紙とペンと秘密の文通

もえすとろ

相手はいったい……?

皆さん、こんにちは

白院しろいん 稿紙わらしです

突然の告白ですが……

読書好きの俺は

入学して以来半年間ずっと図書室へ通っています。常連です

気分で借りて帰ったり、その場で読んだりして青春というものを浪費していて

実に高校生らしからぬ青春の1ページを刻み

実に俺らしい習慣を過ごしています




薄々感づいていると思うんだけど……

俺は人と会話するのが“若干”苦手だ

あ、でも、文字媒体なら普通に話しは出来るんだぞ?


その点、スマホには大変助けられているよ、ホント

日常的に文字でのやり取りが簡単に手軽に出来る、まさに神器!


そんなこんなで俺にとって図書室ってのは特別な場所なんだよ

筆談を違和感無く出来る貴重な場だし、声を出す事が憚られる静かで落ち着いた癒しの空間だ

ココに居る間は誰からも話しかけられることなく落ち着いて過ごせる

実に素晴らしい場所だ!スパシーバ!


と、ここまで俺の独白モノローグが熱くなっているのは原因わけがあるんだ

その原因っていうのが……



今読んだ本の貸し出しカードに一枚の紙切れ手紙が挟まっていたんだ

図書室の本に落書きを仕込むような悪戯が流行っているなら是非に止めていただきたい!

そう思って、誰が書いたのか突き止めるため内容を確認した


しかし、手紙の内容を読んだ俺はコレが悪戯ではないと確信した!

手紙にはこの本を読んだ真剣な感想と、次にオススメの本のISBNコードが書かれていたのだ

俺は思わず勢いよく立ち上がってしまったよ

そのせいで椅子がバタンッ!と音を立てて倒れてしまい委員会の人から厳しい目を向けられたけど

ペコペコと謝罪のポーズを取りつつ手紙に書いてあった本を探す

あまり知られていないかもしれないが、ISBNコードから出版した国、出版社、タイトルと全て分かるようになっているのだ、凄いだろ?

そしてコードによるとその本は


ISBN978-4-04-・・・・・・-・

978ー4……これからは日本の本である事が分かる

04……これは出版社を表しているんだが……どこだっただろうか

全てを暗記はしてない、というか出来ないし大人しく検索させてもらおう

ここには図書室内の本をNDCやISBNコードから検索できるPCが1台だけ置いてくれてある


こんな便利なモノを使わない手はない

検索欄に数字を入力しエンター!

出てきたタイトルは某大手ラノベレーベルの小説だった

まさか、ラノベだったとは……


さっそくラノベコーナーへ足を運び、驚愕し絶句した


そこには予想よい膨大な量のラノベが並べられていた

これは……探すのは一苦労だろう

タイトルの読みから凡その位置を見つけてそこから虱潰しにタイトルを確認していく

違う、違う、違う、違う……ん?なんだ?この分っ厚いやつ……良かった、コレじゃないな

例えおススメされたとしてもコレを読み始めるのは難しいだろう

……でも、今度借りてみよう


そして、幾つか気になるタイトルを見つけつつ検索結果に出ていた本を見つける事ができた


コレを読めばいいんだな……よし、一先ず定位置に着いて読み始めよう

いつも座る定位置に戻り読書を開始する

ふむふむ……ここでそうなるのか!

え!?なんでそんな事を!?

ペラリと夢中で頁を捲り気が付けば読み終わっていた……

くっ、続きが気になる!!

しかし、一先ずこの一冊の感想をしたためないとな

この熱い思いを込めてノートから1枚千切った紙へ書き込む




よし、こんなもんだろ

あとは……次は俺からおススメの本のコードを書かないとな

手紙の入っていた本とこのラノベはジャンルも何も共通点は無さそうだ

なら、本気で選んだ俺のおススメ本のコードを書いても大丈夫だろう

えーっと、たしかこの棚の……あったあった!

初めて読んだ時に鳥肌が立った推理モノだ

この本のコードを書いて

ラノベの貸し出しカードと一緒に入れて完成!

さて、あとは何食わぬ顔で本棚に戻せばミッション達成だ


特に怪しまれることもなく本棚に本を戻して、今日は帰る事にした

さて、次の手紙はいつ入ってるかな



翌日、俺はまたも驚愕することになる

いつも通り図書室へ行き定位置へ座る

流石にまだ読んでないだろう、そう思ったけど確認してみたら

そこには謎の女子(勝手にそう思っているだけ)の感想と次のコードが書かれた紙が入っていた

感想に目を通すと、しっかりと読み込んだと分かる内容だった

凄い、早すぎだろ!!

まだ一日しか経ってないのに!なんで熟読した感想が書かれてんだ⁉

まぁ、速読の達人なのかもしれないしな

それより次の本だ!

何々?うーん?前回とは全然違う系統の本だな?




そうして、俺と謎の少女(仮)との読書感想文の文通が始まったのだった

お互いにおススメの本を読ませ合って感想を交換し合う

そんな、ワクワクする文通が3か月ほど続いていた

ある日、俺は珍しく昼休みに図書室に来ていた

次のおススメ本を選ぶのに迷っていたから、昼休みの内に決めておこうと考えた

本棚の間を縫って歩く

すると、いつも俺の座ってる席に一人の女子が座っていた

別に指定席というわけじゃないから、他人が座ろうと関係ないがちょっと複雑な気分になる

その女子を物陰から見てると何やら必死にメモでも取っているみたいだった

可愛いストラップ付きのペンが忙しなく動き時折ピタッと止まり、またスラスラと書き始める

そして女子は書き終わると、メモを折りたたみ本の貸し出しカードと一緒に差し込んだではないか!!

顔は髪で見えなくてどんな子かは分からないけど、手に持ってる本には見覚えがあった

アレは俺が前回指定した本だ!

と、言う事はあの女子が……俺の文通の相手なのか


そこで俺は、気になってしまった

今までは俺並みか俺以上の本の虫ってだけで誰であろうと構わなかった

でも……いざ姿を見てしまうと、気になる

何年何組の誰なのか

彼女はきっと今までもずっと昼休みに本選びと感想文の執筆をしていたんだろう

だから俺とはバッティングしなかった

図書委員に聞けば誰か知ってるかもしれない……いや、止めておこう

確実に不審者だ


その後、俺は本選びもせずに教室へ帰り何か良い案がないか無い頭を捻った

そこで思いついたのは、愚策としか呼べないようなモノだった


放課後

図書室へ行き指定した本から感想文を回収し次の本を検索、本棚から取りいつもの席に座る

そういえば、彼女もここに座ってたな


いや、一旦忘れろ!

まずは読書が先だ!

指定された本はとても面白く次の頁次の頁と読み進めあっという間に読み終わってしまった

さて、感想感想っと……

やっぱり、これしか方法は無いかな

思い付いた愚策、それは感想文と一緒に彼女への質問を書いておくこと

例えば何年生か、何組なのか

そういった質問を一つだけ書いておく

もし、彼女から不興を買えばこの文通は終わる

だから、この策は賭けだ

俺の事をどう思っているかの、賭けだ

もし文通が途切れれば、俺の負け

彼女にとって俺はその程度の関心しかなかったということだ


でも

もしも!もしも、質問に答えてくれたなら……いつか直接会って話しができるかもしれない

まぁ、会話が苦手な俺じゃ話しかけられないかもしれないけど……


覚悟を決めて、感想文の後に

『あなたは何年生ですか?』と一言だけ質問する事にした

次のおススメの本は最初の頃タイトルが気になって一気読みしたラノベ


よしっ、帰ろう

本を戻して図書室を後にする





結果的にいえば感想文は書いてあった

そして質問の答えも

それは『ひ・み・つ でも君よりは先輩だよ』

と書いてあった

そうか、二年生か三年生かって事か

それとも俺より早生まれの同学年か?

でも俺の誕生日なんてほとんど誰も知らないはずだ

って事はやはり先輩、か


そして、次に書かれていたおススメの本は古典推理小説だった

実は一度読んだことのある本だった

でも、もう一度読み直す

先輩の期待に応えたい一心で



久しぶりに読んだソレは、うろ覚えだった所もあり若干新鮮な気持ちで読む事ができた

そして感想文には正直に読むのは二度目と書いて、二度読んだからこそ気づいた点をメインに感想文を書き上げた

感想文の後おススメの本を書いて、先輩への質問は……

『何組ですか?』にした

名前を直接聞くのは何か違う気がした

明日もまた感想文が来ると、そんな気がしていた



翌日も感想文はしっかり入っていた

そして質問の答えは

『ひ・み・つ 何でそんな事知りたいの?』

と逆に質問されてしまった


俺は正直に書くべきか迷った

会って話しがしたい……なんて、嫌がられると思う

今まで通りの関係のままの方が良い、そんな気もする

……でも、最初に質問したのは俺だ

って事は俺もちゃんと質問には応えないといけない、気がする

うあーーーーー!!どうしよ!!


悩みに悩んだ結果、誠実であるべき!という結論に達した

『先輩と直接話してみたいです』

これでどうだ!!

いつも通り感想文・次の本・質問を書いた紙を挟んで本棚に戻す




そのまた翌日

感想文の回収に行くと本が戻ってきていなかった

どうやら貸し出し中のようだ

先輩が借りるなんて珍しい事もあるんだなって関心していると

背後から突然肩を叩かれた

「おわっ⁉」

「しーーー」

「す、すいません」

「驚かせちゃってゴメンね。白院稿紙くん」

「あ、いえ……?あれ?なんで俺の名前」

「ふふ、何ででしょう?ここじゃアレだから、付いてきて」

「あ、ちょっと」

スタスタと先を歩く小柄な女子

あれ?この後ろ姿って……

階段の脇のスペースで立ち止まりクルリと振り返る

するとブレザーの胸ポケットに刺さってるペンに付いてるストラップがブラーンと揺れる

このストラップ付きのペン、そして後ろ姿……この人が!

「先輩、ですか?」

「うん。改めて自己紹介しよっか。私は3年2組、修本しゅうもと 朱美あけみ。よろしくね」

「修本先輩……」

「うん。いやー、それにしても、君中々大胆だね?」

「あ、えっと、その、す、すみません」

「今更緊張しないでよ」

「で、でも」

「私、……大好きなの」

「え……?」

「これからも、よろしくね!稿紙くん」

先輩は本を一冊手渡して颯爽と帰って行った



えっと……何が起きたんだ??

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紙とペンと秘密の文通 もえすとろ @moestro

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