めざせポケモン最長しりとりマスター

@reakoirer

第1話

 もしも,ポケモンの名前だけを使って「しりとり」を永久に続けなければならない局面が訪れたら,いったいどうすべきか。

「……え~っと,ピカチュウ,ウツドン,……あ,だめだ」

「ピカチュウ,ウツボット,トサキント,ト……,え〜っと……」

 ――とか悩まずに,素直に「無理です。ごめんなさい」と諦めるほかない。

 ポケモンの数が有限である以上,そのしりとりは絶対に無限には続かないからだ。いくらポケモンが昔より増えたといっても,あくまで有限は有限だ。

 それでも,もし,抗うことを辞さず,可能な限りしりとりを続けようと挑むのであれば。

 いったい,最大で何匹まで,しりとりを続けられるのだろうか?

 いや,そもそも,いったいどのようにして最大まで続ける方法を見いだすのだろうか? 見いだしたとして,その方法は,果たして最大と言えるのか――?



 ――その人物が,いわゆるポケモン最長しりとりマスターに絶対なってやると誓ったのは,今から20年以上も前のことだ——。



 窓の外を見渡せば,健やかな朝の太陽を浴びていっそう鮮やかに映える桜の木が,目に飛び込んでくる。その下には,ピカピカのランドセルを背負った何人もの子供が,それぞれ親の手を引いて楽しそうに歩いている。

 そんな光景をぼんやり眺めながら,本日,小学3年生になりたてのその人物,トリナこと尻井しりい取名トリナは,自分が入学式を迎えたときのことを思い出していた。

(もう,2年前かぁ。あのときには,おかあさんにゲームボーイを買ってもらったなぁ…)


 ゲームボーイ。

 トリナが幼稚園児だったころ,友達であるゴンタの家に遊びに行ったとき,彼に散々見せびらかされて欲しくなった携帯用ゲーム機。その上,両親にあの手この手で懇願して,何とかした買ってもらった,大切な,大切なゲーム機。休みの日も家に引きこもり,ひとりで『ボンバーマンGB』で敵に挑むべく,その汗まみれの手でがっちり構えてきたゲーム機。

 2年生になった頃には,倉庫の中で,大切に,大切に保管されていた。つまり,ほったらかし。トリナの興味は,すでに家庭用ゲーム機・スーパーファミコンへと移っていたのだ。

(もうすぐ,が発売される。楽しみだなぁ)

 もう,今では,スーパーファミコンから次世代のゲーム機へと目を向けていた。


 ふと,トリナの視界に,ゲームボーイを手にしたピカピカの1年生の姿が映る。

(どうして学校にゲームボーイ…? 持ってきちゃだめでしょ。しかもこれから入学式でしょ?)

 異様な光景に,トリナは疑問を隠せずにいると,当の1年生から親に頼み込む声が聞こえてきた。

「あのさ,こんど,〇〇ちゃんとポケモンのこうかんするやくそくしてるから,こんどのどようび,ぜったいつうしんケーブルかってきてね」

(ぽけもん…?ポケモン…?どこかで聞いたような…)

 入学式にゲーム機を持ち込むという謎はさておき,トリナは「ポケモン」と呼ばれるキャラクターが登場するゲームボーイソフトの紹介を漫画雑誌で見ていたことを,うっすら思い出した。そういえばそんなCMが放送されていたりしていたことも,またうっすらと思い出した。さらに,先週,尻井家に来ていた同い年の親戚が持ってきていたことを,今度ははっきりと思い出した。

 もっとも,すでにスーファミの『スーパードンキーコング2』の攻略に没頭していたトリナは,ゲームボーイ用ソフトをプレイするとは,全く考えもしていない。ポケモンについても,このときは,これといって興味はなかったのである。

 そんな中,ガラガラガラガラと,教室のドアを馬鹿みたいに勢いよく開ける音が聞こえた。

「あぁ! トリナだぁ! おんなじクラスじゃん!」

 窓際に座っているトリナに向かって,馬鹿みたいな大声が発された。

 トリナの幼稚園からの友達,ゴンタこと高橋たかはし権太ゴンタの声である。

「あ,そうだね」と,トリナがそっけない態度でそっけない返事をすると,二言目には,「あ! そういえば,お前さぁ,ポケモンって持ってる?」と,何の前触れもなく馬鹿みたいに尋ねてくるのであった。

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