第四章 日程と収入 (2)

 二日後、先に沙耶に真緒を預けてきた隆二は、待ち合わせ場所で円を待っていた。

 ぼんやりと人波を眺め、最近聞き慣れた足音に視線をそちらに向ける。交差点の向こうから、円が歩いてくるところだった。

 っていうか、あれだけ言ったのに、また高いヒールの靴を履いている。

「おまたせ。……ねぇ、足音かなにかで、私のこと気づいてた?」

 こちらに近づくのを眺めて待っていたら、目の前にやってきた円はちょっと顔をしかめて尋ねてきた。

「え? ああ」

 そりゃあ気づくだろう。こちらは人よりも鋭い五感を持っているし。

「そうよね。あなたは、変に思われるかもみたいなこと、気にしないわよね」

 なんだか苦虫を噛み潰したような顔で、一人納得している。

「何が?」

 とりあえず、褒められたわけじゃないのだけはわかった。

「こっちの話」

 だが円は説明しようとせず、肩をすくめるにとどめた。

「車、こっち」

「ああ」

 歩き出した彼女についていく。その際、ふっと思い出して、

「なあ、俺、楽しそうか?」

「はぁ?」

 怪訝な顔をして彼女は振り返る。そして上から下まで隆二を眺めて、

「今日も、大変つまらなさそうに見えるけど?」

 ずいぶん失礼な評価をくだしてきた。だが、隆二はそれに安心する。

「そうか」

 楽しそうに思われているのでなければ、それでいい。

 変なの、と首をかしげて、円がまた歩き出す。その少し後ろを黙ってついていき、

「あ、ちょっと待って」

 小さな本屋の店先で足を止めた。

「何?」

「ちょっと」

 言いながら財布を出し、

「百円玉、持ってる?」

 中身を確認して、円に問いかける。首を傾げたまま、円は財布を取り出し、

「一枚ならあった」

 それを隆二に手渡した。

「ありがとう。借りる」

「あげるわよ、百円ぐらい。ってか何、ガチャガチャ?」

 軒先きに数台並んだガチャガチャの機械。その一つに、隆二は自分の分と合わせて二枚の百円玉を入れる。

「美少女四字熟語シリーズ、ラバーストラップ?」

 書かれた文字を読んだ、円の語尾が怪訝そうに跳ね上がる。

 真緒の好きな特撮ヒロインものだ。この前スマホで見ていた動画も、これ関係のものである。

「真緒がこれ、全部揃えようとしてるんだ。だけど、うちの方ではもうなくって」

 ハンドルを回す。がこん、と音がしてカプセルが落ちてきた。

「中野にでも行けば、バラで売ってるんじゃないの?」

「ガチャガチャを中身わかっている状態で買うのは、夢がないからダメらしい」

 取り出したカプセルの中を覗き込む。それから、機械に貼ってある紙と見比べ、

「よし」

 小さく頷く。ここに載っていないもの、シークレットだ。ようやくこれで揃った。

「……なんかわかんないけど、よかったわね」

「ああ、ありがとう。……ついでにこれ、カバンに入れてくれると嬉しい」

 ズボンのポケットに財布とケータイをしまっているだけで、手ぶらの弊害がここに出た。

「はいはい」

 円がカプセルをカバンにしまう。

 再び連れ立って歩きながら、

「私、あなたの感情はイマイチ読み取れないんだけど、今は楽しそうだなって思うわ」

 軽く苦笑すると、円が言った。

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