恐れ恐ろしお揃いに
影宮
第1話
目の前で深い眠りに落ちた男は、酒の弱さを今更に晒している。
未だに謎を明かさない声色で僅かにそれを笑ってやる。
酒に酔うことも無く同じ、いや、それ以上を飲み込んでおいて、酔い潰れたのは男の方。
この男だって、此方が女であることさえ知らないくらいに、溺れている。
今なら、殺せると思ってしまった。
ガラスのコップを机にそっと置いて、目を細める。
息の浅い自分なら、今ちょっとでも相手が気配を動かしたなら、気付いて起きてしまう。
それなのに、この男は。
見た目や性格さえ、外側の壁だって、簡単に忍び込まれてそれさえ許すほどに騙されていたのだろうか。
敢えて騙されたフリをして、この距離感を味わっていたならお相子だったのに。
面白くない。
決して、面白くはないのに。
その首に人差し指を添えて、つぅっとなぞってやる。
起きない。
寝たフリでもないらしい。
本当なら、今なぞった通りにナイフでもいい、綺麗に切り込んで血を流させていたのに。
ここまで来るのに、何年かけたんだろう。
懐に忍び込むのは簡単だった。
そっから、心臓と首に触れるのが長かったんだ。
好意なんて一方的で、それにさえ気付いていなかったんだろうか?
そんなことない。
あんたは、知ってたんだ。
そうでしょう?
見抜けていたんだよね?
じゃぁ、あんたは何に負けたの。
今なら、殺せる。
この首を指でなぞったように切り込んでもいい。
その背中から心臓まで一刺しに貫いてもいい。
その唇に毒を滑り込ませることだって、出来る。
酒に毒を混入させてもよかったはずだ。
今なら、いつだって、殺せる。
殺せるさ。
殺すために、あとは自分を殺せばいいだけで。
感情なんて一切なかった。
何がここまでこの手を留めようとしているんだろうか?
そんな疑問も、見透かされていそうだ。
仕事じゃない。
あんたを殺すためなら、懐にだって収まって、あんたを殺すためなら、その手にだって従うさ。
あんたを殺すために、簡単にされるがままになってやるんだ。
親友なんて仲が偽りだって、それはもうどうでもいいことになっていく。
ここで寝ても男は自分を殺そうとはしない。
そんな確信だってあった。
殺そうとしても、殺せやしないんだろう。
刺しても、飲ませても、死に至らしめる致命傷を、その術を、あんたはまだ知らないんだから。
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