20xx年12月29日

 勉強しても無駄かもしれないと思ってからは、文字を書かないだけでなく、教科書や参考書を読むこともやめちゃったんです。どんなに勉強したって、あのペンが代わりに回答するんだったら私の勉強なんて無意味な努力にしかすぎない。そう思ったからです。

 感情が不安定になった私を心配してお母さんは、少し休むように言ってくれたんです。その時はなにも感じなかったけど、いま思い返すととても感謝してます。

 それからはスマホを眺める時間が増えました。表示される動画や文章は私の気持ちを切り替えるには十分なコンテンツでした。気になった記事にコメントを入れたり、ネットでのやり取りをしている時にふと『スマホだったら大丈夫かも』だと思ったんです。

 さっそく、スマホの問題集アプリをダウンロードして勉強をしてみました。選択問題が多かったけど、記述式の問題でも奴に妨害されずに勉強する事が出来ました。

 夏休みの終わりごろ、やっと1学期の復習が終わって平均点くらいは取れそうになったころ、スマホの画面にも奴が現れたんです。

 実はそれほど驚きはしなかったんです。むしろちょっと遅かったと思ったくらいでした。


『そろそろ勉強もひと区切りつかれたみたいですね』

『スマホで書いても同じなんだね』

『少し戸惑いましたが、あなた自身が習得すれば大丈夫です』

『私は大丈夫じゃないけど』

『約束を果たしてくだされば自由になれますよ』

『百科事典5冊文の文章なんて無理にきまってるでしょ』

『もし、約束を反故にされるのであれば、不本意ですが〝さわり〟をつけさせていただきます』

『さわりってなによ』

『体にさわりをつける。つまり体調をくずしたり寝込んだりしていただきます』

『どんな脅しよ。そんなことできるなんて、あんた何者なの。悪魔?』

『ただの使者です』

 スマホには似つかわしくないこんなやり取りをすることになり、もう私は半分覚悟を決めかけていました。


 ありがたいです。やっとお役目を果たしていただけるんですね。


 好きなこと言ってくれるわね。ここまで追い込んだのはあんたでしょ。私は仕方なくやるのよ。


 やっていただけるのであれば大変ありがたいです。


 でももう少しだけ待って。自分の気持ちをちゃんと残しておきたいの。それくらいいいでしょ。


 どうぞご随意に。


 だけどどうしてもわからない。こいつ何者なんだろ。ペンの妖精とかだったら、ペンを叩き折ってやる。


 私は妖精ではございませんよ。


 はいはい。そうですか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る