紙とペンと後輩と先輩
甘川 十
紙とペンと後輩と先輩
「後輩!これを受け取るのだ!」
「ラブレターですか?」
「ち、ちが!」
紙とペンを渡してきた先輩にさらっとそんなことを言う後輩。
言われた先輩の顔は真っ赤になっていた。
「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか」
「軽々というからだ!」
「なんですか、その口調」
「う、うるさい」
「・・・いいじゃないですか、だって僕たち付き合っているのですから」
「そ、そうなのだが・・・」
そう。この二人は付き合っている。しかし、先輩は好きだと後輩に言ったのは最初の一回だけ。
後輩としてはもう少し先輩の気持ちを知りたいのだが、先輩は恥ずかしがって好きとはっきりと伝えてくれたことがない。
「そ、それはともかくいいからこれを受け取るのだ!」
「・・・なんですかこれ」
話題を変えようとさっき渡そうとしていた紙とペンを押し付ける先輩。
その紙に書かれていたのは、
「暗号だ!」
そこには大量の文字が書かれていた。文字が多すぎて、正直呪いの手紙じゃないかと後輩が思ったのは内緒である。
「・・・これを今回は解けと」
「その通りよ!」
「・・・わかりましたよ」
「それでこそ後輩よ。さあ、ヒントに従って暗号を解きなさい!」
「はいはい。で最初は・・・先輩」
早速諦めて暗号を解こうとした後輩だったが、すぐに手が止まる。
「え、いきなりどうしたの後輩・・・?」
「この奇妙な生き物は・・・?」
ヒント1と書かれた下にはかろうじて生き物だと思われるものが描かれていた。
「もう!分からないの?」
「・・・怪物にしか」
「タヌキよ!」
「ヒント1から難易度高いですよ」
「どういうことかしら?!」
ちなみに先輩の美術の成績は10段階で3である。
「はあはあ・・・」
「ふう・・・」
そんなアクシデントを乗り越え、やっと終わりが近づいてくる。
だいぶ文字が減ってきた。
「あの・・・」
「何よ・・・」
「ヒントの数多くないですか・・・」
ここまでくるのにヒントは49個あった。最初の絵がかわいく思えるほど、ある意味難しいものが多かった。
「・・・しょうがないじゃない、夜中に作ったのよ」
「深夜テンション恐ろしいですね」
そんなことを言いながらおそらく最後だろうヒントを確認する後輩。
「あ、これは楽ですね」
「・・・!そ、そう!なら早く解きなさい!もう遅いのよまったく・・・」
後輩がやっと終わると安堵すると、先輩は少し慌てる。
そして、意外とすんなり解くことができたのだが・・・
「なんですか、これ・・・」
「・・・え?」
そこに書かれていたのは全く文章にならなかった。
「えええ!なんで?!」
「・・・もしかして、ヒント多すぎる上になんかダブってたんですかねえ」
「そ、そんにゃあ!!!」
「・・・」
ショック過ぎたのか先輩は、先輩らしからぬ言動に。
もう後輩はいたたまれなくなる。
「・・・結局何が書いてあったんですか?」
耐えられなかった後輩は先輩に聞いてみる。
「それは君にちゃんと好きだと伝えようと・・・って・・・え・・・あ?」
「・・・」
「う・・・うわああああああああああああ」
「先輩?!ど、どこ行くんですか?!」
自分の失態(?)に気づいた先輩は顔を真っ赤にして教室を飛び出す。
そんな先輩を慌てて追いかける後輩。
「う、うるさいいいいいい」
「先輩!大丈夫ですよ!!気持ち伝わりましたから!!だから逃げないで!」
「い、嫌だああ!」
紙とペンって素晴らしいと思いながら後輩は先輩を追いかけるのであった。
紙とペンと後輩と先輩 甘川 十 @liebezucker5
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