002 しのぶと深
今日もまた、こっぴどくやられた。
忍「いた……」
深「いてて……」
はしっこの森に呼びつけられ、
そこで待ち構えていた『こびと学校』のクラスの奴らにポカポカやられた。
あーあ……ふたり見事に、かばんは泥んこ、ひざは擦りむけ血がでてる。
忍「しんくん、立てる?」
深「……」
あ……、
忍です。
じゅっさいです。
隣で悔しげに涙を堪えているのは、幼なじみの深くんです。
忍「だいじょうぶ?」
深「……いつも巻き込んで、ごめん」
同い年でも、深くんは優秀な子だ。
こびと学校一等の成績をおさめたって……こだま先生が喜んでいた。
けれど……、勉強はできるけど、おうちの事情のせい……もうずっと、悪ガキたちのターゲットにされてしまってる。
忍「それより、そろそろ夕暮れだから」
深「ああ……今日も行くの?」
忍「うん。しんくんも来る?」
深「……しのぶが、いいのなら」
忍「いこうよ」
深「……うん」
ようこそ、ここはかがりの村。
かがりの大地の東にあって、田舎で、都のほうの流行りなんて何もない。
でも平和だし、たいていの人は優しい。
たまにイタズラの過ぎるこどもも、いるけれど。
村のはずれには古の精霊たちの森があって、今いるここはその手前。
村から見て『はしっこの森』と呼ばれる、巨大な森の入り口ぶぶんだ。本当の森の深いところには、なんびとたりとも立ち入れない。なぜなら、森を自在に変化させる原生の植物、そして危険な生き物たち……つまりモンスターがうようよ生息していて、たとえ代々この地に住む大人であっても滅多に近づく事のない危険な場所なんだ。
さてさて。
こんな謎の森からは、さっさと離れて……
この時間帯、どうしても行きたいところがある。
村へ帰る途中。ひとつ道をそれて、急ぎ坂を上ってく。
道の舗装もなくなってきた頃……だんだんと視界が開けてく。
標高だかいカガリの村の更なる上。崖っぷちの高台に、到着。
忍「よかった、今日も間に合った、よかった…」
ほら見て、
やけた空、大きな夕日、そして橙に染まるかがりの地表を。
ほんのいっときの、かがやく世界の統一。
深「しのぶ、天気のいい日は欠かさないな…」
忍「……」
深「しのぶ?」
忍「あ、ごめん……ボーっとしちゃって」
深「いや……いいけど、しばらく見る?」
忍「そうしたいけど…帰ろう。今日は少し遅くなっちゃった」
深「そうだな、完全に日が暮れる前に…帰るべき」
忍「でもよかった、これで明日もがんばれるよ」
深「……うん」
忍「この時間が、好きだよ。何か…ふしぎな感じがする」
深「しのぶだけだよ、夕焼けなんていつも同じ」
忍「そうかな、」
深「そうだよ、」
忍「そうなのかな、いつも付き合ってくれるのに?」
深「そうだって!」
果たして
そうだろうか……
夕焼け
日の沈むころ
ぼくらは 遥か遠くを見つめてる
それを一日だって欠かさない
かがりの大地が焦がれてく
だんだんと 焼けつく夕日をあび
世界の色が 全て同じに染まってく
ほんの一瞬の事なんだ……
でもなぜだろう
眺めてると 胸が熱くなる
苦しくなって つらくなる……
じぶんは何かを忘れてる 大切な何か
そんな気がしてく……
ずっと ずっと ずっと
今日も。
深「しのぶ!」
忍「あ、うん……行くよ、いま行く」
今日もさいごに、一度だけふり返る……
ひとつとなった広い大地の、その中心の大きな街。
【籠の都】
本当は
ひとり、あの街を見てる。
妙に感じる、惹かれる。
あの街に、じぶんを待ってるひとがいるのではないか。
いつも、そう心がざわめくんだ……。
実は
こうしてると、たまに記憶が還ってくる。
断片的に思い出すんだ。
じぶんはきっと、自分じゃない……。
ごめん深くん、
これは誰にも、明かしてない……。
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