【KAC4】紙とペンと○○

@dekai3

【KAC4】今昔カクヨム話 『紙とペンと○○』

 今かもしれないし昔かもしれない、どこかかもしれないし誰かの脳内かもしれない場所。そこには小さいながらもしっかりとした国がありました。


 その国には色々と物を考えたりするのが好きな人が沢山居て、いつも色んなことを話し合っては笑ったり怒ったり粘着して相手を炎上させたりしていました。


 この国を治める王様はそれはもう大変な気苦労を背負っていましたが、それでもそれなりに幸せな日々を送っています。




 ある日、国の真ん中に王様からのお触れが出ました。


『紙とペンと○○の、○○とは何かを国民全員で考えよ』


ザワザワ ザワザワ


 国はざわつきました。

 王様の無茶ぶりはいつもの事でしたが、ここの所、国民全員を巻き込んだ戯れを頻繁に起こしているのです。

 確かこの前は『それぞれが一番と思うラブコメのシチュエーションを考えよ』でした。国民はとうとうお触れを出しすぎて王様の気が触れたのかと思いました。 

 しかし、腐っていても王様が出したお触れ。従わないわけにはいきません。

 それになんだかんだで国民達は物事を考えたり話し合ったりするのが好きなので、嫌々というポーズをしながらもノリノリで紙とペンと○○の○○について考え始めました。




 ある学者は言いました。


「先に『紙とペン』という言葉が来ているので、この○○に入るのは筆記用具の何かに違いない。近日中に王様が購入した筆記用具を調べればいい」


 それを聞いた王室御用達の搬入業者が納品リストを公開しましたが、ここ数日は王室の筆記用具の搬入はインクやペンタブですら無く、王室への苦情係が鉛筆を補充した程度でした。



 ある新聞記者が言いました。


「ペンは剣よりも強いと言います。王様は我々のようなジャーナリズムを追及する者を求めているのでは?」


 そして大勢の自称フリージャーナリスト達が兵士の制止を振り切って王宮に乗り込み、王様に直接インタビューしようとして捕まりました。中には官房長官の定例記者会見で全く関係ないのにこの事について質問する記者も居ました。



 ある探偵は言いました。


「これは王様から我々への助けを求める暗号では?きっと王室内で何か合ったに違いない」


 探偵は仲間を引き連れて王宮へと向かいましたが、お前らが来ると必ず殺人事件が起こるから来るんじゃないと追い返されました。犯人はあの中に居るだとか、あれれー?だとか、まだ語るべきではないとか、探偵達は色々言いながらも一時は撤退しました。



 ある作家は言いました。


「王様は何かを書こうとしているのでは?それが物語か音楽か詩か手紙かは分からないが、何かお題を出されてアイデアが出なくて困っているのでは?」


 この意見は多くの作家の間で一時的にブームになり、『紙とペンと部屋とYシャツと私』『紙とペン・トンペとミカ』『紙とペントハウス』『紙とペンタックス』『紙とペンとじゅげむじゅげむごこうのすりきれ.かいじゃりすいぎょのすいぎょう…』という大喜利が始まり、『どうしていつもお前らはそうやって捻った考えをするんだ』という指摘で落ち着きました。



 そして多くの国民が悩んで悩みぬいた時、ある子供が言いました。


「○○って、丸が二つあるって事じゃないの?」


 と。


 それを聞いた国民はハッと気付きました。

 白い○が二つ並んでいるだけなのに、そこは何かを当てはめるのだと勝手に考えてしまっていた事に。

 王様はこれが穴埋め問題であるとは王様は示していません。

 自分達が勝手に紙とペンから連想する物を当てはめ、ああでもないこうでもないと唸っていたのです。しかも大喜利をしていた連中は完全に考えることを放棄して遊んでいました。

 勝手な思い込みはよくない。自分達が常識と思っている事を疑いなさい。物事を見るときは先入観を捨て、それその物をしっかり見据えるのが大事だと、王様にそう言われた気がしたのです。


 多くの国民が目から鱗を落としました。それはもうぼろぼろと目から鱗を落としました。

 それを見た先ほどの子供が『あ、みんなの目から○が二つも落ちた』と言ったので、更にハッとして(これが王様の言いたかったことか…なんて深いんだ……)と感動しました。


 国民達は気付いたのです。いつも変なお触れを出して国を騒がせる王様だけど、たった一つの文章でこれほどまでに国民の意識を改革させることが出来るのは王様だけなのだと。

 私達の王様はなんてすごい王様なんだ。だからこの国は長く繁栄しているのだろうと。




 次の日、国民全員が王宮の周りに集まり、一斉に王宮に住む王様に向けて答えました。


『『紙とペンと○○の○○は、○○です!!』』


 そしてそのまま王宮の周りでお祭騒ぎが始まりました。

 王宮の兵士達は急な事に驚いていましたが、これが悪い物では無くて逆に王様を称えるものだと気付くとそれに加わり、他の王宮で働いている人達も王様を称えました。

 国民はみんないい笑顔をしていて、王様を称えています。

 この国はなんて良い国なのでしょう。みんながそう思いました。





 王宮の一番上にある王様の執務室で、王様は国民の答えを聞いていました。


 『紙とペンと○○の○○は、○○です』


 それを聞いた王様は拳をぎゅっと握り、少し持ち上げてから机の上に降ろしました。目には涙が浮かんでいます。


「そういう事じゃなくて…カクヨム3周年記念選手権~Kakuyomu 3rd Anniversary Championship~(https://kakuyomu.jp/info/entry/3rd_anniv_campaign)の四日目のお題の『紙とペンと○○』(https://kakuyomu.jp/info/entry/3rd_anniversary_kac4)のアイデアが欲しかったんだよ…」


 王様は誰にも聞かれないように歯を食いしばりながら小さく呟きました。


 世の中、中々思い通りにはいきませんね。めでたしめでたし。

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