから気がつかなかったのか。」

「こんなうっすいアルコール、ジュースの代わりにしかならない。」

「私たちに酔え無いなら、清涼飲料水。」

「おい〜お前ら酒飲みに彼を合わせるなよ。」

「何回魔王と対戦したんだよ。」

「あの二人に言われた・・・」

ホーウェンさんとミハエルさんに突っ込まれて、女性陣は気分を害していた。

そうそんな事を気にしている場合じゃない。

気持ち悪さが少し吹っ飛んだ。

意識を集中させると、シラフよりビシッと筋肉の神経をコントロールできる。

だけど、気を抜くとすぐに、体の全てがふにゃる。

もう強い意識を維持して、このまま攻めるしかない。

魔王も待ってはくれなかった。

腕を登る僕を反対の腕に持った大剣で斬りつけようとする。

まさかこのまま斬りつける事は無いかと思ったけど、僕はさらに加速してその攻撃を回避した。

案の定、魔王の大剣は自分の腕を切り落とした。

「ラッキー!」

でも、魔王は痛がる事は無く、腕が再生を始める。

ついでに冒険者Aの触手が補強する様に螺旋状に絡まる。

僕はそのまま大きな肩に登りきり、首を切り落とそうとした。

だけど魔王も、やられるだけじゃなかった。

首がこちらに向き、口を開くと何か光る粒子が喉の奥に集まっていた。

「避けて!」

キョウコさんが魔王の顔の前で雷の魔法を炸裂させる。

僕はその雷のスパークを避けるように頭を飛び越えると、光の粒子が小さく爆発して魔王の顔の向きが僕からそれる!

次の瞬間、魔王の口からぶっとい光のレーザーが!

「攻撃力がめちゃくちゃだ!しかも制御できて無い!」

さっきの雷との爆発で僕から狙いがそれて、レーザーはやや真上に放たれた。

「いや!最大のチャンスだろう!」

「てか天井!」

天井のガラスドームは魔王の攻撃を透過して抜けたけど、当たったところが赤くなっている。

「あれは何度もダメージを与えるとヤバいやつじゃね?」

僕は魔王の反対側の肩に降りるとそこには、冒険者Aが強引に付けたもう一つの魔王が口を開けて光の粒子が喉の奥に吸引されていた。

もう一発来るか!

しっかりと攻撃を向けている!

僕は攻撃を諦め、頭の後方に逃げるように走った。

しっかりと頭が固定されていれば後ろに攻撃はできず、そのままかわせるだろうけど・・・

その思惑は外れ、無理に顔を回して首の接合部分が外れた。

メリメリメリ

魔王の頭が限界を超えて首を回して照準を合わせにきた。

だけど、魔王にもそれ以上は無理だった。

振り回した首がもげ、魔王の正面に傾いて落ちた。

厚みのある触手が強く首を縫合しようとするけど無理があるぽい。

魔王の首がバランスを崩し、向きが不安定になったかと思うと、そのままレーザーを発射した。

バランスを崩したまま方向が知れず、そのレーザーは魔王の体に付いているもう片方の頭に当った!

魔王の頭は当たった場所が熱で赤くなったかと思うと、肉片が四方へ飛び散らせ吹き飛んだ。

ただの熱光線というわけでは無いようだ。

そして貫通したレーザーは天井のガラスドームを撫でると線状に赤くなる。

「ウヒャ!無差別攻撃!天井もヤバい!穴が開く!」

「弾幕シューティングは苦手なんだけどな。」

クランのみんなは闇の触手に辛うじて繋がっている魔王の首のレーザーから逃げるだけで精一杯になっている。

飛び散った肉片のいくつかは闇の触手にぼたぼたと当たって普通に跳ね返り地面に落ちて行った。

でも僕の目の前にある、首を繋いでいたこの闇の触手・・・ひょっとして・・・

僕は体重を掛けて剣をぶつけた。

カイン!

切れない!硬い!歪みもしない!

そして、触手は冒険者Aに向かっている!

僕は闇の触手の上に足を乗せるとそのまま冒険者Aに向かって走った。

まさに綱渡り!

冒険者Aもさすがに自分の触手を渡って近づいてきているのに気がついた。

珍しく顔がこっちを向く

他の闇の触手は魔王の縫合とクランメンバーへの攻撃でほぼ出払っている!

足場の触手も魔王の首を繋げる事を諦め柔軟化したけどもう遅い!

僕は足場からジャンプしてシャドウエクスカリバーを大きく振る冒険者Aの頭に振り下ろした。

でも、そこは人の頭・・・

プレイヤーキル・・・

迷いが今更出てしまった。

でも、冒険者Aの奥にいるローリアさんが僕を見ている!

だめだ!このままでは!

そう思い、すぐに全神経を集中して、冒険者Aの頭に剣を叩きつけた!

ガスっ!

剣が頭に当たる。

そしてそのまま剣が跳ね返る!

これでもダメか!

でも冒険者Aはぐらついた。

衝撃のダメージは受けたようだった!

彼も僕も体勢を整え、再び空中で次の攻撃をどうしようか考えていたところだ。

肩から落ちそうになっている、魔王の首がもう一度口に光の粒子を集めていた。

「ヤバい!」

空中に浮いている状態では避けられない。

「グラヴィティ(強重力)!!」

ウォーレンさんが、魔法を発動した!

僕は彼の魔法で地面に急に引き寄せられた。

体が重い!

でも魔王の首から発せられたレーザーが僕の頭上を霞める。

レーザーはそのまま天井に一直線に伸び、先の攻撃の熱で赤くなっている箇所に再びダメージを受けドロっと溶けているのを確認できた。

重力魔法はすでに解いてくれていたけど、僕は地面に叩きつけらる可能性を回避するする為に前に体を捻って、足から着地をし、すぐに冒険者A、魔王、そして天井を交互に見た。

「あれヤバいよ!」

シャナンさんが叫ぶと同時に溶けた箇所が内側に引っ張られるのを目端で捉えると・・・

グゴォ!。

天井に穴が開き全てが吸い込まれて行くように空気が全てそこに向かった。

体が今度は浮いてその穴に向かって体が投げ出されそうになる!

「グラヴィティ」

ウォーレンさんが再び同じ魔法を今度は持続効果を長引かせて詠唱を続けた。

クランメンバー全員に魔法を唱え、全員 宇宙空間に飛ばされないように

「空気がなくなる!」

「大丈夫、少ししたら天井は穴を塞ぐ機能が働くの!だから耐えて!」

髪が穴の方へなびかせ、月の砂塵を浴びながらローリアさんが叫んだ。

魔王の大きな体もそちらに飛ばされそうになっている。

冒険者Aは・・・

冒険者Aもこの状況は想定をしていなかったようだ。

浮いている体がその場所から引っ張られるのを空中で耐えているようだった。

「ウォーレンさん!!僕だけグラヴィティ解けますか?」

「できますが!危険ですよ!」

ウォーレンさんの顔が苦痛に満ちている。詠唱を続けながら、答えさせるのは申し訳ないと思う。

「やってください!」

「わかりました。ではカウントを」

「2・・1・・はい!!」

そう僕はいうとタイミングを見計らって重力に反して、飛び上がった。

同時にグラヴィティーの魔法が切れる!

それぞれの反動の相乗効果と天井への吸引が重なって相当な勢いがついた!

冒険者Aが僕の攻撃に気がついた。

僕の方へ闇の触手を向けてくるが、天井への吸い込まれる勢いがあるため狙いが定まらない。

だけど徐々に狙いが定まってきたか、左右と上から正確に僕に向かってくる。

この体制で横からの攻撃は・・・

ガイン!!

左右の触手はホーウェンさんと、ミハエルさんが、上の攻撃はドゥベルさんが剣で弾いてくれた!

みんな横目で僕に期待をしていた。

もう一本の触手が僕の頭を掠め、さらにもう一つが僕を串刺すように飛び込んできた

やばい。

そう思った瞬間、ドゥベルさんが前に言った言葉が閃き口に出していた。

「選択された全ての答えは全ての記憶から・・・1は1であるものを・・・限定・・・・」

「待てっ!ジョ・・・」

ドゥベルさんが制止する声が聞こえたけど、それはもう無理だった。

「全て!!」

そう言い切ると僕の頭の中に、月の事、冒険者さん達の世界の事、色々な情報が飛び込んできた!

あっ頭がパンクする!

でもその情報の洪水とは対照的に周りの全ての動きが遅くなった。

「しょ・・・・・・・り・・・・お・・・・・ち・・・・」

処理落ち、ドゥベルさんが叫んだのはそう言う意味だ。

でも、その状態は触手をかわしす最良の方法を考える時間余裕が出きた。

ほんのちょっと、体をひねれば多少バランス崩れるけど、闇の触手をギリギリかわせる!

そして、狙った通りに触手を回避すると再び空中で体勢を整え冒険者Aを見た。

闇の触手がお互いの触手の根本が絡まり球体を冒険者Aの前で作っていた!

あれは全てを吸い込む方の触手!

「ま・・・び・・だ!!」

全体の処理が遅くなっている中、ドゥベルさんが途切れ途切れ叫んだ!

その武器!!

吸引の触手までの距離の間はそんなに無い!

僕はすぐにシャドウエクスカリバーを手放し、弓の左手に、矢を右手にイメージした。

熱い感覚が両方の手に重みと一緒に感じられた。

吸引の触手の中に、月の砂と一緒にシャナンさんが剥いだ魔王の皮が吸い込まれ消えていく。

でも、もう恐怖はなかった。

僕はこの場所にあった様々な物と一緒に闇の触手の中に飛び込んだ!

「ジョ・・サ・・・」

みんなの声が途中まで聞こえた。

中にあの時と同じように何も見えなくなった、そして急に時間の流れがゆっくりになったようにも感じる。

足から体が崩壊していく感覚が襲う!

そして、同時に前と同様に、何かの意識が流れ込んできた!

「これは・・・姉を思う妹さんの愛!?」

それは誰かのというより僕の中にあるようだった。

暖かい。

その思いが強く僕の中で光ると、上の方に同じように光る姿が見えた。

「ローリアさん!!」

そのローリアさんの光を冒険者Aの暗い影が、日食のように重なる。

「冒険者A!!」

確信があった。

この真跳びが答えだったんだ!

全てが結びついたとは言えない!

だけど、真跳びは冒険者Aを貫いてローリアさんには当たらない!

その確信が僕を精一杯弓を引かせ、ローリアさんの光を遮る影に向かって放った!

「いっけええええええ!!」

矢は手を離れるとものすごい勢いで光を放った!

闇を払う光とはこういう事を言うのだろうか?

僕の周りにまとわり付いた闇は真飛びから放たれた光でいっぺんに霧散した。

そして、目線の少し上には矢が額に刺さっている冒険者Aがいた。

「・・・月ノ意思ハ簡単二ハ救ワレヌカ・・・」

冒険者Aはそう言うと矢の当たった箇所から黒い粒子となって、触手共々散り散りにちって行った。

僕の体はバンランスを崩しながら、天井へ吸い込まれていったが最初より、勢いがなかったが、そこに闇の触手から解放されたがゆっくりと天使のように髪と服を舞わせて・・・

「ローリアさん!」

「ジョナサン!」

僕達は抱き合った。

助けられたと言う感動と、さっき闇の中で感じた温かい思いにノセられて。

「ジョナサン。」

「ローリアさん?」

ローリアさんは少し僕から体を離して、でも顔をじっと見ながら照れている。

どうしたんだろう?

「お酒臭い。」

そう言ったけど、嫌な顔はしていなかった。

「でもありがとう。」

そう言うと胸に抱き付いた。

フワッと髪が舞う。

いい匂いがする。

僕のお酒が浄化されるようなハーブの香りが漂っていた。

ゆっくりとゆっくりと、地面に降りて。

いつまでもこうして欲しいと思うのは贅沢だろうか。

月の砂の中に沈黙した魔王の頭と体も霧散しそれが綺麗な光となって、あたりを漂わせていた。

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