第24話:試験終了
「あれっ?」
気がつくと、夕日の中、僕は試験をしていた場所で寝ていた。
「気がついたジョナサン?」
そう、聞き覚えのある優しい声が頭上からした。
僕の顔をのぞき込んできた人はローリアさんだった。
ぱっと飛び起き彼女と向き合う。
後頭部が少し温かく、今までふわっとしていたものに包まれていたような気がした。
これは膝枕をしてくれてた!?
彼女は芝の上で正座していた。
多分そうなんだろう。
なんでそこまでしてくれているのだろう?
「あっありがとうございます。」
何に対して、お礼なのか言いずらい。
僕は自分の顔が赤くなっているのを悟られ無いように自分に感情を抑えようとした。
対照的に当たりは少し涼しくなってきて、頬にヒンヤリとした風があたる。
この場所も昼間の試験時から人はいなくなり、寂しい感じになっていた。
「え〜と、みなさんは?」
「用が済んだから解散しちゃった。ウォーレンさんは後片付けに、カレンさんは戻らないと怒られそうだからって、仕事に戻ったよ。」
「ローリアさん一人で残ってくれてたのですか?」
「うん、そのまま放っておくこともできないし、セーフハウスまで連れて行くの大変だからここで待ってれば良いかなって。」
「すみません!なんか色々と。」
「ううん。でもいいの。天気もいいから、のんびりと待つのも悪くないなって。」
夕暮れの気温の下がった空気が少し寒さ感じたが、ローリアさんの笑顔は暖かさを感じた。
「気分は大丈夫?」
「はい。少しぼんやりしていますけど。」
「そっかじゃぁ私は明日の準備しなきゃいけないから。ここでログアウトするね。」
「あっありがとうござました。」
僕は立ち上がり例を言うと、ローリアさんはログアウトのカウントダウンが入り、手を振りながら次第に光の粒子を纏い、姿が薄くなっていく。
「じゃぁまたねっ!」
完全に消える前にそう言い残して姿を消した。
ローリアさん・・・天使か女神かな・・・
そう思えるような優しさがあった。
でも不思議だ、どうしてNPCの僕にそこまで優しくしてくれるのだろう?
僕がカレンちゃんを好きだった事は知っているはず。
思い巡らせてもローリアさんに対しては特に何も思いつかなかったが、ふと僕は、カレンちゃんの事を過去形にしている自分に気がついた。
武器屋に戻ればきっと、カレンちゃんが賑やかにして待っていててくれる。
それはそれで嬉しいし幸せな事と思っている。
でも今は彼女の事はそれ程、特別には感じなくなった?
僕の事なんか気にせず他の人と結婚していったから・・・
ってのが内心、一番モヤモヤしているところだ。
そんな自分の嫌な事を想像している自分に少し嫌気が指す。
彼女が幸せになればそれでいい・・・・?
やっぱり、正直なところ『自分が』『自分と』幸せになりたかった。
もう過去には戻れない。
これからの事も考えなきゃな。
自分ってなんだろう・・・
そう頭で考えていたが、そのモヤモヤを具現化したかのように急に不穏な空気が辺りを立ち込めていた。
さっきまで夕日は今にも丘の向こうにすぐにでも落ちるタイミング。
『なんで冒険者Aなんかと・・・!!!』
そう言いそうだったが、僕は夕日を背に黒い影が立っていたのを見て息を飲んだ。
その名前を想像したからなのか?
その影、冒険者Aが目の前で立っている。
急に頭が冷えた。
日が完全に沈むとその姿が鮮明になった。
カレンちゃんの説明どおり、彼の背後には別次元が開いた様に異質の黒い空間があり、その中で整列された光の粒が瞬いている。
そして、その空間から何かよくわからない触手のような黒いリボンがうねうねと蠢いている。
彼はその異質な空間の前で声を出さずに口角だけが上がって笑っているように見えた。
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