紙とペンと僕
楠木みつ
第1話
「今日も会えるかな」
僕の名前はマキト。
僕の村の人たちは必ず超能力を持っている。
例えば、怪我した場所に手を当てると、一瞬で怪我を治せたり
手をかざすだけで物を浮かせることが出来る。
超能力はレベルで表され、レベル1~5まである。
例えでだした超能力はレベル1に入るため、皆から一目置かれている。
超能力は生まれた時に決まるため、生まれ持った才能とよく言われる。
そんな村での僕の能力とは、紙にペンで絵を描くと、その絵の中に入ることが出来るというものだ。
この能力はレベル5で、一番しょぼい超能力と言われている。
小さい頃から、周りに「そんな超能力いらねえ」「しょぼい超能力だな」
と言われ続けた能力だが、僕は今とても満足している。
それは彼女と出会えたからだ。
彼女と出会ったのは数週間前の事だ。
いつも通り僕は部屋で絵を描いていた。
今回の絵も風景画だ。風景画以外書いた事が無い。
出来上がった絵にいつも通り入り込んだ。
一歩足を踏み入れると、心地よい風が僕を襲う。
目の前には暖かな緑の景色が広がっている。
「やっぱり絵の世界は落ち着くな」
現実世界では周りからしょぼい、いらねえなど言われ続け、
完全に孤立していた僕の居場所は絵の中だけだった。
今回の絵はどんな所かな、と思いながら絵の世界を歩く。
歩いていると遠くの方で影が動いているように見えた。
何だろうと思いながら近づいていくと、人がいた。
この絵の世界は僕が描いた物以外、存在しないはずだったのに、紛れもなくそこには人が立っていた。
僕はびっくりして自分の身を草陰に隠した。
草陰から覗いてみると、綺麗な女性が立っていた。
恐る恐る彼女に近づいて声を掛ける。
「すみません。誰ですか? 」
彼女が声に気付き僕の方に振り向く。
目が大きくて細身の可愛らしい女性だった。
「ごめんなさい。あなたの世界とつながったのね」
そうつぶやいた彼女はニッコリと笑う。
「あなたの世界? 」
「そう。あなたの世界。私の世界とあなたの世界が繋がって今私たちが
会えているの」
「この世界に来たのは初めてなの? 」
彼女に聞かれて僕は悩んだ。今回の風景画に入るのは初めてだが、何枚も風景を描きその中に入ってきた。だから、初めてなのかは分からない。
「初めてと言えば、初めてだと思います」
今回の風景に入るのは初めてだから初めてにしとこう、と思った。
「私はずっと居たの。ここに。でも最近力が弱くなっちゃって。そろそろなのかもね」意味深な顔で彼女は語る。
彼女の意味深な顔を見て僕は尋ねることが出来なかった。
「ところでお名前は? 私はアミ。」
「マキトです。」
「会えたのも何かの縁だし、これからよろしくね」
こうして彼女とこの世界で毎日会うようになった。
現実世界に戻り絵を見たが、人の絵を僕は書いていなかった。
彼女は一体何者だろう。と思いながらも、居場所のない僕を受け入れ
たわいもない話をしてくれるアミを、僕はだんだん好きになっていた。
「今日も会えるかな」
彼女に会うため風景画に入る。
彼女といつも喋っている丘の上に急いで向かう。
早く会いたい。早く話したい。
そんな気持ちを胸に僕の足は着実に丘に向かっていた。
丘の上に付き、彼女を探す。がいない。
いつもは先にきて、僕の事を待っていてくれる彼女だが今日は姿が見当たらない。
「アミー! 」
「どこにいるのー! 」
叫んでも返事がない。僕は会いたい一心でアミの姿を探す。絵の中はさほど広くはないため簡単に一周することが出来た。がいない。肝心のアミは見つからなかった。
丘の上に戻り、座った。ここでアミを待とう。
そう決めた僕はずっと座ってアミを待っていた。
でもこの日、アミが姿を見せることは無かった。
次の日僕は急いで絵の中に入った。
今日もいなかったらどうしよう。もう会えないのかな。そんな不安を抱えながら丘の上に急いで向かう。
丘に着くとそこにアミがいた。
「アミ! 会いたかった。会えて良かった」
そう言いながら僕は足から安堵したように崩れ落ちた。
「昨日はごめんね。私の力がもうダメみたい」
アミからのダメ宣言に僕の頭は追いついていない。
「どういうこと? 」
「マキトと会えるのは今日が最後だと思う」
突然のお別れ報告に僕は何も返せない。
流れる沈黙
そして小さな
「やだよ」
「ごめんね。ありがとう。楽しかった。マキトの世界で私を見つけてね」
悲しそうに笑うアミにこれ以上何も言えず僕は、コクっと小さく頷いてみせた。
するとアミは満足そうに光になって消えた。
僕はアミを見つけるべく、旅にでた。
何軒もの家を訪れ、村を訪れ、アミが消えてから半月がたとうとしていた。
探しても、聞いても見つからず、僕の心は疲れていた。
そんな時はアミとの出会いを思い出す。
するとまた心が穏やかになるのだ。
「絵の世界でアミに出会って話して・・・」
出会いを思い出していると突然おじいさんが声を掛けてきた。
「あんたも絵の超能力か。昔この村に一人だけいたわい。絵の超能力は役にはたたんが、生まれるのも珍しいんじゃ。大事にしなさいな」
おじいさんがそう言って立ち去ろうとしたので思わず、声を掛けた。
「すみません。この村にいた絵の超能力の人はどこにいるんですか? 」
「もう死んどるよ」
「その人がいた痕跡はもうないんですか? 」
なぜだかこの時この村にいた絵の超能力の人が気になって仕方が無かった。
「わしの家にくるといい。その子の絵を見せてやろう」
そう言っておじいさんのあとに続いて僕も歩く。
「ここじゃよ。わしの家。この部屋の奥に置いとるんじゃ。来なさい」
黙ってついていく。
「この入れ物の布を開けると出てくる。一番大切にしていた絵だそうだ。好きなだけ見なさい」
そう言い残しおじいさんは別の部屋へ作業に向かった。
入れ物を持ち僕は座った。
布を開けるとそこには、僕と同じ風景画があった。
僕は涙を流しながら、理解した。
僕が見て描いた風景を昔、アミが描いたこと。
そして思い入れが強いため魂が絵に宿って、その中でたまたま僕と会ったこと。
だけど魂だからずっとは続かず力が消えたこと。
もうアミには会えないこと。
僕はたくさん涙を流した。
もう会えない。
だけど
「やっと見つけた」
紙とペンと僕 楠木みつ @ponponsyou23
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