子育てゲームで「ホテルへ行く」を頻発して全キャラ好感度MAXで転生したが、キャラクターからの扱いがおかしい件。

霜月二十三

第一話 ゲームと出会って好感度MAXにして、そして転生した件

 わたしは、不幸だ。妻や、もう十八になる一人娘は冷たいし、勤め先は残業・深夜労働が当たり前で、やらなかったらこっぴどく怒鳴られて終電がなくなるどころか、始発がくる頃まで働かされるし。

 そんなしがないおじさんであるわたしを救ってくれたのは、双子の息子達や、会社の後輩を育てたり、同僚などとコミュニケーションをとるスマートフォンゲームのアプリだった。

 会話を交わしたり、スキンシップを取ったり、プレゼントや小遣いを送ったり、日帰りで出かけたり、たくさん旅行や出張に行ったりとゲーム内で幸せな日々を過ごし、息子たちや後輩や同僚などの好感度がMAXになった翌日、わたしは、あのブラックな現実の会社から定時帰宅を許された。

 定時で帰れて嬉しい反面、明日もしかしたら会社をクビになるかもという恐怖に突き動かされ、わたしは会社の前の横断歩道を渡ろうとした。

 その時、クラクションが長く鳴り響き、わたしは今まで経験したことがないほどの強い痛みを感じ、意識を失った。



 気がつくと、わたしはリビングのソファーに座っていたが、ここはうちのリビングではない。

 うちのリビングはこんなに広々かつ、おしゃれじゃないし、窓からビルの夜景を一望なんて出来ないし、ソファーやクッションや足元にある絨毯は白くて清潔でふかふかだし、そもそもうちはマンションじゃない、一軒家だ。


 それになんだか体が少し軽いし、着ている服もスーツではなく、シンプルだが仕立てのいいスウェットだ。

 ズボンのポケットから着信音が鳴る。手に取ったスマートフォンの画面に表示されたのは知らない番号だったが、今の状況について話す相手が欲しかったので出てみた。


「ようこそ、こうじさん。貴方は三十五億人目のお客様です」

「はい?」

「間違えました。私は貴方をこの世界へ転生させた女神です」

 どんな間違え方だ……。というか女神? 転生? どういうことか聞こうとしたら自称女神の声が先行した。

「貴方は生前この世界ゲームのなかで生きる者たちと、主人公いまのそのからだを通し、心と身体を交え、あとは彼らと楽園エデンへ向かうだけ……けれども貴方は不幸にもそれを見る前に死んでしまった。そこで私が貴方をここへ転生させて今に至っているのです」

「は、はあ、けれど、なぜそんなことを……」

「貴方は妻からも一人娘からも見放され、主人公に自らの名前をつけて、この世界の者にほめられて、愛されて……幸福に思っていたでしょう? その幸福を直に味わってもらうべきだと思ったのです」

 直に……? 意味を聞こうとしたところ、電話が切れた。耳から電話を離し、黒い画面にわたしの顔が映った。ゲームの待機画面で何度か紹介されていた主人公の顔だった。

 年はわたしより六つ下の四十一歳……のはずなのだが、高めに見積もっても三十代前半ぐらいに見えるし、ダークブラウンのおしゃれなショートカットが違和感なく似合うし、男のわたしから見ても綺麗な顔をしている。


 しばらく自分の顔をながめた後、スマートフォンの電源ボタンを押してみた。このトップ画面、わたしがやっていたあのゲームのスマートフォン画面と同じだ。

 画面の一番左上にキャラクターの好感度やプロフィールが見られる連絡先一覧、その隣にプレゼントや愛石ラブストーンを買える通販アプリ、その隣に『操作説明とヘルプ』と書かれたアイコンに設定アイコン、そして連絡先一覧の下にスケジュール帳アプリがある。

 スケジュール帳アプリを起動してこれからの予定を確認する。

 明日は後輩のかおると出かけて、明後日は同僚で幼なじみのなつひこと泊まりで温泉へ、それが終わったら四月になるが特にこれといった予定は入っていない。明日の待ち合わせ時間は午前九時か。明日に備えて寝るとするか。

 家の構造が違う関係上、自分の寝室を探すのに少しだけ苦心したが、なんとかたどり着きベッドの掛け布団を自分の体にかけて眠った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る