第40話:スラム街
スラム街。
明確な入り口は無く、人通りのある普通の道から暫く歩くと徐々に荒廃した景色に変わってくる。
道に落ちているゴミ、直されていない家屋、壁の落書き、そして路上にいるボロボロな服装の人々。
僕の服装はワイシャツにスラックスという商人の格好だから、この場所では身なりの良い方になる。
つまり、商人=金有る。
一人で歩いてたら絶好のカモだ。
こんな所にカレンちゃんを連れてくるわけにはいかなかった。
だけど、彼らには悪いとは思うけど、常々思うのは、彼らと同じ境遇(設定)で無くて良かったと思う。
「一応、この都市の役所に連絡したのですが、区画整理ではないです。あと、確認と野次馬整理の為に何人か役人と警察が駆けつけてくれるそうです。」
「それはいいけど、ほかの冒険者に先越されていないだろうな?」
「ここ意外と絡まれるのが面倒なのでみんな来ないんですよ。だから、イベントを設置するには穴場にはなりますね。」
「行き止まりが多いのも、スラムのNPCが弱小冒険者を囲ってカモにしやすいようになってるらしい。」
「その弱小冒険者も少し強くなると意外と、経験値稼ぎには良かったようですよ。」
「チンピラ無双かぁ。」
「懐かしい。」
ホーウェンさんとミハエルさんが筋肉ストレッチしながら歩く。
戦闘体勢はいつでもOK状態だ。
「今は新規さんも少なくなったから誰も来なくなったと・・・」
シャナンさんがひとつの宿屋を指さした。
「あれ?」
「と、ここですね。」
見るからにボロ宿だ。
外見のダメージがおおき過ぎて、天井から物が降ってきても確かに、変化は感じない。
これじゃぁ確かに、誰かに聞かないとわからないわ。
「たのもー!!」
「もー!!」
「道場破りかい。」
キョウコさんはいつもの落ち着いた女性の態度でシャナンさんとヤヒスさんの尋ね方にツッコミを入れた。
「今日はやってないよ!」
宿屋に入るといきなり声が上がった。
ここの主人らしい人が、荷物をまとめていた。
「泊まりに来たわけじゃない。」
「だとしたら!お前たち都市区画整理課の者か!」
「いんや。違う。そんなに警戒しないで大丈夫じゃ。ご覧の通りただの冒険者じゃ。」
「そっちのNPCは・・・事務系の様だが。」
「こっちも冒険者途中の商人じゃ」
「武器商人か。」
人を死の商人みたいに言う。でも納得してくれるなら文句は言わない。
「はじめまして、オーフェン・ベルツで武器屋をして居ます。NPCジョナサン・グリーンリーフです。」
そう言ってビジネス挨拶をして名刺を渡した。
「NPCオックスフォード・ミリアム見ての通り宿屋を経営している。」
「いきなり押しかけてすみません。ちょっと聞きたいことがありまして。」
武器屋が、宿屋に何を話を聞きにくるのか不安なんだろう、オックスフォードさんは訝しげにこちらを見ている。
だけど冒険者さんたちは気にせず話を進める。
「引越しでもするかの様な荷物じゃがどうしたんじゃ?」
「ああっ。都市の区画整理課がここら一帯のスラム街を強制的に一掃する可能性があってね。」
「だとしたら荷物もろとも整理対象にされかねないから避難準備をしている。」
「宿を手放すのか?」
「ああっ。畳むしかないね。」
「旦那、その話は噂の段階だべ。考え直してくれないか?」
宿に泊まっていたと思われる、ボロボロの服を着たNPCが宿の主人に話しかけた。
「すまないな。」
「あんたらからも、とどまってもらう様に言ってくれないか?ここの主人俺たちの様な職無しのモンに宿を提供してくれるばかりか、仕事斡旋までしてくれるんだ。宿代は働いてから返してくれたらいいって。」
「それは、素晴らしい人助けですね。」
僕はこんなご時世に誰かの為に役立てる仕事をしている人がいるんだと感心した。
「でもどうして辞めるのです?役所には直訴はしないのですか?」
「既に何度も直訴しているが、この都市の連中らがそんなの聞き入れた試しが無い。」
その言葉には、色々やり尽くした経緯がある様に感じた。
ウォーレンさんは、顎に手をやり考え込んだ。
警察と役所の人を呼んだのは、ちょっと面倒な事になりそうだと、
「少し席を外しますね。」
そう言うと、ウォーレンさんは手持ちの魔法石で、どこかと連絡を取りつつ、宿屋から出た。
「それよりも、あんたらも早く逃げるんだ。奴らの実力行使を始めた。そうなると動乱に巻き込まれるぞ。」
「俺達はきっと君の言う実力行使とやら、空から降って来た物騒な物を探しているんだが。」
オックスフォードさんは少し鳩に豆鉄砲を喰らったような表情になったが、直ぐに親指でカウンター裏を指さした。
「それならあそこの裏に・・・」
「見せてもらっていいか?」
「どうにかしてくれるならな。」
「それは分からん。」
そう言うと僕たちは狭いカウンター裏に入った。
全員は流石に入れないので。背の高いドゥベルさん、ホーウェンさん、ミハエルさん、キョウコさんはカウンター越しから中を覗いた。
多少斜めに刺さっているけど、綺麗にバランスを保ちながら黒い闇の針が地面の上に少し浮いた状態で立っている。
床も丸く穴が空き触れる物を吸い込んでいたが、それ以上、下には落ちないらしい。
棚もカウンターも闇の吸引範囲なのか丸く削られている。
天井を見上げると、これが突き抜けた綺麗な穴が開いていて、2階の部屋を通り越して空がのぞいている。
「コレ、ここで仕事していたら、やばかったね。」
「いつでも殺せると言う警告なんだろう。」
「そうとも限らん。ホーウェン、ミハエル!カウンターをどかせるか?」
アナハイムさんは二人に指示を出した。
「え〜自分でやりゃいいだろうに。」
「年寄りを気遣わんかい。それに筋肉への栄養とかいうじゃろ?」
「ご褒美な〜。」
「しゃーない。」
そういうと二人はカウンターの端をそれぞれ掴み持ち上げた。
「せいやっ!」
「どっこいせ!」
掛け声と共に、中に入っている荷物ごとカウンターが持ち上がる。
そのままゆっくりと二人で頭上に持ち上げた。
「地面に固定されて居なくて良かった。このまま筋トレがわりに維持しておくわ。いいかミハエル!」
「おう!筋肉ちゃんと戯れタイムだ!」
二人はそのまま、中腰になりそのまま踏ん張った。
「落とすなよ。」
「お前こそ!」
女性陣は二人を見る事なく、目が細い線になっていた。
「はいはい。私たちの方には持って来ないでね。」
そうキョウコさんが呆れた様子で二人に警戒した。
でも、カウンター裏に空間が出来たので、確認しやすくなった。
ドゥベルさんが天井から落ちてきただろう木の板を闇の針に向かって差し出した。
すると、風が闇の針に向かって吹いている、勢い良くドゥベルさんごと、引っ張られそうになった。
ドゥベルさんは慌てる事なく木の板を手放し。引き込まれるのに抵抗した。
「結構勢いあるな。」
「間違いないのぉ。コレは冒険者Aの残していった物のようじゃの。」
「冒険者A?」
宿屋の主人は聞いた。
「詳しい事は後で話す。少なくとも気にしている都市の区画整理じゃない。」
「そうなのか。」 ドゥベルさんの言葉に宿屋の主人は胸を撫で下ろした。
「とは言ったもののコレはどうにかしないと・・・」
「と、言うことで、ジョナサン君の出番です。おっと、ホーウェンもう限界か?」
カウンターを頭上に持ち上げたままミハエルさんがホーウェンさんを煽った。
「まだまだ余裕。まだまだウチの筋肉ちゃんは頑張れる!」
使命されて、みんなの期待が集まる。
「ジョナンサン、『真跳び』で法務局でやった事をもう一度試してみてくれんか?」
「あれを?」
みんなの目線が僕に集まる。
「でも、あの中には飛び込まないとできないんじゃ・・・しかも同じことが出来るとも限らないし・・・」
そうなったら僕、消滅です。
「そこまでせんでもいいじゃろ。そいつの前で一度構えて『真跳び』が反応するか観てくれ。」
僕たちが話している間に、シャナンさんが闇の針に近付いたり離れたりして、引き込まれる感じを楽しんでいる。
「うおっと!」
引きこまれる力に抵抗できる距離よりも近づいて引きずり込まれた。
「遊びすぎだ。」
そう言うとドゥベルさんがシャナンさんの首根っこを捕まえて引っ張り出した。
「サンキュードゥベル!なははは、調子乗りすぎた。」
こんな危険な物このまま放置していくのもこの宿屋の為にもならなそうだ。
「解りました。ただ期待に応えられるかは解りませんよ。」
覚悟を決めた処で、入口の扉が開きこの都市の警官が来た。
「警察も来たのぉ。付近住民の避難をしてもらおう。」
「警察!本当に区画整理じゃないだろうな?」
オックスフォードさんは、警戒した。
「違うけど、ちょっと軽く被害が出たらゴメン!」
キョウコさんが言う
「ここに来たのは本当に警察だけですよ。」
ウォーレンさんさんが一旦戻ってきてそう言うと、アナハイムさんに声をかけ、ウォーレンさんと一緒に警察と状況確認の話し合いに表に出た。
「おいおい、俺たちにも被害が出る事を想定しているのか?」
一緒にカウンターでこちらの様子を伺っている宿泊客も心配した。
「大丈夫なんでしょうか?旦那?」
オックスフォードさんは肩をすくめすくめて応えた。
そりゃいきなり押しかけて問題解決しますって言われても不安ですよね。
「これを始末して貰えるんならやってもらうしかないな。」
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