あとがき的なもの~捜査官たちの反省会~
ここは国際魔術犯罪捜査機関ユースティティア・デウス。
その極秘施設の一室ではふたりの捜査官がある反省会をしていた……。
「タチアナさん、”黒髪の魔女は暗闇を恐れている”お疲れっした!」
「神成もお疲れ様」
「しかし、いろいろ大変でしたよね」
「そうだね。ボクは拘束されてキミは、燃やされそうになったり」
「燃やそうとしたのはタチアナさんですけどね……いや、そうじゃなくて、いろいろ物語の展開がざっくりで」
「確かにね。多分、思いつきで付け加えた設定のせいじゃないのかな? やはり後付は物語が混乱するね。ほんとうは12話くらいでまとめたかったらしいよ」
「設定? まとめる? 一体、誰がですか?」
「この
「な、なんですか? それは。邪神のひとりですか?」
「いや邪神ではないけどボクたちにとっては邪神と同じく困った存在かもね。なにしろボクらがどうなるかは創造主次第なんだから」
「それは厄介な……」
「厄介といえば、キミの敬礼癖もだね」
「そんなにですか? 軽くショックです。俺の上下関係を重んじる性格が出ていいと思うんですけど」
「だってボクは年下だよ。まだ19歳だし。なんか卒業した学校の先輩といったイメージにしたかったみたい」
「えっ! そうなんですかっ? 俺は23ですよ。ちなみに俺は仕事に慣れてきて戦力になってきたところで突然、転勤させられた若手社員。でも持ち前の楽観主義で、すぐ仕事に馴染む奴……といったイメージらしいです」
「長っ……いや、それより、キミはボクが年上だと思ってたってことだよね。それはボクが老けてるとかそういう……」
「い、いえっ! 決してそういうわけではございません! タチアナ先輩は、捜査官として尊敬できますし、頼りになる風でしたので!」
「ああ……また敬礼するし」
「そんな呆れ顔しないでくださいよ。これ、癖というか警官の時の条件反射なんで自分でも中々とれなくって。きっと
「そ、そうか。よくわからないが、多分、映画の中のセリフを真似してるんだろうね。よほど気に入っているんだね」
「良いシナリオの映画でした。でも俺としましては、重要なシーンでもないんですけど、あの時、メデューサ先輩があの二人の関わっている事を知っていてとった行動なのか、知らなかったのかすごく気になってまして、そこで印象も変わるというか……」
「ああ、その映画の話はまた別の機会に。今日は”黒髪の魔女は暗闇を恐れている”の反省会なんだから」
「すみません。つい熱くなってしまいました」
「だから、敬礼はいいって……」
「あっ、でも、俺の敬礼癖もそうでけど、タチアナさんのボクっ娘もどうかと思いますよ」
「え?」
「ボクボクって、絵がないんだから性別が混乱しちゃうじゃないですか」
「ちゃんとカタカナを使って書き分けしてる」
「でもなぁ……」
「いいじゃないか。ボクのキャラは少し悲劇的なところがあるから、女性的な部分が強く出ると、ちょっとウェットな話に感じさせてしまうだろ?」
「ボクっ娘セリフでウェットさを抑えようとしてるってわけですか。その意図の効果が出ているかどうかは微妙ですが」
「ああ、そうだね。
「こんな物語でも、いろいろ意図が隠れてるんですねえ。なんか他にも秘密がありそうな気がします」
「あるよ。知ってるかい? 各話のタイトルって特殊部隊や海兵隊やら空挺部隊やらのモットーだったよ。物語との関連性は、ほぼない。あったとしても後付けだね」
「そうだったんですかー! でもタイトルが無い話もありますよね? あれは……」
「ああ、あれはエピソードとして追加だから、とりあえずは付けなかったみたいだ。加筆修正で付いていくんじゃないかな」
「もしかして俺らの名前もそんな感じっすか?」
「いや、一応意味はあるようだよ。ボクのタチアナ・バリアントという名前は、ドリーン・ヴァリアンテという人物の名字のもじりなんだ。バリアントは勇気とか勇敢という意味も含んでいてボクのキャラになんとなく合ってるしね。ボクは攻撃的な魔術を使うけれど決して強いキャラではない。強さもあるけど過去が原因の弱さもある。それを気持ちでカバーしているんだ。だから勇気とかの意味が含まれているのはボクのキャラにとっても大きなファクターなんだ」
「バリアントにはそんな意味が……それに比べて俺の名前って」
「ドリーン・ヴァリアンテという人物についての詳しいことはここを見るといい。彼女は魔女関連の女性だよ
」
<ドリーン・ヴァリアンテ:ウェキペディア>
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86
「うわっ! なんですか、別の世界に飛ぶ! これはなにかの魔術ですか?」
「……いや、単に外部リンクだから」
「ああ、びっくりした。なるほど、バリアントの由来はわかりましたが、名前のタチアナは? その人も魔女かななにか?」
「創造主が、【ラストエグザイル】というアニメのシリーズが気に入っていたからその登場人物から取ったらしいよ」
「ええっ! まじですか!?」
「なんだい、神成。ばかに驚くじゃないか? 何か思い入れでも?」
「実は俺の名前……ああ、名字の神成は、すごい名前生成器っていうウェブツールで適当に選んで……ちなみに下のですけど」
<すごい名前生成器>
https://namegen.jp/
「邪神も出てくるし神ってのもちょうどいいかなって、雷ともかかってるし面白いかもって付けたみたいなんです」
「なるほど、”神に成る”というのも何か意味ありげだね」
「はい。で、名前の方の
「ハイロー?」
「HiGH&LOWのことですよ。
「でも広斗と朝斗では違うんじゃ……」
「実は最初の名前はまんまとって広斗だったんです。でも、創造主がイメージ違うと思ったらしく……なにしろハイローの広斗はクールで寡黙なキャラなので」
「そうか。でも、わからないなぁ……そこで何故、ボクの名前の由来で驚くんだい?」
「エグザイルです」
「はあ?」
「エグザイルつながりです」
「あ、そう……」
「な、なんでため息つくんですか! それにその呆れ顔は!」
「なんでもない。気にしないで」
「もしかして、どっちかっていうと三代目JSBだろって心の中で突っ込んでるんですか!! 確かにそうかもしれませんが、そこはEXILE TRIBEってことで……」
「いや、そこじゃないから。それにどれだけEXILE好きなんだよ?」
「好きなのはダンさん役の山下健二郎さんです。健二郎さんってゲーム好きで、いい人っぽいんですよ。ちなみにあるラジオ番組のトークを聴いてファンになりました」
「聞いてないよ」
「ラジオだけに、ですか?」
「もういいって……」
「聞く、という流れでタチアナ先輩にお聞きしたいんですけど」
「何?(こんな奴だっけ……?)」
「自分が所属しているユースティティア・デウスという機関は一体どんな組織なんでしょう? 作品内で説明もされましたが、いまだによく理解できてなくて」
「映画の【キャビン】とか【ヘルボーイ】に登場した秘密組織が元ネタじゃないかな。あるいは【MIB】シリーズとか。特に【ヘルボーイ】の方かもね」
「ヘルボーイですか。確かに炎を操れるキャラも登場するしクトゥルフ神話ネタもある。敵にもトゥーレ協会会長設定のキャラも出てきますよね。ユースティティア・デウスの前身は、ナチスのトゥーレ協会関係を調査する連合国軍の調査機関だったという設定でしたよね。それって全部パクリですか?」
「そうはっきり言っちゃだめだよ」
「す、すみません」
「そういうのはオマージュと呼んだ方がいい。というか、オマージュもあるかもしれないが、元ネタ……いやオマージュを意識してなくても偶然に似た部分もあるだけさ。創造主を擁護するわけではないけれど、題材が近いからそうなっちゃっただけじゃないかな」
「ああ、なるほど……で、そのオマージュですが、ヘルボーイの登場したトゥーレ協会会長、あれ機械っぽい動きもしましたけど、この作品内に出てきた動くマネキンとか彫像はそこのパク……いえ、オマージュでしょうか?」
「あれは【サイレントヒル】のナースがイメージの元だね」
「ほんと、タチアナさん、何でも知ってますね」
「何でもは知らないよ。知っていることだけだし」
「タチアナさん……そのセリフ、なんか聞いたことある」
「とにかく、ざっくりいうとユースティティア・デウスは、魔術犯罪を専門とする捜査機関で、魔術界のFBIみたいなものなんだ」
「はあ、なるほど(セリフの件は突っ込まれたくないのか……)」
「でも、世間的には知られていなくて、表向きはインターポール的な警察機関のひとつとされている。捜査範囲の対象は全世界で多くの国に支部があるんだ。『黒髪の魔女は暗闇を恐れている』の舞台となる英国にはイギリス本部があってイギリス国内はもちろん、西ヨーロッパ全土をカバーしている。もちろん東ヨーロッパやアジアにも各地域を取り仕切る本部がある」
「俺は日本支部とかアジア本部に配属ではなかったんですね。そういったのがあればですけど」
「噂では、キミがイギリス本部に呼ばれたのはある理由があるらしい。でも実際は創造主の単なる思いつきかもしれない」
「クトゥルフも思いつきな気がします」
「やりたかったんだろうね、クトゥルフ。まったく安直だよ。この創造主は」
「きっと最初は、バディ物を書きたかったんだと思いますよ。連続してその手の映画観てたみたいだから。それなのに思いつきでクトゥルフ入れたからバランスの悪い話になっちゃった。この創造主の悪い癖ですよ。無理な軌道修正をするとしっくりこない物語になるっていうのに。そもそも局長が裏切り者ってのも伏線が全然足りないっすよ」
「同感だ。意見が合うね」
「そりゃ、同じ世界の住人ですから。それに俺、最近、タチアナさんの考えが分かる時があるんですよ。やっぱりバディとしての相性が良いんですかね……あれ? タチアナさん、何か顔が赤いですよ?」
「えっ? そ、そう?」
「熱でもあるんですか? 炎の魔術を使う人なのに」
「まったく……そういうところがボクを苛つかせるんだ(小声)」
「何か言いました?」
「な、なんでもない。ボクが使えるのは火の魔術だけじゃないって言っただけだ。他にもいろいろ魔術は使えるんだからねっ!」
「そうなんですか?(なんか言い方がツンデレっぽい……)でも作品の中では、炎の魔術ぐらいしか使ってなかったすよ」
「妖精を使ったりしてたろ?」
「それくらいでしょ」
「仕方がないじゃないか。ボクが他にも魔術を使ってもいいけど、その分、話が伸びてしまうだろ? 炎はボクが抱えている”怒り”や”過去を消してしまいたい欲求”のメタファーだから使う魔術のシーンを絞ったんだよ。他にも五大元素の魔術は一通り使えるんだから」
「そ、そうだったんですか!」
「そうさ。実際、公開していないだけで水の魔術を使うシーンがあるんだ。炎の魔術を引き立たせる為に創造主が泣く泣く削ったんだ」
「せっかく時間をかけて書いた話を削るのは辛いですよね」
「仕方がないさ。大事なのは作品の全体のバランスだ。”蛇足”という言葉だってある。余分になってくる部分だって出てくるものだよ」
「逆に足りなかった部分もありますね」
「ああ……残念ながらね。神成も気づいてた?」
「はい。俺もタチアナさんも葛藤の表現が不足気味だったと思います。メンターのキャラも弱かった」
「ボクは子供の頃のトラウマ。キミはボクに対しての感情だけどもっと書けたはずだと思う。例えばキミの葛藤の中に自身の身の上がかぶるとか、ボクに惹かれる理由をしっかり描けばだいぶ感じが……ん? どうした? 神成、その顔は」
「だって、惹かれる理由って。確かにタチアナさんの黒髪にブルーの瞳は魅力的ですけど……そうはっきり言われると照れくさいです」
「ち、ちがう! ボクはコンビというのはお互いに惹かれるものがあってこそ良いコンビだってことを言いたかったんだ!」
「えーっ、そうなんですかーぁ」
「な、なんだ、その不服そうな顔は?」
「だってえ……ブツブツ」
「とにかく、バディは組み合わせが大事ってことだ(ちょっと無理やりかな……)」
「少し納得はいきませんが、確かに同じタイプより違うタイプを組み合わせた方が面白いし、それが共通の信念とか、価値観を持っていればたとえ反目し合う関係性であっもストーリーの後半で後で萌えてくると思います」
「この作品は、それがうまく表現できていなかった」
「はい。反省するべき部分です。反省する部分といえばもっと短くまとめれればよかったですよね」
「うん、半分でよかったね。でも、いろいろ付け加えたら話が伸びてしまった。特にゾンビとかいらなかったと思う」
「あーっ! それ言っちゃいます?」
「だって、意味がなかったじゃないか。なんのメタファーにもなってなかったし」
「それを言われるとつらいです。外骨格スーツ……まあ、パワーアシストのことですが、あれを登場させる為だけのシーンというか……」
「
「それも言っちゃいますか! 確かにガジェットが活きる活躍はしませんでしたよ。でも、あのシーンが書かれた時には、ミニガンを持つ予定だったんですよ。結局取り止めちゃいましたけど、リアルな話、ミニガンってすっごく重量があるんです。それに作動させるバッテリーも弾丸も大量の持たせる必要があるんです!」
「そんなの曖昧でもいいじゃないか。ほら、よくあるだろ? 戦闘機が本来は空対空ミサイル戦なのに機銃でドッグファイトするとか、女の子に大口径の拳銃を撃たせるとかさ。読んでる人はエンタテーメントとして楽しんでいるわけだから、そこは細かく追求しなくてもいいんじゃないのかい? むしろもっと派手でもいいと思うよ」
「わかってますよ! わかってるんです! 拳銃が弾切れになるのはピンチになる時。それがエンタテーメントだし、それでストーリーが盛り上がる時もある。それでも、それでもですよ? ちょっとこだわりたかったですよーっ! 百キロを越えるミニガンを俺がリアルに持つにはそういうガジェットが必要だって。だからパワーアシストを登場させたんですよーっ、創造主は」
「わ、わかった、わかったから……そんな涙目で訴えなくても(神成って結構、面倒くさい奴なんだな……)。でも実際のところパワーアシストって携帯もしなくっちゃならないから、もっと軽量でシンプルなんだろ? ボクは作品内で”アイアンマン”と形容してしまったけど」
「米軍のHULCを改造したって設定でぼかしました。アイアンマンというより【オール・ユー・ニード・イズ・キル】の機動スーツのイメージですね。映画の世間的な評価はともかく創造主が気に入っている映画みたいです」
「ああ、あの映画。初見でなんか【レジスタンス】ってFPSゲームに似てると思った」
「どちらもWWⅡのノルマンディ上陸作戦をイメージしてますし、オスプレイ的な輸送機も登場しますしね」
「あれ、続編が制作されるらしいよ」
「マジですか! でもあの話、どうやって続けるんだろう……?」
「続くといえば、ボクらの話も続くらしい」
「えっ!」
「な、なんだよ、神成。その笑顔。ちょっと引くじゃないか」
「だって、またタチアナ先輩と組めるなんて嬉しいっす!」
「ちょっと待って!」
「はい?」
「実は、そうとは限らないんだ」
「どういうことですか!?」
「次回の主役は、ユースティティア・デウスの別の捜査官たちかもしれないし、ボクが違う相棒と組む話かもしれない。または神成が違う相棒と組むのかも」
「えーっ! なんっすかそれ」
「そんな子供みたいに口を膨らますなよ。創造主が書きたい世界を書くってことで始めているからね。最初からそのつもりだったんだろうさ」
「俺、タチアナ先輩と離れたくないですよーっ」
「ば、ばか……」
「あれ、タチアナ先輩どうしたんですか? 顔を赤くして。熱いんですか? エアコンかけます?」
「またか……まったく、キミって奴は」
「あれ、タチアナ先輩、どこ行くんです? 新しい事件ですか? ねえ、ちょっと、置いていかないでくださいよ。タチアナさん、タチアナさんってばーっ!」
こうして、ふたりの捜査官たちによる【黒髪の魔女は暗闇を恐れている】反省会はうやむやのうちに終了した。
物語はとりあえず終了したが、加筆と修正は続けられることだろう。
そして二人の捜査官は、いずれまた新しい事件に挑む筈である。
黒髪の魔女の心臓の半分は邪神が持ったままなのだから。
おわり
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