第18話:武器屋再開準備中
「ふぅ。やっと帰って来れた。」
武器屋に到着して、人の山が一掃されていて安心した。
自分の店なのに、ドキドキしながら出勤とかどうなんだろう?
今回は冒険者さんと一緒じゃない。
冒険者さん達は睡眠と、日常の用事を済ませてくる必要があったので、一度王宮でお別れをし、また夕方合流する予定だった。
代わりと言ってはなんだけど、クラリスさんが一緒に来てくれた。
「こちらが、ご主人の武器屋ですか?悪くないですね。」
どんな店だと思っていたのだろう?
少しツンツン口調が気になったが、店番をしてもらえるのだから文句は言えない。
「最近掃除してないから、中は汚いですよ。入ってガッカリしないでくださいね。」
「ご主人。」
そう言うとクラリスさんは足を止め僕の方に向き合い、背筋を伸ばした姿勢で改まって言葉を開いた。
「私は、王都のハウスキーパーでは御座いますが、今は貴方の従業員。どうか、他人行儀なお言葉使いは避け、気軽に一従業員としてお話し下さい。」
僕は、偉い人を扱う気持ちで彼女を接していた様だった。
「ああっそうか、うん。じゃぁクラリスさん。これから宜しくね。」
「はい、改めましてよろしくおねがいいたします。」
クラリスさんは、手荷物を降ろして、軽くスカートの裾を上げるそぶりと一緒にお辞儀をした。
「ご主人の礼儀正しさは、人の良さをでもあるのでしょう。商人向きだとは思います。」
なんか分析されてる。
結構注意深く人を見るのかな?
不安だったけど、これなら接客は任せられそうだ。
「では、まず掃除から始めま・・・待って下さい、何か中に誰か居ます。」
えっなに?
泥棒が忍び込んだのか?
頼るれるドゥベルさん達は今は居ない。
「私が先に入って、賊を押さえます。ご主人は暫く待ってて下さい。」
そう言うと、ゆっくりと店の扉の前に待機した。
「そんな危ないよ。怪我をしたら・・・」
「従業員への気遣い恐れ入ります。ですが、これも王宮業務の一貫です。」
そう言われても女性を危ない店内に入れるには抵抗がある。
そう言った僕の不安が顔に出ていたらしい。
「ご安心下さい。無理はしません。不意をついて追い出すぐらいですよ。」
そう言うと、さっきまで変わらなかった彼女の表情が少し柔らかくなった。
「それに、わたくし結構強いのですよ。失礼ですが、今のご主人よりも強いのは間違いないです。」
言い切りましたけど、一応僕は魔王倒した人なんですけど・・・そう思ったが口にはしなかった。
それに、戦えると言うクラリスさんの華奢な体からは賊を抑える事が想像つかない。
メイド服で足元が見えないけど、引き締まった腰と上半身の厚さは、闘えるとは思えなかった。
「ご主人?」
まじまじとクラリスさんの事を見てしまったので、僕はあわてた。
「あっああ、分かった。でも無理はしないでね。」
つい肯定。
「勿論です。」
彼女も一応王都の女中で部下を抱えている身分。
できもしない嘘をつく事は無いと思う。
でも、何があるかわからない。
僕も後から剣を抜いて戦うつもりでいないと・・・従業員を怪我させるわけにはいかない!
「ではカウントダウンをします。ご主人は扉を開けて貰えますか?私が飛び込みます。」
クラリスさんはそう言うと、店を背にして入り口に待機した。
僕は店の入り口の鍵を出し、ゆっくりと音を立てない様にロックを解除した。
そしてクラリスさんと目を合わせ準備ができたと言葉にはしていないが、合図を送った。
彼女も突入準備ができたらしい。軽く頷き、深呼吸をすると、小さな声でカウントをとる。
「さん、にい、いち、はい!」
クラリスさんはそう言うと僕はその言葉に合わせて、扉を開いた。
飛び込むクラリスさん、その素早さと身の動かし方は確かに僕よりは熟練した経験がある。
ガンッ!ガンッ!
なにかがぶつかる音がした。
「きゃっ!なに?!」
クラリスさんとは別の声・・・女性の声がした。
そして直ぐに、ドスっと床に落ちる音。
「いたたた、ちょっとなに?あなた誰?いやっ!痛っ!」
その声は聞き覚えがある。
「それはこちらの台詞です。あなたはここで何をしていたのですか?」
「何って隠れていただけよ。」
「やはり不審者ですか。貴方の他は?」
「知らないわよ!何の事?イタイイタイちょっと辞めて!」
僕は慌てて中に入った。
暗くて良くわからないが声だけははっきりと解る。
「カレンちゃん!」
やっぱりそうだ、クラリスさんに取り押さえられ、床に突っ伏しているけど、その赤よりのオレンジ色の髪の色にショートの髪型。顔の輪郭と髪の色と同じ瞳、そして、このふわっと漂う昔から馴染みのある香り。
間違いない彼女だ!
僕は2人に近づきクラリスさんに離すように言った。
「カレン?ああ、あのNPCカレン・コートルーム。」
「解ったのなら離しなさいよ。」
クラリスさん、賊を追い出す程度だって言ってたけど、完全に拘束している。
やっぱり僕を安心させる為の方便だったか・・・。
クラリスさんはゆっくりと拘束を解き、カレンちゃんはゆっくりと起き上がって、ねじ伏せられていた腕をさすった。
「もう、なんなのよ!」
そう言うついでに、カレンちゃんはまじまじとクラリスさんの顔を見た。
「ジョー・・・ナ・・・サンの彼女!?」
「わたくしは、ご主人の店を任された従業員です。つきあっているわけではございません。」
「そうよね。ジョナサンが女性を口説いて連れ込むなんて、ないわよねぇ。」
その言葉にクラリスさんは動きが止まり少し間を置いてから口を開いた。
「ですが、ビッチにご主人の事をどうこう言われる筋合いは無いかと思います。」
ちょっと!クラリスさん!
「今なんか、私の耳に変な単語が入ってきたのですけど・・・」
カレンちゃんが上半身固定で首だけをこちらにカクカク動かしながら、言った。
だけどクラリスさんは気にする事はなかった。
「ご主人、この階には他の者はいない様です。あなたには、上の階にも付き合ってもらいます。」
そう言うと、再びカレンちゃん腕を捻って拘束し、上の階に続く階段を強引に昇らせた。
「痛い、イヤっ何するの!」
「黙って下さい。さもないと更に痛くしますよ。」
クラリスさんは低い声で彼女の耳元でそう囁いた。
「ちょ。ヤダ!歩くわよ歩くから・・・」
痛がるカレンちゃんを強引に2階へ連れて行った。
そう、僕達の今の目的は『冒険者A』を拘束して連れてくる事。
カレンちゃんと会えた嬉しさで気を取られたけど、ここに『冒険者A』が潜んでいる事も考えなきゃいけなかった。
カレンちゃんゴメン。可哀想だと思うけど、ほんの少し我慢してて・・・
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