500cm
オブリガート
第1話
ドナルド・ダックワース。25歳、会社員男性、独身。
二人は同じ会社に勤めていた。
二人はベジタリアンだった。
二人はゲイだった。
二人は出会った瞬間恋に落ち、すぐに同棲生活を始めた。
そして、同じ屋根の下で毎夜のごとく愛のA、B、Cをおこなった。
それなりに幸せな生活だった。
が、同棲から一年が経ったある日のこと。
突然ドナルドは亀太郎にこう言った。
「アタシ、そろそろ子どもが欲しいわ」
しかし二人で子供を作ることはできない。亀太郎は養子をもらってはどうかと提案したが、ドナルドは頑なに首を縦に振ろうとしなかった。
どうしても自分の子供が欲しかったのである。
そこで二人は毎日神社に通い、神様に一生懸命お願いした。
「神様、どうかお願いします。私達に子供を授けてください」
二人が神社に通い始めて一か月が過ぎたある日のことだった。
ある朝目が覚めると、なんと居間の方から赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのである。
驚いて見に行ってみると、テーブルの上で生まれたての男の赤ん坊がギャーギャー泣いていた。
「アタシ達の子供よ!神様が授けてくださったのよ!」
ドナルドは感激し、さっそく子供に名前を付けた。
「アタシとあなたの子供だから、“カメドナ”にしましょう!」
「ああ、そうしよう!今日からお前はカメドナだ!」
二人はネーミングセンスがなかった。
「カメドナ~♪カメドナ~♪」
赤ん坊を抱いてあやしながら、亀太郎は言った。
「早く大きくなるんだぞ~!」
すると次の瞬間――――
ぐぅぅぅぅぅぅん!
なんと、赤ん坊がいきなり大きくなった。軽く2メートルは超えている。
カメドナは直立したまま、二人に向かってお辞儀した。
「お父さん、お母さん」
「しゃ…喋った…!」
「今までお世話になりました」
「えぇ?!まだ全然お世話してないのに…!なんでいきなりこんなに大きくなったんだ?!」
「魔法だよ。ボク、魔法が使えるんだ」
「なるほど、魔法か…じゃなくて――――なんでそんな魔法を使ったのかと聞いてるんだ!」
「だって、お父さんが早く大きくなれって言ったから」
「じゃあ、さっきの言葉は取り消す!カメドナ、もっともっと小さくなりなさい!」
「はーい!」
きゅうぅぅぅぅぅん。
カメドナは小さくなった。
「お…おい!カメドナ!どこへ行ったんだ?!」
「カメドナちゃーん!どこなのぉ?」
二人は床に這いつくばってカメドナを探した。
カメドナはフローリングの溝の中にいた。
「な…なんということだ!」
ものさしで測りながら、亀太郎は嘆いた。
「1ミリになっとる…!」
「だって、お父さんが小さくなれって言ったから」
「小さくなるにも限度があるだろ!中くらいの大きさになりなさい!」
「はーい!」
ぐぅぅぅぅぅぅん!
160cmになった。
「う~ん…まぁ、いいか」
「よくないわよ!」
今度はドナルドがカメドナに命令した。
「カメドナ、今の三分の一の大きさになりなさい」
カメドナは返事をしなかった。
「どうしたの、カメドナ。魔法で大きさを自由に変えられるんでしょ?」
「うーん…」
もじもじしながらカメドナは言った。
「あのね、ママ。僕、三回までしか魔法を使えないんだ」
「なんですって!!!」
「まぁ、いいじゃないか、ドナ」
「よくないわよ!こんな大きな子、ベビーカーに乗せられないわ!」
「いいじゃないか。この子はもう歩けるんだから」
「いやよ、いや!アタシは赤ちゃんが欲しかったのよ!こんな大きな子いらないわ!」
「そんなこと言うなよ。僕たちが育てなくて、誰がこの子を育てるんだ」
「あなたが一人で育てれば?アタシ、知らない」
ドナルドは家を出て行ってしまった。
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