第43話:包囲
僕達は、このマグカップの効果が消えてしまう恐れもあったので、お酒も食事もそこそこで動ける人は先行して移動することになった。
冒険者さんは自分たちの世界の時間が遅い事と、そちらの世界でのやるも有るとの事ので、僕とドゥベルさん、ホーウェンさん、ミハエルさん、ミランさん、アナハイムさんそして、ウォーレンさんが向かう事になった。
帰る人はここで帰還(ログアウト)、カレンちゃんは宿で待機させる事にした。
注文した食べ残しは勿体無いので持ち帰り。
やっぱり自然の恵みから貰った食べ物は大事にしないとね。
クランのみんなもそのつもりだったようだ。
この行為がメンバーと気が合うところの一つだと思う。
まだ手を出していない揚げ物が明日の楽しみになったのとローリアさんに繋がる情報が手に入ったので自分でも少し浮かれていた。
そんな気分で、店から出た所だった。
いきなり目の前に現れたNPCのクフラン兵隊が20名ほど並んでいた。
意識をしていなかったので、身を引いてしまった。
前に一人代表者と思われる人の白い衣服の装飾を見ると、一般の街の警察とは違うことが分かる肩章と飾緒(モール)と呼ばれる三つ編みの紐をつけている。
衛兵隊だ。
「オーフェン・べルツの特務冒険者一行ですね。」
特務という言葉に聞き覚えが無いが、ウォーレンさんがいる事できっとそういう事になっていたんだろう。
ただそう言う呼ばれ方も、嫌な予感しかしない。
「さっきまであのビアホールに居たのに飲まずに一人でいた奴はお前達のお仲間の尾行か。もう少し隠密行動のスキルをあげた方がいいぜ。」
ドゥベルさんは気がついていたの!?
全くそのそぶりを見せていなかったのでちょっとショックだったけど、不満を察してくれた様だった。
「お前達に言えば、行動が顔に出て遭遇(イベント)が不意になる可能性があったから黙ってた。」
そう言う事ですか。確かに気がつかないフリをするのは自信が無い。
睨み合いも続くかと思った所ウォーレンさんが僕たちの前にでた。
「どうかされたのですか?」
「オーフェン・ベルツ紋章官ウォーレン・ラウエル殿ですね?」
「ええ如何にも。お話がある様でしたら、明日お伺いいたしますが、何分もう遅い時間帯です。」
「通常の国家運営の用向きでしたらそれで良いのですが、今回はそうもいきません。」
「と言うと?」
ドゥベルさんが警戒して聞いた。
「本日スラム街で拾った拾得物を危険アイテムと認識しました。今すぐにご提出願いたい。」
そう来たか。
オーフェン・ベルツの情報はここクフランの上層にも耳に入ってきているのは想像つく。
この都市もそれを指加えて見ているとは思わなかった。
だけど、このタイミングか。
威圧的で、強制に踏み切れる事を示唆している様にも見える。
「あれは、ここに居る冒険者さんのお仲間の所持品です。正当な理由がない限り、我々NPCが勝手に没収は出来ないはずです。」
ウォーレンさんが事を荒げない様に相手の意図を読み取ろうと話した。
「本来ならそうですが、今回は世界設計の穴(バグ)の可能性あります。オーフェン・ベルツの様に都市の一部を破壊される事を我々も危惧しなければなりません。」
「危惧はわかるが・・・お前達にはやれないな。」
ドゥベルさんも訝しげにクフラン衛兵隊に否定した。
と、同時に衛兵隊の後ろから一人、官庁勤めの格好をした背広の男性が慌てて前にでた。
「いや、失礼。気分を概したなら申し訳ない。ほら、お前下がっていろ。」
そう言いながらさっき、前に出て話をしていた衛兵を下げさせた。
衛兵は渋々、他の19名の隊列に加わわった。
「なにぶん、直接冒険者様と話すことが少ない衛兵です。気分を害されましたら申し訳ない。」
「ビジネスマナーなんて、気にしていないぜ。」
憮然と構えるミハエルさん。この言葉だけで彼を見たら、かなり真っ当な人に見える。
「実は紋章官殿と分かれた後、上層部と連絡を取り現状を確認した所、我々も指を加えて見てる事は如何な物かと言う話になりまして。」
これは上から言われるがままに指示されてきたような感じだ。
「先程、スラム街での報告も併せて検討した結果。穏便に対処したいのです。」
よくわかってないけど、この人、面倒な役を回された感じで可哀想になってきた。
「しばらくの間、預けて頂けませんか?後でちゃんとお返しします。何でしたら貸出し料もお払いするつもりです。」
僕達は顔を見合わせた。
冒険者さん達は頷いた。
「成る程。それが理由ですか。我々のクランも何分、資金繰りが厳しいクランでその申し出は有難い。」
アナハイムさんが手を後ろで組み、僕たちにしか見えないように指で何か合図をだした。
何の合図かは全く想像がつかない。
「いろいろと、相談したい所じゃが、この件に関しては我々も急いでおる。」
そう言うとドゥベルさんは杖を出して攻撃準備に入った。
他の前衛も剣は抜かずに格闘戦の構えに。
筋肉を見せびらかせていたミハエルさんとホーウェンさんがこの時は頼もしく思える。
「紋章官どの・・・」
背広の男性が泣きそうな顔になった。
「すみません。今回は我々の報告を待っていただく事になります。」
ウォーレンさんは戦闘態勢は取っていないかった。
「それに残念ながら、貴国にこの件で対処する手立ては有りません。」
さっきの合図と併せて逃げる気、満々のようです。
「仕方ありません。一応交渉はしたと言う事で・・・」
そう言うと、そのまま衛兵のいる所まで引き下がり、今度は衛兵が一同に前に出てくる。
「我々も子供のお使いを頼まれているわけではない。街の危険を思えばという事で・・・」
衛兵一同も抜刀した。
「いいぜ、そういうのも悪くない。」
そうドゥベルさんが言った所で、僕が手に持っていたマグカップから出ている光が一瞬、途切れてゆらいだ。
手が震える度にその光の閃光が途切れる。
「こりゃあ、制限時間付きか?」
アナハイムさんもその光の途切れ方に不安になったようだ。
「グズグズしてられないな!」
そう、冒険者さん達が話始めたところで送れてビアホールから出てきた仁王立ちのカレンちゃんが叫んだ
「きゃー!!そこにいる女装男子NPCジョナサン・グリーンリーフはあの魔王を倒した悪魔も上回る暴力で半径1kmは荒地にする事のできる、凶悪な力の持ち主よ!彼の機嫌を損損なわないで!!」
カレンちゃんは仁王立ちのまま、僕を指を差すと周りがざわつき出した。
衛兵の方から不吉な声が上がる。
「あれが魔王を!」
「変態NPCとは聞いたが、女装とは・・・」
ちょっと待って、ねぇ!その噂は何処から来たの!?
しかし声に出して弱気な事を言うとどうなるかわからない。
「いい・・・とても・・・」
衛兵の中から欲情の野太い言葉が聞こえて、背筋が凍った。
それをきっかけに僕は煽ら何かが切れた。
「ふっ・・・・ふははははは、この私も甘く見られたものだ!わたしの所持物を奪おうとはどこの命知らずか知らんが、ここら一体を巻き添えにして死んでもっても構わんのだぞ!」
ミランさんがこそっと、僕の背後から出している禍々しいピンクが混ざった紫の後光をこそっと演出し出した。
風俗店ぽいイメージなんですけど・・・もうこの際どうでもいいや。
「待て!ジョナサン、あの攻撃は辞めてくれ!」
ホーウェンさんが仕切りに衛兵達に見えない様にウィンクを激しくして来る。
それは出せって事ですか。
僕は、胸を張り左手に意識を集中して、『真跳び』を装備した。
ざわつく衛兵にミハエルさんが諭す様に話しかけた。
「ほらお前達も、彼を煽るのは辞めて、謝って謝って。」
「せっかく俺たちがオモテナシをして、気分よくさせて落ち着かせてたのに・・・」
めっちゃいじられていた様な気がしてたのですが、あれはオモテナシだったんだ・・・
ホーウェンさんも衛兵に下手に出る様に言う。
彼らはどうしたら良いのか解らない程だった。
悪い事なんてしていないのに、そりゃそうなるよね。
「汝ら、覚悟は良いか?」
僕はこの後どうすればいいのかよく分からないがゆっくりと武器を掲げるとそれに合わせてミランさんも光を武器に当ててくれた。
今にも暴発しそうな演出だ。
「こっ後退!」
演出が効いたのか、衛兵隊の長が掛け声を挙げると背広の人も含め一斉に後退した。
「あっちょっと待って!怖い!助けて!」
カレンちゃんもその後退に続いて衛兵の一人にしがみついた。
今回の獲物は彼ですか。
でも、この状況で僕達の方につけば、彼女も一緒にお尋ね者になる。
賢明かもしれないけど、その変わり身の早さはちょっとショックだ。
カレンちゃんはそのまま抱きついた衛兵に連れられた。
「さて、今のうちに外に逃げるぞ!」
ドゥベルさんの合図と共に、衛兵と反対方向へみんなと一緒に走った。
「んまっ!ドンマイ!ジョナサン」
ミランさんが僕の背中を叩いて慰めてくれたけど、苦笑いするしかなかった。
走りながら動きにくい女装しているのをすっかり忘れていたのでスカートで倒れそうになったけど、衛兵に追ってこられたら困るので必死に立ち上がって走った。
さっきまで居たビアホールからも結構な人数が僕達の様子を見ていたので、悪名は明日には結構広まると思う。
ひーん!
心の中ではもうやけっぱちで泣きたくなっていた。(いやもう泣いていた)
あとでみんなに責任を取ってもらうんだから!
手籠にされた少女みたいな心の叫びをしたかったけど、この足に引っかかるスカートには慣れる事はなさそうだった。
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