500cm

オブリガート

第1話

 松村亀太郎まつむらかめたろう。38歳、会社員男性、独身。


ドナルド・ダックワース。25歳、会社員男性、独身。


二人は同じ会社に勤めていた。


二人はベジタリアンだった。


二人はゲイだった。


二人は出会った瞬間恋に落ち、すぐに同棲生活を始めた。


そして、同じ屋根の下で毎夜のごとく愛のA、B、Cをおこなった。


それなりに幸せな生活だった。


が、同棲から一年が経ったある日のこと。


突然ドナルドは亀太郎にこう言った。


「アタシ、そろそろ子どもが欲しいわ」


しかし二人で子供を作ることはできない。亀太郎は養子をもらってはどうかと提案したが、ドナルドは頑なに首を縦に振ろうとしなかった。


どうしても自分の子供が欲しかったのである。


そこで二人は毎日神社に通い、神様に一生懸命お願いした。


「神様、どうかお願いします。私達に子供を授けてください」


二人が神社に通い始めて一か月が過ぎたある日のことだった。


ある朝目が覚めると、なんと居間の方から赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのである。


驚いて見に行ってみると、テーブルの上で生まれたての男の赤ん坊がギャーギャー泣いていた。


「アタシ達の子供よ!神様が授けてくださったのよ!」


ドナルドは感激し、さっそく子供に名前を付けた。


「アタシとあなたの子供だから、“カメドナ”にしましょう!」


「ああ、そうしよう!今日からお前はカメドナだ!」


二人はネーミングセンスがなかった。


「カメドナ~♪カメドナ~♪」


赤ん坊を抱いてあやしながら、亀太郎は言った。


「早く大きくなるんだぞ~!」


すると次の瞬間――――



ぐぅぅぅぅぅぅん!


なんと、赤ん坊がいきなり大きくなった。軽く2メートルは超えている。


カメドナは直立したまま、二人に向かってお辞儀した。


「お父さん、お母さん」


「しゃ…喋った…!」


「今までお世話になりました」


「えぇ?!まだ全然お世話してないのに…!なんでいきなりこんなに大きくなったんだ?!」


「魔法だよ。ボク、魔法が使えるんだ」


「なるほど、魔法か…じゃなくて――――なんでそんな魔法を使ったのかと聞いてるんだ!」


「だって、お父さんが早く大きくなれって言ったから」


「じゃあ、さっきの言葉は取り消す!カメドナ、もっともっと小さくなりなさい!」


「はーい!」


きゅうぅぅぅぅぅん。


カメドナは小さくなった。


「お…おい!カメドナ!どこへ行ったんだ?!」


「カメドナちゃーん!どこなのぉ?」


二人は床に這いつくばってカメドナを探した。


カメドナはフローリングの溝の中にいた。


「な…なんということだ!」


ものさしで測りながら、亀太郎は嘆いた。


「1ミリになっとる…!」


「だって、お父さんが小さくなれって言ったから」


「小さくなるにも限度があるだろ!中くらいの大きさになりなさい!」


「はーい!」


ぐぅぅぅぅぅぅん!


160cmになった。


「う~ん…まぁ、いいか」


「よくないわよ!」


今度はドナルドがカメドナに命令した。


「カメドナ、今の三分の一の大きさになりなさい」


カメドナは返事をしなかった。


「どうしたの、カメドナ。魔法で大きさを自由に変えられるんでしょ?」


「うーん…」


もじもじしながらカメドナは言った。


「あのね、ママ。僕、三回までしか魔法を使えないんだ」


「なんですって!!!」


「まぁ、いいじゃないか、ドナ」


「よくないわよ!こんな大きな子、ベビーカーに乗せられないわ!」


「いいじゃないか。この子はもう歩けるんだから」


「いやよ、いや!アタシは赤ちゃんが欲しかったのよ!こんな大きな子いらないわ!」


「そんなこと言うなよ。僕たちが育てなくて、誰がこの子を育てるんだ」


「あなたが一人で育てれば?アタシ、知らない」


ドナルドは家を出て行ってしまった。

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