僕の作品は問題だらけ

マサヒラ

僕の展示作品

「よし、出来た!」


 そう勢い良く言って、僕は出来上がったものを満足そうに見つめていた。

 今回の出来は割と良い方である。これなら、いつものように駄作と言われないだろう。そんな期待を持ちながら僕はある人物の元に赴く。

 

「……何だ、これは?」

 

 それは、紙粘土で作られた人形である。もちろん先ほど出来上がったばかりの、僕の作品だ。


「何を言うんです。どう見ても今話題の『ペンシル君』じゃないですか、先輩。今回のお題は、話題なものでしたよね」

「そんなものは聞いたこと無いわ! またお前の脳内世界の話じゃないだろうな!?」

「心外な! いくら先輩でもいい加減怒りますよ。僕がいつもそんな電波なものを作るわけないじゃないですか!」

「ほほう。では、そのペンシル君とやらを見せてもらおうか」

「いいですよ」


 そう言って、僕はスマホで調べたペンシル君の画像を先輩に見せた。

 ちなみに、ペンシル君とはローカルなゆるキャラである。シャーペンがモチーフらしい。

 それを見た先輩の表情は、何故か固くなった。そして、僕の顔を見て何故かため息をつく。酷い。


「あのな。私達は曲がりなりにも創作芸術同好会なんだぞ。確かに、模倣や真似をするのは技術向上のために必要な事だ。——しかし、しかしだ。お前の作品はアレンジし過ぎだ!」


 そう言って、スマホで検索した画像と僕の作品を先輩は並べる。何が違うというのだろうか?


「明らかに、これは別ものだろうが! もう既に模倣という領域ではないわ! これはこれでまぁ、芸術とは言えなくも無いが、今回お前に課したのはそう言う課題では無かったはずだ」

「えー、だって先輩。こことか、こことか、あー後、こことか何てそっくりだと思いますよ」


 そう次々、僕は作品とペンシル君の似ている特徴を指していく。特に僕がこだわったのはこの芯が出る部分の造形だ。

 だがそんな熱意も先輩には伝わっていないみたいで、ずっと怪訝な顔をしたままだ。


「はぁ、百歩譲ってコレがそのペンシル君とやらだとしてもだ。これは少々やりすぎではないか」


 それは、ペンシル君の背中に取り付けられた翼を指していた。

 確かにオリジナルのペンシル君には無い部分だが、これも僕のこだわった部分の一つである。

 

「確かに、全体的なシルエットは違いますけど、ただ真似をするのも面白くないでしょ。こうやって、本来ない部分を付け足すのが……」

「アホか! そういう事をいってるんじゃない。——これ何、刺してる?」


 そう言われて僕は、こう答えた。——「」と……。

 

「あのな一体どこに、自分の作品にシャーペンをぶっ指す奴がいるんだ?」

「ここです」


 僕は自分を指し即答する。

 すると、何故か先輩の手が僕の頭に飛んできた。痛い。


「ぃて……だって、ただ紙粘土で作るのも味気ないでしょ。だったら別の材料で違う要素も取り入れようかと思ったんですよ。ほ、ほらペンシル君ってシャーペンがモチーフですし」

「それで、シャーペンか! お前やっぱりアホだろ。大体なんだよ、この状況は、共食いならぬ共刺しかよ」

「…………」


 先輩も上手いことを言う……とは流石に思わなかった。

 まぁ僕も、後が怖いのでここでのツッコミは控えておこう。


「何だ、何か言いたそうだな」

「い、いえ。何も……」


 無駄に勘がいいのは、何故なんだろうか。ちょっとだけ怖くなった。


「とりあえず、やり直しな。こんなので、先生達に見せれるか!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。今回は結構いい出来だったんですよ」


 僕は抗議するが、結局受け入れてくれることは無かった。仕方ない、次の作品に取り掛かろう。


――数分後。


「出来ました、先輩」

「早いな。——お、今回は絵画か。よし、見せてみろ……!?」


 今回僕が挑戦したのは、先ほど作った紙粘土の人形ではなく、絵画である。

 芸術つまり、美術と呼ばれるもので一番ポピュラーなジャンルと言えるだろう。といっても僕はどちらかというと造形専門であまり絵心は無いので、そんなに描いたことは無かった。

 

 ただ、僕の作品を見た先輩が今まで見たことのない表情をしたのでかなり出来が良かったのだろうと判断した。案外、絵画にも向いているのかもしれない。


「お、おい。こ、これは、何だ?」


 何故か、震え声な先輩。そんなに出来が良かったのだろうか、正直恐ろしくなる、自分の才能が……。


「何って、『ペンシルちゃん』ですよ。さっきのペンシル君の妹なんです。まぁ、見た感じ似てますけど、リボンがあるのでそこが見分けポイントです」


 ちなみに、ペンシルちゃんのモチーフはボールペンである。


「……だから、そういう事を聞いてるんじゃねえええええええええええ!!」


 先輩の怒号が響いた。

 僕の作品に唾が飛ぶのでやめてほしい。後、これ見よがしに耳元で叫ぶのもやめてほしい。耳が痛い。


「この際だから、テーマとかはもういい。お前に普通のテーマなんてことを言っても無駄だからな。——けどな、このはおかしいだろ」

「えー、流石に落書き呼ばわりは酷いですよ、先輩。少なくとも今回は、アレンジ何て入れて無いでしょ」


 今回は真面目に、そのままに、ペンシルちゃんをモデルにしただけである。

 アレンジをしようにも、絵でどうアレンジしようとするか思いつかなかったのだが……。


「……確かに、今回は無いな。だがこれは、酷い出来だ。——どうせ、あれだろ、モチーフがボールペンだからっていう理由で、ボールペンを使ったんだろ。 ——いいか、絵画ってのは、基本的にはクレヨンや絵具と言ったものを使うんだよ。少なくともボールペンで描くものじゃない。」

「そんなのは分かってますよ。僕だって一応この同好会のメンバーですからね。でも普通にしても、面白くないでしょ。ただでさえ、今回はアレンジ出来てないんですから」

「だから、そんな余計な気を回さんでいいわ! それに、今回に関しては純粋に絵も酷い。パースとかもグチャグチャで、お前に絵は向いてないぞ。これなら、さっきの奴のがまだいいな」

「…………」


 それは、普通にへこむ話だった。

 もう絵には挑戦しないかもしれないなと心の中で思う。


「とりあえず、お前の感性は訳が分からんし、お前の作品も理解できん。ったく、何でお前がこの同好会にいるかも謎だよ。とりあえず、もう一度な」


 また、やり直しになってしまった。

 次は何をしようか……。そんな事を考えながら、次の作業に取り掛かる。


――数分後。


「……で、今度は何を持ってきたんだ」


 その眼は、もう何も期待していないといった感じだった。

 ただ、僕も言われっぱなしなのも癪なので、今回は真面目に取り組んだ。


 それは、最初と同じで紙粘土の人形だった。ただ最初のよりはちょっと大きいが……。造形も全くアレンジしていない、普通にモデルのキャラをそのままで作成した作品だ。

 その出来に、先輩は普通に感心したようで、うんうんと頷いていた。


「何だ、やればできるじゃないか。これなら、提出しても問題ないな。よし合格だ、おつかれ」


 ようやっと、先輩のお墨付きを貰う事に成功した僕は、展示棚に作品を置く。

 

 先輩は気づかなかったみたいだが、この作品にはある特徴がある。

 確かに見た目の造形には手を加えていない。——


 この人形の頭部にあたる部分を良く見ると、小さい溝があり、それに沿って頭部が取り外し可能になっている仕様だ。そして内部は空洞である。


 この人形は『ペン立て君』というキャラクターをモデルにしている。読んで字のごとくこれは人形ではなくペン立てという事だ。まさに完全再現という奴だ。

 うーん、やはりいい出来だ

 ちなみに、このペン立て君はペンシル君とペンシルちゃんの従兄弟という設定だという。


 少しだけ作品を眺めたのち、僕は次の作品に取り掛かることにした。


 もちろん後で、この事は先輩に気付かれてしまうのだが、それはまたの機会に……。

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