幸せの契約書
ことは。
第1話 紙とペンと場所
小さな小屋の前に男の子と女の子の二人がいる。
「ねぇ、りりちゃん。大きくなったら僕と結婚しよう。
ずっとりりちゃんのそばにいる。僕が幸せにしてあげるね。
これが約束の印だよ」
「うん。たっくん。
約束だよ。大きくなったらたっくんのお嫁さん……」
「りり。起きろ。早く起きろ」
拓人の声で目がさめる。
「やっと起きたか。」
「拓人、おはよう。いい夢見てたのにー。」
いいところで起こされたことに文句を言いつつも重い体を起こす。
そんな私に御構い無しに拓人は
「今から出かけるぞ。早く準備しろよ」
と私を急かす。
何だろう。と思いながらも急いで準備する。
拓人は準備できたのを見かねて
「よし、車のれ」
「拓人どこいくの?」
「まぁいいから。ついたら分かる」
強引な拓人はいつに増して強引だ。
でもそこも好きだなと思いながら車に乗る。
どこいくんだろうと考えていると
「りり。ついたぞ」
と拓人の声がした。
あたりを見回すと一軒の小さな小屋があった。
「ここって……今日の夢の場所……?」
「夢……?小さい頃の秘密基地だよ?
覚えてねぇーの?」
呆れたように言う拓人。
「ねぇ、りりちゃん。これになまえだよ。」
「たっくんこれなーに?」
「こんいんとどけっていうだよ。これになまえを書けばりりちゃんは僕のお嫁さんになるの。だから書いてー」
こんいんとどけ
かさいたくと と書かれていた紙とたっくんには似合わないペンを渡された。
その隣に
やなぎだりりと書いてたっくんに渡す。
「ねぇ、りりちゃん。大きくなったら僕と結婚しよう。
ずっとりりちゃんのそばにいる。僕が幸せにしてあげるね
これは約束の印だよ」
「うん。たっくん。
約束。大きくなったらたっくんのお嫁さんになる」
今日の夢って昔の記憶だったんだと思いふけていると
「なぁりり。これに名前かけ。」
そう言いながら拓人からある紙とあの時と同じペンを受け取る。
「拓人これって……」
「見た通り、婚姻届だけど」
すでに拓人の名前は書かれていてあとは私の名前を書くだけだった。
「なぁ、りり。あの時の約束の印、上書きしていいか?
りり。結婚しよう。
ずっとそばにいる。俺が幸せにする。
これが約束の印だから」
あの時と同じ……。
「うん。拓人。
約束だよ。拓人のお嫁さんにしてください」
そう言い終わると拓人の香りに包まれる。
「りり。待たせたな。その分、いっぱい幸せにしてやる。
覚悟しとけよ」
あの時とは違うずっしりとした約束。
たっくんには似合わなかったペンも今では拓人に似合いすぎて、拓人の一部となっている。
当時の婚姻届は他の人からみたらただの紙かもしれない。
でも私たちにはなくてはならない約束の印。
この時からずっと拓人に恋をしている。
この時からずっと拓人が好きだ。
あの紙とこのペンがなかったらこの瞬間はなかったかもしれない。
「りり、愛してる。俺のお嫁さんになってくれてありがとな。
約束守ってくれて本当にありがとう」
「拓人こそ、ありがとう。大好きだよ。
ううん。私も愛してるよ」
ただの紙とペンで人生が変わる。
幸せの契約の始まりかもしれない。
今日もどこかで紙とペンで契約がされている。
どうか……
幸せになってね。
幸せの契約書 ことは。 @yuimaru311
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