恋のキューピッドは紙とペンとそれから

おおぞら

桜高マジックってホントですか

文化祭の準備中、仲良くなった男女が結ばれる―――

なんていう青春真っ只中な出来事は、「◯高マジック」とか「◯高イリュージョン」なんて名前を付けられて、女の子たちの間でキャーキャー言われているとかいないとか。

私が通う桜高校もその例に漏れず、名前だってそっくりそのまま「桜高マジック」って言われてるんです。全くもってけしからんです。そもそもそんな出来事はクラスの中心にいる陽キャな男女に限るっていう注釈付きであって、端っこにいる陰キャ眼鏡な私には関係ないんですよ。声を大にして言いたいです。言う勇気ないんですけどね。


そんな、準備に明け暮れる放課後の事でした。


いつものように、クラスの中心にいるような人たち――、悪く言えば陽キャの皆さんを中心に準備をしています。その他のクラスメイトも各々準備に取り掛かっている……と思いきや、放課後だからと我関せずで帰っちゃう人もいたりして。

かく言う私はというと、さっきも言った通りに陰キャ眼鏡なので中心にも入れず、かといって、はいサヨウナラと帰って冷ややかな視線を向けられる図太い心はないので、大人しく自分に割り当てられた仕事をひっそりとこなしていたんです。そのままずっとひっそりとこなしたかったんですけど、「土井さんって絵が上手だったよね」と普段は絶対に話しかけてこないはずのクラスメイト、柚木くんに話しかけられ、気が付いたら看板の絵を描くことになっちゃいまして。

しかしまあ、画材もあまりなく下書きもない状態からスタートはできないので、買い出しに行くことになり、柚木くんを中心に必要なものを考えることになりました。


「とりあえず、紙とペンとそれから……」


と、考える素振りを見せる柚木くん。よく見ると狼系のイケメンだなぁ、眼福。

なんて思わず見ていると視線が合う。見ていたのばれたかも、なんてあたふたしていると、


「土井さん? 後は何が必要かな?」


「え、あ、絵の具とか、筆とか、いろいろ必要だと思う……思います……」


急に話を振られて、思わず答えたけれどしどろもどろ。じっと見ていたのはバレてなさそう。セーフ。と、落ち着いたのも束の間、またもや爆弾が投下。


「だったらさ、一番いろいろ詳しそうな土井さんが買い出しに行ってきたら? その方が早いって!」


と一人の女子が言い出して、みんなもそれに賛成し始めます。確かその子はクラスの中心の方の子だったかな。まあその方が早いっていうのは建前で、本音は買い出しに行くのが面倒だから押しつけようって話だと思うんですけど。言い出した人も、賛成している人も上手くサボっていたのを見ていたので。

でもそんなこと言えないので、


「わかりま「だったら俺も一緒に行くよ」


一人で行くと了承しようとしたところに柚木くん。タイミングよすぎませんか?


そのあと、「柚木くんまでいいよ」「でも一人で行かせるのはよくない」と、女の子と柚木くんのやり取りがあったりしながら、結局私と柚木くんの二人で買い出しに行くことになりました。その途中で柚木くんは積極的に話しかけてくれるので、きまずくならずにいられます。いられるんですけど、


「土井さんって下の名前なんだっけ?」


「綾香だよ……ですよ」


「綾香っていい名前だよね、可愛い感じするし」


「私には似合わない名前ですけどね」


「そんなことないよ? ここにいる綾香も可愛い」


「ふぇえ!?」


そんなこと言われたら、平常心ではいられませんよ!?


だからですかね、”マジックにかかりたい”なんて思ったのは。



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