グランディアの約束【1話完結】
ひろゆきサンタ
勝利。そして…
時は迫っていた。
数分前、俺はあの「オメガ」を倒した。
これでグランディアにようやく平和が訪れる…はずだったのだが事態が急変した。
《限界半径途中まであと、あと910秒…》
《シンクロナイズまで、カウントダウン、あと910秒…》
「なにっ、910秒だと!」
エレナが深刻そうに、こちらを見て言った。
「悠斗! 時間がない、早く準備するぞ!」
「お、おい。どういうことだよ。なんだよ準備って…」
「《グランドマザー》と…アーシャ君をリンクさせるんだ!」
「リンク…って、まさか…」
「ああ、そうだ。今こそアーシャを”生贄”にするんだ」
”生贄”
それはアーシャが宇宙の「デ=ボンジュ」となり、創生神となることを意味する。
つまり、アーシャとは二度と会えなくなるのだ。
せっかく2人で暮らしていけると思ったのに…
こんなことに巻き込まれたばっかりに…
落ち込む悠斗を横目に、エレナは冷たい態度で訊いた。
「…泣いているのか?」
俺はかぶりを振った。
「泣きべそ野郎とでも言いたいのかい?」
「私の世界ではな、男が泣いていいのは、会社をクビになったときと、母親が死ぬときだけとなっている」
「良かったよ、当てはまってくれて」
「愛する者のために涙を流すことは、当たり前のことだ」
《…カウントダウン、あと590秒…》
確か、初めてアーシャと会ったときも、俺は泣いていた。25歳で会社をクビになって、もう人生を諦めていた。どうにでもなれと、ありったけの酒を、胃に詰め込んだ。いつの間にか見知らぬ女が家にいた。多分、居酒屋かどっかから連れて帰ったのだろう。それがアーシャだった。俺は彼女に構うことなく知らずに飲んだ。泣きながら飲んだ。いつの間にか彼女も一緒になって泣いてくれた。その後は…覚えていない。目を覚ますと彼女は俺のベッドで一緒に寝ていた。
悠斗は声を震わせながら訊いた。
「彼女は…アーシャは、死ぬのか」
「ああ、死ぬだろうな」
「これが運命ってやつなのかな」
「運命だったのだ」
「運命だって!? ふざけないでくれ。そんなものに、俺たちは翻弄されたくない」
「‥‥‥」
アーシャの心配そうな表情が覗いていた。あの時と、クビになったときと同じだ。
「悠斗、泣いてるの?」
「大丈夫だ。ちょっと目にゴミが入っただけだ」
「……でも」
「なんでお前まで泣く必要があるんだ」
「悠斗の悲しみは私の悲しみ。苦しみも、そして痛みも…全て私が受けとめてあげたい」
「アーシャ…」
《…カウントダウン、あと230秒…》
エリカが口火を切った。
「良い雰囲気の途中で申し訳ないが」
「‥‥‥」
「君と、アーシャ君にはやるべきことがあるはずだ」
「‥‥‥違う」
「なんだ?」
「違う。運命なんでものはない! 俺たちが、俺たち自身で未来を創るんじゃないか!?」
「悠斗…」
「他に、他に方法があるはずだ。もっと別の、誰も犠牲が出ない…別の方法が!」
コツコツとした靴音が聞こえた。アーシャが悠斗を横切り、中央の《グランドマザー》へと向かっていた。途中、服を脱ぎ捨てながら、そして、半分まで進んだところで振り向いた。覚悟を決めた目をしていた。
「悠斗……私、行く」
「アーシャ‥‥ダメだ。だって死ぬかもしれないんだぞ」
「もう、こうするしか他には無いのよ」
「ダメだ! ダメだダメだダメだ!」
エリカが横やりを入れる。
「このままでも我々は死ぬぞ」
「ぐっ、それはそうだが…。でも…」
《…カウントダウン、あと60秒…》
アーシャは静かに言った。
「…私、もう行くね」
そして、するすると服を脱いで、台座に向かう。アーシャの綺麗な背中があらわになっている。
「行くな!」
「覚悟を決めろ!悠斗!」
エレナは地面に剣を突き刺した。
「くっ……」
ゴゴゴゴゴゴ
崩壊が始まったようだ。
もう時間がない。
アーシャは身体を抱えるよう手を組みにして、中央にある《グランドマザー》にもたれかかった。目を閉じ、ひとつ深呼吸をした後、悠斗を見つめた。
「悠斗、ありがとう」
「必ず、俺はアーシャのところに会いに行く」
「うん」
「‥‥‥」
「一緒に暮らしていたあの頃が、なつかしい…‥」
「ああ」
「笑って、泣いて…一緒に寝ていたあの頃が…」
「‥‥‥」
「もう一度…2人で一緒に生活したい」
「…できるさ」
「え?」
「何年かかろうが、何十年かかろうか‥‥絶対に叶えてやるさ」
強い光が徐々にアーシャの身体を包みこんでいく。そろそろ限界に近い。
「約束しよう」
「悠斗?」
「また会うって」
「うん」
「俺という人間が存在する限り…‥この約束は有効だからな」
「信じてる‥‥」
「俺もだ‥‥」
光が、2人を、世界を、グランディアを包み込んだ。
FIN.
グランディアの約束【1話完結】 ひろゆきサンタ @hiroyukisanta
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