第32話:ダンゴ郎人形

「その名前、まんまだけど有名な物なのか?それ?」

ヤヒスさんが手で、ホーウェンさんの言葉を静止させた。

「頭がトゲトゲの髪の毛で、丸い目が2つ」

「お腹の丸い玉にも毛が生えていて」

「そうですそうです。なんで知っているんです?」

ヤヒスさんがやけに同調してくる。

「いつかイベントで使ってもらおうとした、オリジナルのアイテム人形・・・なんで?」

「想像しただけでも、気持ち悪そうな人形なんだけど。」

キョウコさんが言う

「モックのヌイグルミを作って友達にあげた。魔除けのつもり。この世に1つしかない。実装もボツられた。」

「ん?そのボツられた人形がなぜ?」

「わからない?使わないデータは契約終了直前に全てクリーンデリートしたはず。」

「その人形以外に何か無い?出所が何処かもわからないんじゃ・・・」

「場所ですか・・・広い部屋のようですが見たことのない石で出来た部屋で、天井には細長い管が光っていて・・・机の上も光る板・・・何人かはその光板を見ながら作業をしているようでしたが、その中は見たことのない言葉が並んでて、光る板を見ながら絵描いていたような。机は一人分の仕切りで区切られている感じでした。」

「うちらの世界の何処かのオフィスの中のようだね。」

「ええと、部屋に女性が2人いて、一人は人形と同じような帽子をかぶっていたような・・・」

「多分・・・ひょっとしてそれは私・・・」

ヤヒスさんの顔色が良くない。

「ヤヒスのリアル?を見たの?」

「でも、今とは容姿が違う・・・」

「そりゃうちらの容姿は自分でカスタマイズ出来るからな。で、どんな顔だった?」

とミハエルさんが聞くと、いきなりヤヒスさんが僕の首を掴み締めてきた。

「言うな。その女性の事は忘れろ。ジョナサンの残された生きる道!」

小柄で普段おとなしいなヤヒスさんが、急に態度を変えてきたので驚いて避ける事も出来なかった。

「なんだよ、もっと自分に自信を持った方が良いぞ・・・ヤヒス」

「うるさい。」

ヤヒスさんは僕の首を掴みながら足でミハエルさんのスネを蹴る。

「いっつぅ〜おおこわ・・・」

徐々に苦しくなってきたので、頭の動ける範囲で頷き抵抗しない態度をヤヒスさんに示した。

締め上げられた手は一度、きつく締ると、パッと離された。

「くれぐれも・・・」

ヤヒスさん怖い・・・目が据わっている。

「それで、なんでヤヒスのリアルを見たのか?偶然か?」

「わからない。」

「もう一人の女性は?」

「最初は見た目はローリアさんかと思ったんですけど。全く別の女性で・・・お姉ちゃんがどうたらこうたら・・・」

「!?」

ヤヒスさんがなにか衝撃を受けた様に固まった。

「ちょっ、ちょっと待った!ローリア、ローリアいる?」

キョウコさんがヤヒスさんの様子を見て話を止めた。

自分で自分に聞いている様なこちらも奇妙な感じ。

「・・・うん?ごめん少し寝ぼけてた。」

「そっか。無理しないで寝たらどうだい?情報は後で共有はしておくからさ。」

少し安心した様な様子。

「・・・うん、そうする、じゃぁお風呂に入って寝るわ。」

「またな。」

「みんな、おやすみぃ〜。」

「おやすみなさい〜・・・」

挨拶後しばらくみんな黙っていた。

沈黙も程よく経過した所でキョウコさんが続いて口を開いた。

「さて。あの子にはチョット刺激が強すぎる内容になりそうだからね。」

「刺激?。」

「多分ローリアの妹・・・現実の。」

ヤヒスさんがキョウコさんに続いて

「妹さん!?」

「そう繋がったか。」

ドゥベルさんの言葉にクランの皆さんは何やら納得した様な雰囲気。

一人酒で完全に潰れたシャナンさんが机に突っ伏しているが、全員現状を僕の少ない言葉で納得をした様だった。

「シャナンさんの妹さんがなぜ?」

僕は取り残された感じがしてみんなに聞いてみた。

「これ以上は・・・私からは言えない。本人に聞いて。」

ヤヒスさんが下を向いてしまった。

良い話にはならいって事なんだろう。

「暫くは聞かない方がいい。本人も囚われた状態だし。」

ドゥベルさんも訳を知っているようだった。

そんな中、紋章官ウォーレンさんがビールを飲みビアマグをテーブルに置いた。

「なるほど、ヤヒスさんは元創造主の一人だったのですね。」

ヤヒスさんは頷いた。

「一時期、派遣社員として働いていた。今はもう契約終了して別の会社で働いている。」

「ちょっと待て!」

ホーウェンさんとミハエルさんがヤヒスさんを抱えてテーブルから遠ざかる。

「元運営側の人間だからと言って、この話、ペナルティ喰らう事はないよな?」

ヒソヒソ話をしているつもりだろうが、こちらまで聞こえている。

「ローリアに続いてあんたまで離脱すると戦力的に脳筋に寄っちゃって後々大変だよ。」

「心配ない。」

親指でグッドのサインを送るヤヒスさん。

「大丈夫、秘密契約保持は守る。」

「ええ、それはもちろんです。ですが・・・」

紋章官ウォーレンさんのメガネの奥の目が優しい目から警戒するかの様にこちらを睨みつけてきた。

「ここに居る皆さんの周りで起こった事です。何か自分が特になる様な事を組み込んで今回の結果になったのでは?」

紋章官ウォーレンさんの目が少し据わってきた。警戒している。

「契約を打ち切ったのは4年前。そもそもそんな世界(システム)の理り(コア)を触らせてくれるはずもない。気になるなら冒険の記録(ログ)を確認するといい。」

ヤヒスさんは喟然とした態度で返答した。

「わかりました。」

紋章官ウォーレンさんは間を置くと元の表情に戻った。

「一度この世界の創造に関わったとは言え、冒険者として降臨して頂いている以上我々は、他の冒険者同様の権利と対応をしなければなりません。それにわたしにはその件は関係してして取り締まる権限が無いのでここだけの話にしておきます。」

「クラリスも良いね。流布する様な事がない様に。」

「はい。もちろんです。」

その話を聞いてクランの一同はほっとしたため息をついた。

安心した様だ。

「ですが、この世界に関する機密はくれぐれもお守りください。」

「わかってる。でも、仕事の機密意外で私が喋らないのはローリアの私事でもある。友達を売れない。」

そう言うとヤヒスさんは椅子に座り、落ち着いた。

「何か話が難しくなってきたなぁ。」

「連絡用魔法石で聴いてみてもいいが、混み入った話じゃ。直接本人に会って聴くのがいいじゃろう。」

「元々、あいつを取り返すのは変わらない。徹底的に冒険者Aの足取りを追うぞ。」

そこにいる一同頷いた。

「よし!んじゃぁ、ミーティングはここまで!ちょっと休憩(AFK)。 しょんべんしてくる。」

「汚いあぁもう」

ミハエルさんはキョウコさんの言葉に耳を傾ける事なく固まった。

ヤヒスさんがほくそ笑んだ。まるでそのタイミングを待っていたかの様だ。

ミハエルさんの目の前で手を振り動かないことを確認すると、ビアマグにタバスコをしこたま入れてかき回しす。

最後に親指を皆んなに向けて立てた。忠告の意味合いでもあるんだろう。

だけど戻ってから、彼が吹き出したものが料理の上に飛び散る事を想像する人は誰もいなかった。

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