3LDK ~女子高生とストーカーの密室劇~

@junichi

プロローグ (読み飛ばしOK!)

「ふーん、ふんふんふーん……」


 黒いセーターとジーパン姿の痩身の男だった。右肩に背負う大きなナップザックがパンパンになっている。まるで季節はずれのサンタのよう。鼻歌交じりに、黒い四角い平べったい物体をテレビ台の裏に黒いガムテープで固定している。


 しっかりと固定したのを確認するとにんまりと笑った。生活感のある3LDKのマンションの一室。あたりには男以外に人はいない。一人暮らしのようだ。ベージュのカーテンの隙間から陽光が差し込んでくる。休日の午後に楽しい模様替えをしているようにも見えた。


「お客さん! もういいのかい! もう一時間も入ったまんまだろっ」

「…………」


 玄関扉の外。渡り廊下を挟んだ隣の住戸の玄関のドアをノックする中年男性のやかましい声が聞こえる。あまりの大きな声に、近隣住民も迷惑するほどの大音量だった。


「…………」


 男の手がぴたりと止まった。肩に背負ったナップザックにはまだ黒い同じものがたくさん詰まっている。男が止まったのは一瞬。すぐに動き出す。黒いガムテープをジジジっと引き伸ばして、ひたすら、黒い四角い物体を家具の裏に固定していく。


 ひとつを固定するごとに少し離れてから、男は満足げにうんうんと頷いてみせる。ひたすらその作業の連続。リビングには大きなセミダブルサイズのベッドが占領している。ピンク色の毛布。その上には男には似つかわしくない、ピンクのウサギのぬいぐるみがちょこんと陣取っていた。


 男の興味はベッドの上ではなく下。しゃがみこむと黒い四角い物体をベッドの裏に固定する。その時、ガタリと音がした。男はビクッとして、動きを止める。そのまま、おずおずと床を見下ろすと、彼自身のポケットから零れ落ちたスマホがあった。スマホの電源がついている。ホーム画面には眼鏡をかけた垢抜けない女の子の写真があった。

 背景は小学校の教室のよう。女の子も小学生のようだ。男はそれを一瞥するとまるで呆気に取られたように目を奪われている。スマホに手を伸ばす。そっとディスプレイを撫でる。その様はまるで、ディスプレイ越しに写真の女性に触れているようだった。


 フリックする。次に現れた写真は、夜中に制服姿の男女が手を組んで歩いている写真。遠くの方から撮影したよう。女性の顔や容姿は遮蔽物に阻まれてわからない。男の方は屈強な肉体と精悍な顔つきをしている。彼女に向かって笑いかけていた。男はすぐに我に帰ってスマホをポケットにしまう。立ち上がる。何かを確認するようにぎろりと辺りを見回すと、天井を見上げた。

 その時、また外から中年男性の声が聞こえてくる。


「お客さん! お客さん? ねぇ? 本当に生きてるの?」

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