紡ぎ、綴って。

マフユフミ

第1話

紙とペンと音楽と。

それさえあれば幸せに暮らして行けたはずなのに、何でそれだけじゃ満足できなくなったんだろう。


低音の響くロック。

そのリズムに身を任せながら、心の奥から転がり落ちる言葉を書き留める。

そんな至福の時間を邪魔するのは、自分自身のくだらない欲望だ。


愛したいとか愛されたいとか。


誰か固定の何かに対し、そんな欲望を抱いてしまったが最後、私の幸せは格段に難易度を上げる。


求めても求めても手に入らないそれらは、転がり落ちる言葉でひどく誰かを傷をつけたり、そもそもペンを握る気力すら奪っていくのだ。


何を求めているんだろう?

こんなに幸せなのに。

他者の介入を決して許すことのない、私と紙とペンの世界。

包み込む音楽だけが、私たちを見守っていた。


それなのに、いつしか他を求めるようになって。

完璧に構築されていた私たちの世界は、脆くも崩れ去るのだ。


ああ寒い。

愛を知らない私のペンは、紙を上滑りしていく。

ああ寒い。

求めても手に入らないものに焦がれて、それさえあればと思うのに、それでもペンを捨てきれなくて。


凍える手でペンを握り、震える文字を綴る。

この言葉を届けたいヒトに、すこしも思いは伝わらない。


私の書くモノに、意味はあるのだろうか。

私だけの世界から、ほんの少し別の世界を求めるようになったとき、ただ幸せだった時は意味を求め始め、何もかもが分からなくなっていった。


伝わらない言葉に意味はある?

求めたいものに触れられない言葉に意味はある?

ただの自己満足。

それだけではやっぱりだめ?

欲しいのは愛で、愛することで。

それをペンに乗せるには、この手はあまりにも無力だ。


この無力に自ら勝手に傷ついて、紙もペンも放り出したこともあった。

耳を掠める音楽だけが、私を私につなぎ止めた。


それでもどうしても、投げ出すことはできなくて。

血を流すほどに言葉を求め、泣きたくなるほどペンを握って。

何をしてもどう生きても、私にはこれしかなかった。


低音の響くロック。

そのリズムに身を任せながら、心の奥から転がり落ちる言葉を書き留める。

得られるはずのない愛を探しながら、言葉を綴り続けるのだ。



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紡ぎ、綴って。 マフユフミ @winterday

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